第6話 セクシープログラム

【登場人物】

井藤フミヒロ・・・主人公。不登校の中学二年生男子。

田網祢絵子・・・未来から来た美少女アンドロイド。通常は制服姿。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 *


「それじゃあ袮絵子さん。我が家だと思って過ごしてくれていいからね」


「お母様。ご理解いただき誠に感謝いたします」


「あらあら、そんなに堅くならないでいいわよいいわよ」


「承知しました。それでは若くてお美しいお母様も、これからは私のことはネーコちゃんとお呼びください」


「若くてお美しい??ちょっともうっ!ネーコちゃんたらっ!」


 という具合に、田網袮絵子はあっさりと我が家に受け入れられた。


 なぜそんな簡単に?


 どうやって説明したのかはわからない。

 ただ、夜遅くなって母さんが帰ってくるなり、ネーコは母さんを別室に連れていって二人きりで何やら話し込んでいた。

 その時に部屋の奥から、

「...円!?」

 と母さんの叫び声が聞こえたが、それ以外は何もわからない。


 しばらくして、ネーコとともに部屋から出てきた母さんは俺の顔を見るなり、

「我が家の家計は安泰だわ」

 ニッコリと満面の笑みを浮かべた。


 とにかく......。


 ここに今、美少女アンドロイド田網袮絵子との共同生活が正式にスタートしたのである。


 *


 翌朝。


 目を覚ますと、俺は仰向けのまま天井を見つめた。


(き、昨日のことは、本当のことだったんだろうか......?)


「昨日のこと」とは、言うまでもなく未来からやって来た美少女アンドロイドのこと。

 田網袮絵子は母さんとの話を済ませたあとは、あてがわれた部屋へ入っていったっきり出てこなかった。

 なので、それまでの騒がしさがまるで嘘のようだった。


(アイツ、部屋でひとりなにしてんだろ......)


 ちなみに我が家は一軒家で、現在は俺と母さんとの二人暮らし状態。

 ちょうど二階に使っていない部屋があり、そこが袮絵子部屋となった。


「......今日はもう起きるか。いつも母さん、せめて早起きだけはしとけってうるさいし」


 俺は布団を剥ぐと、むくりと上体を起こした。

 と同時にギョッとする。


「あ、おはようございます。フミヒロ様」

「えっ、えええ??」


 なんと、俺の布団に艶やかなランジェリー姿の袮絵子が横になっていた。


「な、ななななにしてんの!?」

「何もしてませんよ?それとも、ナニかしたいのですか?」


 彼女のなまめかしい姿に俺はゴクンと唾を呑み込んだ。

 袮絵子は続ける。


「ナニ、しますか?」

「えっ、あの、え?」


「ナニ、シタいのですか?」

「いや、あの、えっと」


 俺の視線は否が応でも彼女の肢体を舐めるようにたどっていく。

 豊潤な胸元をハッキリととらえた時には、

(こ、この世には、本当に谷間というものが実体として存在したのか!?)

 と感動さえ覚える。

 

「ナニを、シテほしいのですか?」

 袮絵子は止まらない。


「その、あの、えっと......」


「ナニを、どうシテほしいのですか?」


「お、お、お、おおおおまえはアンドロイドだろぉ!」


 俺は欲情を振り払うように布団から飛び出した。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 押し寄せる雄獣ほんのうに打ち勝った俺は肩で息をする。


 とその時。


「ミッションコンプリ〜ト!!国家救済に一歩前進!!」

 突然、体にシーツを巻きつけたネーコがベッドの上に勢いよくピョンと立ち上がった。


「ね、ネーコ??」


「おめでとうございます!フミヒロ様!」


「な、なに??」


「セクシープログラム、初のクリアです!」


「は、はい?」


「セクシープログラムとは、私の色仕掛けに理性を持って耐える試練です!」


「セクシープログラムってそういうことだったの??」


「こうして思春期の頃から理性をもって耐えることを学び、理性を鍛えに鍛え、将来のハニートラップに引っかからないようにする。これがセクシープログラムの目的です!」


「そ、それって」


「なんでしょう?」


「むしろ歪むんじゃないか...?」


「そんなことはありません」


「で、でも!」


「それに、しかるべき時が来たら『次の段階』に進むことを許可します」


 袮絵子はシーツをはらりと落とすと、胸部と下腹部を手で隠すようにしてややカラダをくねらせた。

 俺は目を見開いて釘付けになり、『次の段階』を想像して胸を熱くする。


「それではフミヒロ様。歯を磨いて顔を洗って朝食を済ませましょう。不登校でも朝は朝です。私も着替えて下に行きますから」

 

 急に切り替わった袮絵子は、母さんみたいにマトモな事を言ってからそそくさと部屋から出ていった。


「......」


 部屋にひとりになる。

 とりあえず俺は「ス〜ハ〜」と深呼吸する。

 本当はさっさと洗面所に行きたいのは山々だが、熱くなったものを冷まさなければならない。

 

「中二男子には、刺激的すぎる......」


 これからはこんなことが毎朝続くのか?

 明日も楽しみ......じゃなくて!

 そもそも相手はアンドロイドなんだぞ?

 そうだ!

 田網袮絵子はアンドロイドなんだ!

 機械なんだ!


「とにかく落ち着け!俺!冷めろ冷めろ冷めろ冷めろ......なんかてっとり早く冷ます方法......そうだ!無関係なことを考えるんだ!無関係なこと無関係なこと......」


 俺はう〜んと唸りながら頭の中で必死に考えた。


H:水素

He:ヘリウム

Li:リチウム

Be:ベリリウム

B:ホウ素

C:炭素

N:窒素

O:酸素

F:フッ素

Ne:ネオン

Na:ナトリウム

Mg:マグネシウム

Al:アルミニウム

Si:ケイ素

P:リン

S:硫黄

Cl:塩素

Ar:アルゴン

K:カリウム

Ca:カルシウム


 最近勉強した元素記号を......。


「......うん。おさまったかも。よし!歯磨いてこよう!」


 本日も自宅警備員の俺は、無駄に気合いの入った顔つきで部屋を出ていった。

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