第6話 鉱山に巣食う影①

 全ての準備を終えたレピスはオリクト鉱山の入り口の前に立っていた。

 オリクト鉱山が放つ不気味な威圧感にレピスは気圧される。

 杖を握りしめ震えるレピスに気付いたゴー君はレピスの足をつつく。

「な、なに?ゴー君……」

 降りむくとゴー君は無言で拳を突き出していた。

 レピスはキョトンとした表情を浮かべるが、ゴー君の意図を感じ取り屈む。

「そうだね、ゴー君と一緒なら大丈夫だよね。」

 こうして拳をコツンと合わせたゴー君とレピスはオリクト鉱山の中に入っていった。

 ◆

 鉱山内にはランプが設置されているものも、給油されていないのか灯りが小さく心もとない。

 足元には壁から漏れ出た湧水が流れ、気を付けないと足を滑らせそうになる。

 不気味に静まり返った鉱山内をレピス達は進む。

 どれぐらい進んだ時だろうか、レピスがバランスを崩して、壁に手をつくと粘着性のあるナニかが手に付着した。

「これは……蜘蛛の糸?」

 手に付いた粘着性の糸はもうそこがマインスパイダーの縄張りだということを否応なしに知覚させられる。

 マインスパイダーの痕跡を見つけたレピスは気を引き締めてさらに奥に進んでいく。

 奥へと進むほど坑道を覆う糸の量は増え、ランプの灯は消えかかっている。

 光りを放つ魔法で坑道を照らし、蜘蛛の糸に足をとられそうになりながらも坑道の奥へと歩を進める。

 暫く進んだところでその足が止まる。

 レピスは杖を手に取り臨戦態勢を取り、ゴー君も拳を構える。

 坑道を覆う闇の中からそれは現れた。

 赤色に怪しく光る八つの目、黒鉄色の外骨格に毛深い8本の足を携えた、人間の子供ほどの大きさのマインスパイダーが目の前に立ちふさがる。

 両者が睨み合い静寂が流れる。その静寂を切り裂きマインスパイダーが動く。

 マインスパイダーは鋼鉄並の強度を持つ糸を大量に吐き出し攻撃する。

 レピスは後方に飛び退き、ゴー君が前に飛び出した。

 ゴー君はそのままの勢いでマインスパイダーに殴り掛かる。

 鉄を殴ったかのような音が坑道内に響き渡る。

「──────っ!」

 ゴー君は手を痛めた時のような挙動をしながら距離を取る。

 一方マインスパイダーは多少のダメージはあるようだが、直ぐに立ち直る。

 マインスパイダーはその名の通り鉱石類を摂取し、その外骨格をより強固な物へと発達させていく。

 故にシンプルな物理攻撃は効きづらく威力の高い魔法攻撃が必要となる。

 マインスパイダーは何かを感じ取り、標的をレピスに定めて飛びかかる。

「炎よ──っ!」

 炎の弾丸がマインスパイダーを貫いた。

 マインスパイダーは地に落ち、暫し痙攣をしたあと事切れた。

 マインスパイダーの死骸を見てレピスの疑問は確証に変わる。

 やっぱりこのマインスパイダーは幼体!もう繫殖を始めているんだったら早くしないと……!

 レピスが立ち上がり、坑道の奥へと足を踏み出そうとした時だった。

 坑道を奥から無数のマインスパイダーが現れたのだ。

 もうこんなに生まれたの!?でもさっきの個体より小さい……だったら!

「ゴー君!行くよ!」

 ゴー君は頷きレピスと共に駆け出す。

 二人は息の合ったコンビネーションで無数のマインスパイダーを蹴散らしていく。

 無数のマインスパイダーは先ほどの個体に比べると成熟していないのだろう。

 マインスパイダーの群れはゴー君の一撃で粉砕され、坑道のシミとなる。

 後方ではゴー君が倒し損ねた固体をレピスが焼き払っていく。

 マインスパイダーの群れの掃討を始めてどれぐらいたったのだろうか、マインスパイダーの個体数も減ってきていた。

「ゴー君!最後の一匹をお願い!」

 ゴー君が最後のマインスパイダーを倒し二人は一息つく。

 レピスは買っておいたマナポーションを飲み、次に備える。

 そして幾ばくかの休憩を終えた二人は坑道の奥へと進んでいく。

 未だに見えぬマインスパイダーを見据えながら。

 ◆

 坑道を進んでいると坑道全体が小さく揺れた。

 その揺れは連続的に発生し、徐々に揺れは大きくなり最早立っていられないほどの揺れになっていた。

 レピスは地面に体を低くしながら落石などを防ぐために上方に防御魔法を展開する。

 揺れはしばらく続きいた後、徐々に収まっていった。

 レピスは周りを確認した後に防御魔法を解いて立ち上がる。

 ローブについた埃を払い歩き出そうとしたその時だった。

 足元にひびが入りぽっくりと大きな穴が空く。

 さっきの揺れのせい────?

 突如として開いた巨大な穴に呑みこまれ落下していくレピスは咄嗟にゴー君に声を掛ける。

「ゴー君!着地お願い!」

 ゴー君は頷くとレピスの手を掴み、抱え込む。

 レピスは魔力の障壁シールドを張り衝撃に備えた。

 数秒後、凄まじい音が鳴り響き、土煙が洞窟内を満たす。

 土煙が晴れ、洞窟に静寂が戻った後、レピスは障壁シールドを解く。

 レピスが魔法で光を灯し周りを見渡すと、そこは至る所に鉱石が露出している広大な空間で、上方は暗く全貌は見えない。

「まさかこんな空洞があるなんて……。」

 大空洞を歩いていると、何かを蹴とばす。

「……?なんだろう、コレ……」

 レピスは蹴飛ばしたナニカを持ち上げる。

 それはひしゃげ、傷付いて一瞬判別がつかなかったが確かにそれはアーメットだった。そしてそのアーメットに刻まれた紋章に見覚えがある。

「この紋章はマディシア騎士団の……まさか!?」

 レピスが辺りを見渡すと、周囲に鎧の破片やひしゃげたチェストプレートらしきものが散乱していた。

 その散乱している破片には血のような物が付着している物もある。

 明らかに異様な光景に、レピスの脳裏に一つの考えがよぎる。

 もしやここはマインスパイダーの餌場なのではないか?その答えはすぐに見つかった。

 レピスは大きな岩に括り付けられた騎士団の遺体を見つけてしまった。

 周囲をよく見ると他にも獲物を括り付けていたであろう跡がある。

 レピスがより一層に警戒を高めた時だった。

 遠くから微かに物音がした。

 レピスは物音がした方向へと警戒しながら近づいていく。

 一歩、また一歩と近づいていくと大きな岩の柱へとたどり着く。

 その岩の柱の後ろでなにかが動いている。

 レピスは杖を握り意を決して飛び出し、杖を向ける。

 向けた杖の先には立派な鎧を身に纏った騎士が括り付けられていた。

 騎士はレピスを見ると否や助けを求める。

「き、君!すまないがこの糸をどうにかしてくれないか!?」

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