第3話 モンブラン

 今回のモンブランは生栗から作ったので色は黄土色に近く味はあっさりしている。

濃い茶色にするには渋皮煮にしたものをペーストすれば出来るのだが、この渋皮煮が一筋縄ではいかない。

 なので趣味でお菓子を作っている人はケーキ屋さんでも使われているフランス産のモンブランペーストを使うことが多いと思う。少し値段は高いが手軽に手に入るからだ。


 僕は頭の中で次回作ろうと思うモンブランタルトに思いを馳せながら残りのモンブランを組み立てた。


 僕が作ったのは4個、1個はここで試食して残りは両親と妹のあいの分だ。今は深夜なので両親は寝ているが藍はきっと起きて待ってるだろうな。こんな夜中に食べたら体に悪いから明日にしろと言わなくちゃ。といいつつ僕は食べるけど。


 僕は後片付けをしようと使った道具をシンクに運ぶ。すると優斗が先に洗い始めた。


「清人さんは後片付けはいいからこちらで召しあがって」と茉莉子さんが紅茶を用意してくれている。


「いえ、僕も手伝った方が早く片付くし優斗さんに悪いので」


 優斗は年上だし苗字で呼ぶと茉莉子さんとどっちか分からなくなるので付けで呼んでやっている。茉莉子さんは先生と呼ばれるのが嫌みたい。


「いいから、お前はさっさと食っちまいな」と優斗はこちらを見ないでいう。


「優斗さんもこっちにきて一緒に召しあがれ」茉莉子さんがニコっと笑っていうと


「こんな時間に食べると美容に悪いのでやめておきます」と

 丁寧に断ってきやがった。僕は夜中に食べてもお肌つるつるだからいいんだよぉと心の中で舌を出す。


 この際、優斗は放っておいて僕は薫り高いアールグレイの紅茶を一口飲んでほっとしながら作りたてのモンブランをいただいた。


 バターが入ったモンブランクリームはこっくりと極上の味だ。


 真夜中に甘いスイーツを食す背徳感。クセになることこの上ない。


「美味しいです」


「うふふふ、それは何よりです」


 茉莉子さんは嬉しそうに、モンブランを食べている僕を見ていた。



 ふと時計を見るとあと15分で零時になる、もう帰らなければ。

僕は自分が使った食器を洗ってから帰り支度をした。


「おい、これ持っていけ」


 優斗がケーキBOXを差し出してくる。


「えっ、何?」


「俺が作ったモンブランだ、お前の母さんモンブラン好きなんだろ、

ラム酒が入ってないやつも食べてみるといいよ、やる」


 そう言って、優斗が僕にケーキBOXを押し付けた。僕は嬉しいのと驚いたので少しきょどったけど、茉莉子さんがうんうんと僕に頷くので遠慮なく貰うことにした。


「ありがとう」


「おう、じゃあな、気を付けて帰れよ」


「うん、また」


「気を付けてね、お休みなさい」


「はい、ありがとうございました。お休みなさい」


 外に出ると日中の暑さとは違い秋らしい涼しい風が吹いていた。月明りが優しくてこのままいい気分で歩いて帰っても楽しいかもしれないとバカなことを思う。


 ただ、ケーキBOXを2つも下げて深夜の街を歩くのはどう考えても変だし、乗ってきた車をどうすんだと冷静になり大人しく車で帰る。母さんと藍、喜ぶだろうな。優斗のやつ、いいとこあるじゃんとちょっと見なおした。

 



 住宅街を静かに車を走らせてできるだけ音をたてないように駐車場に入れる。

そおっと、玄関の鍵を開けて中に入るとリビングに電気がついていた。藍だな。


 案の定、藍がソファーに座ってスマホをいじっている。


「ただいま」


 僕が声をかけると、藍はスマホを見たままで


「お帰りなさい、ケーキは?」と聞いてくる。


「全部食べたからお土産はないよ」と、僕はわざと嘘をつく。


「ええっ、うそー」と藍はガバッと振り返って僕をみた。


 僕はケーキBOXを持ち上げながら


「嘘でした」と笑ってやる


「もう、お兄ちゃん、意地悪!」


 そう言いながら僕からケーキBOXを奪おうと立ち上がり


「あれっ、二つもあるの? 今日はお土産多いね」


「ああ、一つは優斗がくれたんだよ」


「優斗さんの手作りケーキ!!! うわー、食べる食べる食べる」


 なんだこのテンション、藍の喜びように腹が立つ。僕のより優斗の方がいいなんて、分かるけどさぁ、兄にも少し気を遣えよと思うのだ。


 藍は今年のバレンタインの前に一度だけ一緒に教室に参加したことがある。その時に優斗に会って以来、優斗が気になっているようだ。でも残念、優斗は茉莉子さんのことが好きだと思うよ。多分だけど。


 藍は2つのケーキBOXをダイニングテーブルの上に置いて早くも中を覗いている。


「モンブランだ~、美味しそう、絶対にこっちが優斗さんのだよね」


 僕も一緒になって中を覗く。するとそこには、ドーム状にこんもりと盛り上げたモンブランクリームの上に粉糖をかけた上品な逸品が鎮座していた。


「うわっ、優斗のやつ気取りやがって、僕だってこれくらい作れるしっ」


 悔しまぎれに僕が言うと藍はあはははと声を上げて笑う


「もう、お兄ちゃんったらムキになって、優斗さんはプロでしょ? ライバル意識持ったってダメダメ」


「別にライバル意識なんてないし」


「もう、いいから私食べたくて待ってたんだよ、一個貰うからね、もちろん優斗さんのやつ」


「はいはい、一個だけだぞ、こんな夜中にケーキなんて、太ったってしらないからな」


「大丈夫だもんね~」


 藍はとっておきのケーキ皿にモンブランを乗せ、横にこれまたお気に入りのティーカップに入れた紅茶を並べるとスマホで写真を撮ってから部屋に持って上がった。


 きっとこれからSNSに上げるのだろう。


 いったいどんなキャプションを入れるつもりなのか、後で覗いてやる。


 妹のSNSをチェックしてるとかちょっとシスコン入ってるかなと思うけど兄としてはいろいろと心配なのだ。




つづく

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