第4話 鉄鋼の街スディラス

レピス達はエルーク街道を通りスディラスに辿り着いた。

 オリクト鉱山から産出される鉱石は良質な物が多く、特に鉄鉱石はマディシア王国騎士団の装備に使われるほどの物だ。

 その膨大な鉱石資材を集め、交易や加工などを行うために作られた街がスディラスである。

 そのため、街中に加工場や工房から漏れ出す熱気や加工音、商人などの声が溢れる活気ある街なのだが、

「思ったより静か……何かあったのかな?」

 街は静まり返り、待ちゆく人もどこか表情が沈んでいる。

 レピスは工房の前で溜息をつきながら空を見上げる男性に話しかける。

「あのー……ごめんなさい、少しお話を聞いても大丈夫ですか?」

「あ、ああ……構わんよ、何もすることが無いしな。」

「えっと、そうですね。街全体が静かなのですが、何かあったんですか?」

 男性はその質問に浮かない顔で答える。

「……ある時から採掘場にモンスターが現れる様になってな……、普段ならば駐在している騎士達がなんとかしれくれるんだけどよ、ソイツがえらく強くてな、駐在の騎士達では敵わなかったらしいんだとよ。それで王国から別の騎士様が来てくれたんだが、その騎士様も鉱山に入ったきりで音沙汰がなく、痺れを切らした鉱夫の若い連中も潜ったきり戻ってこなくてお手上げ状態なんだよ。このままじゃ鉱石は取れないし、それを加工してる俺たちも商売あがったりだぜ。」

 男は溜息をつきながら元気なく笑う。

「そうだったんですね……お話を聞かせて頂きありがとうございます。」

「ああ、それと嬢ちゃん、詳しい話を聞きたいならこの街の中央セントラルギルドを尋ねるといい。鉱山の立ち入り許可証なんかもそこで発行されてるからな。」

「重ね重ねありがとうございます!」

 レピスは頭を下げ礼を言うと、中央ギルドに急ぐ。

 聞いた話によるとこの街は主に鉱夫などが中心になって出来た鉱員ギルド、職人などが中心になって出来た鉄工ギルド、そして商人達の商人ギルドの三つのギルドがあり、その三つのギルドを統括し、管理しているのが中央セントラルギルドらしい。

 中央セントラルギルドに着いたレピスはまずは受付の女性に話を聞くことにした。

「シデロ鉱山への立ち入り許可証ですか?発行は出来ますが、……今は近寄らない方が無難ですよ?」

 受付の女性はそう言いながらも手続きを進める。

「聞いたかもしれませんが、今オリクト鉱山にはモンスターが出没しております。現在はそのモンスター、マイン・スパイダーの討伐依頼も出されておりますのでご確認を。……はい、これが立ち入り許可証です。」

 立ち入り許可証を受け取ったレピスは依頼が貼り付けられている掲示板に向かった。

「マイン・スパイダー討伐……これだね。えっと、このマイン・スパイダーは通常の種よりも大きく、強度の高い外殻を纏っており、凶暴性の高い危険な個体である……かぁ。」

 レピスは一旦ギルドを後にする。外に出ると既に日は落ちていて街灯が灯り、街路を照らしている。

 街灯に照らされながら受付の女性が教えてくれた宿までの街路を歩く。

 宿に着いたレピスは受付を済ませて部屋に入った。

 ローブを脱ぎ、水で濡らした布で身体を拭き汚れを落とす。

 レピスはよっぽど疲れが溜まっていたのかそのままベッドに倒れ込み寝息を立て始めたのだった。

 ◆

 レピスが目を開けるとそこは見慣れた白い空間だった。

 どこまでも白い世界で男が一人座り込んでいた。

 その男はレピスに気が付くと立ち上がり声をかける。

「や、また会ったね。……なにか浮かない顔をしているけど、どうしたんだい?」

「いえ、その、……正直言って、怖いんです。」

「怖い?」

「はい、マイン・スパイダーはブラッディ・ベアの比ではない程に危険性が高いモンスターです。鉱石を取り込み己が鎧とし、鉱山内を縦横無尽に動き回る。それにブラッディ・ベアとの戦いではムーン・ウルフ達の助力があり勝てましたが、今回はそうはいかないかもしれない。このまま戦って私達が勝てるかどうか……」

 それを聞いた男は寂しそうに問いかける。

「そうは言うけど、レピスちゃんは俺のこと信じてくれないの?」

「い、いえそういうわけじゃ……!」

「ゴメンゴメン、ちょっと意地悪だったかな、でももっと俺を信じて欲しいな。……それに君自身のことも。」

「私自身を……?」

「それに、君がどうしたいかは君自身がよくわかっているはずだよ。」

「私が……どうしたいか……。」

 レピスの脳内にスディラスの人々がよぎる。

 そして職人さんの話を思い出したレピスは決意する。

「私は……この街の皆さんを助けたい!」

 その宣言に男は笑みをこぼす。

「その……有り難うございます!えっと……」

 レピスは思わず言いよどむ。

 目の前の人物は、記憶喪失で名前も分からないことを思い出した。

 それを察した男はレピスに告げる。

「ああ、そうだね、……俺のことはゴウって呼んで欲しいな。」

「はい、これからもよろしくお願いしますね、ゴウさん。」

 レピスは柔らかな笑顔でゴウの手を取る。

「こちらこそよろしくね。」

 二人が握手が結ぶと光が一層強くなる、そこでレピスの目が覚めた。

 何か夢を見ていた気がするけど……覚えてないや。でも不思議にスッキリしている気がする。

 レピスはローブを羽織りチェックアウトを済ませて街に繰り出す。

 レピスのその目には決意が宿っていた。

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