第12話 3人で

「俺、そんなにカッコいい? 清人の視線が熱くて照れるんだけど」

 

 唐突に優斗が言うので僕は驚いて持っていたカップを落とすところだった。

僕はまた無意識にじっと優斗の顔を見ていたらしい。


「あなたは本当に自意識過剰ですよね。鼻の先にクリーム付けてるイケメンが珍しかっただけですよ、なっ、キヨ」


 千早が僕の手を気遣いながら言うと「えっ、マジで」と優斗は素直に鼻先を手で拭ってみる。しかし、元から付いてないので手ごたえがあるはずがなく、自分の指を見て首をかしげている。


 そんな優斗がちょっと可愛いなと思ってしまった。それにしても千早の気遣いは相変わらずで昔を思い出してくすっと笑ってしまう。と、同時に嬉しかった。


 今は男女別れてテーブルについてお茶をしながら話をしているところだ。女性陣はシュークリームを食べるところは見られたくないらしい。

 持って帰って食べたらいいのにと思ったけど茉莉子さんの入れてくれる紅茶が美味しいのがいけないと思う。


 僕は千早がすぐに優斗にツッコんでくれたので内心ほっとしていた。先ほどからの2人のやり取りを見ていてどうにも気になってしまっている僕は挙動不審に違いない。


 それにしたって、やっぱり二人は仲が良すぎだと思う。京子ちゃんが怪しんでいるような関係だったりして。いや、それってどういう関係なんだ? 千早がゲイなんて聞いたこともないし普通に女の子が好きだったはずだ。


 優斗のプライベートはよく知らない。話と言えばお菓子の事がほとんどで、教室ではたまに意地悪な事も言うし揶揄からかってくる。でも、優しい時も結構あって何だか分からない人という印象だ。


 僕はカップの中をぼんやり見ながらまた二人の事を考えている。と、ふいに、


「今から飲みに行かないか?」 優斗が沈黙を破った。


 これは千早を誘っているのだろう。僕は心臓がチクりとし、またカップを落としそうになる。顔を上げるのが怖くて下を向いたまま黙っていた。


「何言ってるんですか、こんな時間から」千早がとがめるように優斗に言う。


「こんな時間だからだよ。うちの店はもう閉めてるから貸し切りで飲めるぞ、

土曜の夜なんだから大丈夫だろ」


 優斗はしれっとして言っているが僕はふと疑問に思った。優斗ってお酒飲めるんだ? 下戸だとばかり思っていた。僕は顔を上げてそっと二人を見ると意外にもこちらに顔を向けていたので目が合ってしまい戸惑う。


 千早は僕に視線を残しながら、


「あなた、カクテル作れるんですか?」と、言葉は優斗に投げる。 


「作れるさ、いつもは作らないだけ」自信ありげに言う優斗に、


「優斗さんて小洒落たの作りそう、見てみたい」と僕は思わず口に出してしまう。


 すると、「いや、私が作りますよ」と千早がすかさず優斗を遮る。


 二人の間に何かバチっとしたものを感じたけど、僕の頭の中に華やかなカクテルが舞い降りてそちらの方に気を取られていたので気にしなかった。


「千早が作るの? それ飲んでみたい」と、今度は千早のカクテルに興味津々になる。


 バーテンとして雇ってもらおうとしたくらいだ、きっと美味しいに違いないと期待を込めた目で千早を見る。


 すると優斗はちょっとムッとして「俺の酒は飲めないのか」と、酔っぱらいのおじさんみたいなことを言うので、


「もう酔ってるんですか」と、千早が笑うので僕もつられてクスクス笑ってしまう。


「なんだよ、まぁいいか、清人が行く気になってくれたら俺はそれでいい」

 

 えっ、僕? 気を遣ってくれたのかな? もしかして、この状況で二人だけで飲みに行くなんて言うと変に思われるから僕も誘ってくれてるのか? 


 優斗の本当の気持ちは計り知れないけど僕も一緒に行っていいなら二人のカクテルを飲んでみたいと思った。


 なにより、優斗とも千早とも一緒に飲んだことがない。でも、二人とならきっと楽しいだろうと少し浮かれてしまう。



つづく 

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