第6話、桃太郎、昔話をする
「――でー、名前、どう呼んだらいい?」
「んー、好きに呼んでいいわよ。カヤ・メンテスでも、カグヤでも」
オレの問いに、魔女っ子美人は笑みを絶やさなかった。
「私は、桃ちゃんってあなたのことを呼ぶから」
「ももちゃん?」
「だってー、桃太郎って男の子の名前でしょう? 前世はともかく、今は女の子なんだから、桃ちゃん! 決まりぃ!」
割とノリがいいんだよなぁ……。
「じゃ、オレはあんたのことを、カグヤって呼ぶわ」
「りょーかい。よろしくね、桃ちゃん」
「……」
陽キャのノリだなぁこれ。前世のオレは、あんま接点なかったけど。それはそれとして――
「前世はともかく、前々世の桃太郎の名前をもらった時は、女だったんだけどなぁ」
「そうなの?」
カグヤはキョトンとする。
「太郎って、普通男じゃないの?」
「普通はそうなんだけど……。オレが生まれた頃の話になるんだけどさ。鬼が可愛い女の子を狙ってさらうってのが割と多かったんだと」
「自分で可愛い女の子とか言うんだ」
「そこはツッコムところじゃないって。……まあ、女の子の誘拐が多かったから、男の子の名前をつけて、オレを守ろうとしたんだって」
ちなみに、前世で勉強したところによると、子供に変わった名前をつけて、悪魔や災いから守るって風習は、外国でも割と見られる話。
「じゃあ、桃太郎の時から、女の子だったの?」
「そう言ったよな」
「ふーん、あなたは後世で昔話になるほどの有名人になるんでしょう? 女なのに男の名前って、変とか言われなかった?」
何気に酷くない、その言い回し? いやまあ、ねぇ――
「前世だと、何でか桃太郎って男の子になってたんだよなぁ……」
「あら、男の子になってたの?」
「うーん、まあ、男の名前だし、昔話って伝承だから、性別のこと触れなかったら、名前から連想して男だと思ったんじゃね?」
「そりゃそうよね。太郎なんて聞いたら、『女』なんて思う人はまずいないわよねぇ」
クスクスとカグヤは笑った。
「それでー。前々世は桃太郎(女)だった桃ちゃんは、前世は男だったんだっけ? その時の名前は?」
「桃園 太一郎」
「あ、これは男の子の名前だ。しかも何気に桃太郎の字が入ってる」
「そうなんだよな。生まれ変わりが因縁ありそうな名前で、オレもビックリしたわ」
数百年後の日本に転生して、運動はできたけど、しがないサラリーマンなんかやったりして、凡人の生活を送った。鬼もいなかったし、平和だったんだ。現代って言われたりしたけど、そっちの知識もある。
「まあ、桃太郎が男の子ってのは百歩譲ってもいいけどさ。後の歴史でオレが悪人みたいな風潮になったのは、ちょっと頭にきたわ」
「そうなの?」
「鬼が分捕ったお宝を持ち帰ったことがさ、めっちゃ悪いことみたいに言われてさぁ。鬼退治はともかく、宝を強奪とか――ああ、うっぜえ! 取り返してきただけで泥棒みたいに言いやがって! 何が強奪だ! 事情も知らねえ奴が、勝手に解釈して文句垂れるなよな!」
「あらあら、相当お怒りねぇ。こっちの世界じゃ、別に普通のことなのにねー。……あー、よしよし」
カグヤが俺の頭を撫でてきた。
「よしよしはやめろ。恥ずいし」
「それでそれで、私のお話は後世にどう伝わっていたの?」
「ん? 光る竹から出てきたあんたが、色んな男を惑わしながら、突っぱねて、最後は月に帰ったって話だろ」
前世じゃあ確か読んだのがそんな内容だったと思う。月面人、つぇーって思った印象は残ってる。
「なんか、凄く適当じゃないそれ?」
「昔話なんて、こんなもんだろ?」
「そうじゃなくて、あなたが凄く適当に読んだんじゃないって話!」
「そっちか。前世のガキの頃は、ガチで男の子だったから、女の子メインのお話って少女漫画みたいで、ちょっと遠慮したんだよなー。大人になったら、昔話なんて読まねぇし」
「……」
「で、どうだったんだ?」
「何が?」
「その竹取物語って昔話。本当のところは?」
「大体あってるんじゃない?」
「適当じゃね?」
「だってあなたの説明が適当だもの。もう少し細部を語ってくれたら、違いもわかるんでしょうけれど、大雑把な説明じゃ大雑把な答えになるわよ!」
「それもそうか……すまんな」
「まあ、別にあなたが謝ることでもないんだけど」
駄弁りながら、オレは、カグヤと街道を移動中。まさか異世界で転生した日本人に会うとはなぁ。しかも昔話になる有名人! オレ自身、桃太郎の転生だってこともあるけど、すっごい確率じゃね?
「それで、桃ちゃんは、冒険者になるんだっけ? 何なら近くの冒険者ギルドとか、案内してあげようか?」
「マジかよ。前世じゃ、異世界の冒険者ギルドなんて、物語の話だもんなぁ」
こっちの世界で冒険者ギルドが実在するという話は、お嬢様時代に知っていた。だが、直接行ったことはない。侯爵令嬢が行くような場所じゃねーからな。……つーか。
「その口ぶりだと、カグヤって冒険者か?」
「ご名答。一応、ランクはD」
ちら、とネックレスにして下げている冒険者証を見せてくれた。かぐや姫が、異世界で冒険者やってるって、オレのいた世界だったら誰が信じる?
「Dぃ……? それ、あんま高くねえんじゃね?」
実際、どのレベルなのかわからないが、よくある異世界モノでの冒険者で言ったら、真ん中か、それより下って印象だ。
「仕方ないでしょう? あまり目立たないようにやってるんだから。わざとよ、わざと。本当なら特AやSランクくらいはあるわ」
「……本当かなぁ?」
竹取物語の月面人は、不思議な力を持ってたし、そうかもしれないけど、カグヤもそうなのかって言われると疑問だ。そもそも、姫だし。
「それより! 桃ちゃんは何で冒険者になろうと思ったの?」
「ん?」
「だって、桃ちゃんって強いんでしょ? もうとっくに冒険者やってそうな歳なのに、どうして今なのかなーって思って。結構、身なりいいよね、あなた。ひょっとして、どこぞのお嬢様だったり?」
鋭いなあ。そこらの田舎娘には見えないってことか。まあ、服とか、野外活動に向いたものに変えたとはいえ、ちょっといいものだってのはわかるか。
「まあ、家を飛び出してきた、ってのは本当だ。だけど、やっぱオレは腕っぷしのほうが自信があるし、向いていると思うんだ。前々世でそうだってけど、たぶん冒険者みたいな職業、オレの天職だと思う」
鬼殺しの桃太郎。鬼や魔物と戦い、それを打ち負かし、報酬を得る。前世の現代日本より、こっちの世界の流儀のほうがオレには合っている。
「いっちょ、国一番の冒険者ってやつを目指してもいいかもな!」
「大きくでたわね。……いいわね、私、そういうの好きよ」
カグヤは、にっこり微笑んだ。ふわ――前世のオレがまたグラついた。前々世のオレがなければ、こいつに落とされていたぜ……。
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