第7話、桃太郎、かぐや姫の探し物を知る


「そういえばさ、オレは転生だけど、カグヤはどうなんだよ?」


 冒険者ギルドのある町へ行く道中、オレはカグヤに問うた。


「この世界で冒険者やってるってことは、あんたも転生?」

「……うーん、まあ、転生といえば転生かなぁ」


 カグヤは天を仰いだ。


「前世を知っているあなたなら、話してもいいか。……この世界にも月はあるじゃない? 私はそっちに転生したんだけど……」

「この世界の月にも月面人いるのか!?」


 いや、前世には月面人がいたなんて話はなかったんだけど。


「まあ、そうなんだけど、ちょっとした事情ってやつで、こっちに来たのよ」

「へぇ、どんな事情?」

「話すと思う?」

「もったいぶるなよ。それとも話せない内容なのか?」

「んー、どうしよう、かなぁ……」


 思わせぶりな横目で、カグヤはオレを見た。変にもったいぶるのは、案外大した事情とかないんじゃね……?


「桃ちゃんが冒険者になったら、私とパーティーを組んでくれるって言うなら……教えてあげてもいいわよ」

「いいぞ」

「即答!?」


 カグヤが吃驚した。ノータイムで返事したことで、彼女の虚をつけたようだ。内心ニヤニヤだ。


「どうせ、冒険者になったら、適当に仲間探していたかもしんないし、話の分かる先輩同業者捕まえたんだから、そっちのほうが一から探すより話がはぇーし」


 そもそも冒険者になりたて女が、仲間を探すって、十中八九、面倒な手合いとの接触が避けられないと思う。下心丸出しな変態野郎とかな。そんなのより、すでに冒険者をやってるカグヤのほうが百倍マシだ。


「あなたって、結構強引なタイプ?」

「即断型と言ってくれ」


 ニヤリとしてやれば、カグヤはため息をついた。


「ま、いいわ。腕のいい前衛がほしいし、私の魅了に耐える同性なら、なおのことね」


 いま、さらりと魅了とか言ったか? そういやかぐや姫って、竹取物語でも、色んな男に惚れられて大変だったんじゃなかったっけ? 天然ド・チャーム女。……なるほどねぇ、無意識に異性を惑わす能力を垂れ流しているのかもしれん。


「おう、前衛は得意だぜ」


 前々世でも前世でも、魔法ってやつには縁がなかったからな。こっちの世界じゃ、魔法はあるし、普通に魔術師もいる。


「で、事情は話してくれんの? パーティー組んだら、教えてくれるんだろ?」

「うーん、まあ個人的なことなのよね。ダンジョンを巡ってお宝を探すってだけの……」


 冒険者としては普通だな。魔物退治も仕事のうちだけど、ダンジョンと呼ばれる場所の探索やお宝探しも、冒険者の領分だ。


「それが、わざわざ月面人が、この星にやってきた理由になるのか?」


 ちょっと無理なくね?


「ある特定のモノを見つけないといけない、となると、わざわざこの世界に来た理由になるのよ」

「あー、月にはないものってことか」


 それなら仕方ない。しかし、かぐや姫ともあろう者が一人で、冒険者業をやって探しているモノとは何だ? 月面人の高貴な生まれなんじゃなかったっけか、この人。手下とか使えないのか。


「正直バカらしいと思うかもしれないけど、私、前世で呪いをかけられたみたいなの」

「呪い?」


 竹取物語にそんな話あったっけ? それとも月に帰った後か?


「幸せな結婚ができない呪い」

「は……?」


 えーと、ごめん。どういうこと?


「前世で、地上にいた頃、私はとある五人から求婚されたのよ。……その辺り、もしかして知ってる?」

「あー、あったな、そんな件。名前は思い出せないけど、あれだろ、ありもしないモノを言って、それを持ってきたヤツと結婚してやってもいいぜ、ってやつ」

「うわ、なにその上から目線の傲慢女みたいな私……」


 物凄く嫌そうな顔をするカグヤ。


「なくはないのよ。でも、まああの世界では手に入らないものだった……かもしれない」


 それってあれか。かぐや姫自体は、本当に存在しているモノを提示したつもりだったが、月面人の感覚で言ったために、あの世界にないなんて思ってなかったってオチか? お断りに都合のいい理由作りではなく、本気で探して見つけてきたら、本当に結婚してもいいって考えていたとか。


「……お前って、結構いいヤツ?」

「あら、私はいい人よ。失礼ね」


 カグヤは腰に手を当てて、拗ね顔を作った。……あざとい。


「で、呪いって、もしかしてそのお断りした五人のうちの誰かにやられたって? お前を恨んで、結婚できないようにって」

「おそらくね。誰の仕業かは知らないけど……。ただ、そいつの呪いのせいで、幸せになれないっていうのは、さすがにあんまりだと思わない?」

「自業自得……とは言い切れないもんな」


 かぐや姫的には、あると思って条件を出したわけで、それを果たせず呪われては、逆恨みだもんな。


「んで、探しているお宝っていうのは、ひょっとして――」

「『仏の御石の鉢』『蓬萊の玉の枝』『火鼠の裘』『龍の首の珠』『燕の産んだ子安貝』」


 カグヤは列挙した。あー、やっぱり、それ? 五人の結婚希望者たちにそれぞれ出した条件の品。竹取物語では、それを男たちは見つけられなかったんだ……。


「……この世界には、それがあるのか?」

「あると思うんだけど、ないかもしれない」

「おいおい、ないんじゃ駄目じゃね」

「まあ、話を聞きなさい。そこでダンジョン探索、そしてそのお宝よ」

「どういうことだ?」

「ふふ、この世界のダンジョンのお宝はね、正直用途のわからないガラクタの場合もあるのよ」


 ガラクタぁ? それってお宝じゃなくね?


「でも、それはこの世界では価値がわからないから、というのもある。というのもね、ダンジョンのお宝は、ここではない世界、つまり異世界の品も混ざっているのよ」

「それは……つまり?」

「つ・ま・り! この世界にないものも、お宝として見つかるかもしれないってことよ!」


 カグヤが言った、あるかもしれないがないかもしれないものも、ダンジョンのお宝の中にあるかもしれないということだ。


「わかった? これが私がこの世界で冒険者をやっている理由よ。そして――」


 ズイっ、とカグヤは魅力的な顔を近づけた。


「私とパーティーを組んだら、あなたにも手伝ってもらうわよ?」

「あぁ、まあお宝と聞いたらやるけどさ」


 それに対しては、別に嫌じゃないからいいんだけど。


「ダンジョンのお宝って、割と変?」

「そうねぇ……。ちゃんとお宝というお宝もあるけど、さっきも言った通り、こっちじゃ価値のわからないものもある。ただ、超レアものであることには違いないわ」


 そこで、カグヤは笑った。


「面白いのは、この世界にはない別世界のお菓子やフルーツ、食べ物が宝物として出てくることがあることね。何かしら不思議な効果があったりもする――けど」

「この世界にはない食べ物、だとっ!?」


 オレは瞬時にカグヤに顔を近づけていた。あまりに急だったせいか、彼女はビックリしているが構わず言った。


「それは、『桃』もあるのか?」

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