第2話 伝説の魔法使いエクストクリム
ラビ村から少し離れた山に一軒の家がある。
そこは魔法使いトライゼルが住む家であり、
「先生~!ただいま帰りました~!」
レピス・クスハの家でもある。
「先生~?」
レピスは呼びかけに返答が無いとみると、小さくため息をつき二階に駆け上がる。
「起きてください先生!」
本に埋もれて熟睡していたトライゼルをたたき起こす。
「あ、ああ。レピスか……。いや済まない。気になる文献があってね……。」
トライゼルはそう言いながら体を起こす。
「もう無理できない年齢なんだからもうちょっと身体を労わってくださいね。」
レピスはため息をつきながら本の山を片付ける。
トライゼルは苦笑いを浮かべながら頭をかく。
ふと書斎の入り口に目をやると見慣れぬ影があった。
それは子供ほどの等身しかないが、その姿にまさにゴーレムそのものだった。
「なぁレピス、一つ聞いていいか?その入り口にいるゴーレム?は一体なんだ?」
「あー……、えっとですね、説明すれば長くなるのですが……。」
レピスは洞窟で起きたことを事細かに説明した。
謎の部屋、自立稼働するゴーレム、クリスタル・ドラゴンの強襲、そして老人のメッセージ。
「ふむ、それでレピスはそのゴーレムの
そう言うとトライゼルは机の中を探し始めた。
「確かここら辺にあったはず……よしあった!」
トライゼルは一枚の写真を取り出しレピスに見せる。
「その老人ってのはこのエクストクリムって人かい?」
写真の老人と立体映像の老人は確かに同一人物のようだった。
「この人だと思います。でもちょっと雰囲気が違う気が・・・。」
「そうか・・・この人はな、俺の師匠だった人だ」
「先生の……、師匠!?」
トライゼルは語り始めた。
「師匠はその膨大な知識と探求心から数々の発見と発明で学会を騒がしたりしていたんだが、とにもかくにも凄い人でね……、良く振り回されたものだよ。」
そう苦笑いを浮かべるトライゼルにレピスは心中を察する。
「それでなんだが、そのゴーレムは多分……いや、十中八九師匠が造ったものだろう。あの人の造る物は大体突拍子が無かったり、常人の理解が及ばないものばっかりだしな……。」
トライゼルは頭をかきながら話を続ける。
「まぁ、師匠はとんでもない人だったが悪い人間ではなかったからな。その研究ってのも大丈夫だと思うぞ……多分。」
「随分と歯切れが悪いですね……。」
レピスは呆れながらも思いを馳せる。
エクストクリム、先生の師匠であり、ゴー君を造った人物である。
────偉大なる魔法使い、か。
この人物が何をもってゴー君を造ったのか、研究が完成した先に何が待っているのか、今は何もわからない。
だがレピスの胸の中はまだ見ぬ世界への憧れで一杯だった。
そんなレピスを見てトライゼルは小さく笑う。
もう心配はいらないな。
思えば大きく育ったものだ。ラビ村の住人から見知らぬ赤子がいるという報告を受けた時は目を疑った。
私が引き取り育てることにしたが、赤子を育てるなど初めての経験だったので村の人間にも世話になったものだ。
トライゼルはレピスに声を掛ける。
「レピス、渡したいものがある。ついてきなさい。」
トライゼルはそう言うと書斎から出ていった。
レピスとゴー君は急いで後をついていく。
トライゼルは自身の研究室にある本棚の本を一冊取り出すと呪文を唱えた。
するとその本が箱へと姿を変える。
トライゼルはその箱から取り出した一着の青いローブをレピスに手渡す。
「先生、これは……?」
「これは……そうだな、俺からの卒業証書だ。」
「────っ!ありがとうございます!」
レピスは顔を歓喜に綻ばせながらも深々と礼をする。
「そのローブは俺が丹精込めて作った特別製のマジックローブだ。並大抵の攻撃ではビクともしないし自己修復もする優れものさ。」
得意げに語るトライゼルをよそ目に早速ローブをまとったレピスは、ゴー君に見せる様にくるりと回る。
青い生地に金色の意匠を施されたローブのサイズは少しばかり大きいがしっかりとした作りになっている。
嬉しそうなレピスにトライゼルは再度話しかける。
「たしかコンパスを渡されたって言ってたな、それをちょっと出してくれないか?」
レピスは懐にしまっていたコンパスを差し出す。
「よし、思ったとおりだな。だったら……。」
トライゼルは掌に収まるサイズの小箱を取り出し聞きなれない呪文を唱える。
すると小箱が開き、中から一枚の地図が現れた。
トライゼルがその地図の上にコンパスを置くと、地図が激しい光を放つ。
「よし、できたぞ。レピス、おいで。」
レピスはトライゼルの元に駆け寄る。
地図を覗き込むと地図に二つの光の柱が浮かび上がる。
「これは
そう言いながらトライゼルは地図を丸めつつ、小箱をレピスに渡す。
「この小箱も渡しておこう、その小箱は一つだけどんなものでもしまえる箱だ。しまうときはミタバ ク二ド、開けるときはミタバ ムディトだ。」
「こんなにたくさん……、先生、本当にありがとうございます!」
レピスは再び深々と頭を下げる。
「可愛い教え子の旅立ちだからな、そりゃぁ応援したいものさ。ところで次の目的地はどこを指してるんだい?」
レピスは光の柱が差している場所を見る。
「ここは……オリクト鉱山?」
「オリクト鉱山か……、たしかここで採掘される鉱石は騎士の装備品にも使われるぐらいの良質なものが多いんだったかな。それもあって王国の騎士が警護をしているから安全だとは思うんだが何があるかわからないからな気をつけるんだよ。」
「はい、分かりました先生。」
「それと今日はもう遅いから休んだ方がいいんじゃないか?」
「そう……ですね……。確かに今日は色々ありすぎて疲れちゃいました。先生、おやすみなさい。ゴー君行こ」
レピスはあくびをしながらゴー君と共に自室に向かう。
寝間着に着替えたレピスはベッドの上で横になるとゴー君に語りかける。
「今日は色々あったね……、あなたのこともエクストクリムって人のことも解らない事ばかりだけど、あなたと一緒ならどこへでも行ける気がするんだ、不思議なことにね。」
レピスは明日から始まる冒険に心を躍らせる。
いったい何が待っているのだろうか。どんな光景が見られるのだろうか。
レピスは冒険への期待を募らせながら眠りに落ちていった。
ゴー君もそれを見て休眠状態に移行した。
一人研究室に残ったトライゼルは独り言ちる。
「師匠、あんたは
トライゼルは研究室の明かりを消して自室に戻る。
「さて、どうなることやら……。」
トライゼルは空を見上げる。
空に浮かぶ月は見守るように静かに地上を照らしていた。
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