第6話

 私はそういう侍女さんの後をつけていくと、すごく広い食堂的なとこに連れてこられた。


「ここがこれからセレス様とラーレ陛下がお食事をお召し上がる場所でございます」

「え、こんな広い部屋で2人だけですか?」

「はい、そうでございます」

「セレス様はこちらへお座りください」


 そういって椅子をひいてくださった。お姫様みたいだ。


「セレスが今から食事をとるのは本当ですか?」


 少し乱雑に開けられた扉から放たれた声、その持ち主はただ一人しかいなかった。


「ラーレさん?どうしたのですか?」


 そう、ラーレさんだ。寝起きなのか少し寝癖がついている。


「いえ、少し取り乱しました。私の部屋に使用人が先ほど来まして、セレスがもう朝食を取るということでしたので、急いできたというだけです」


 そんな、私のせいで急がしてしまったということだろうか。申し訳ない。


「ごめんなさい、私のせいで」

「いえ、謝らないでください。私がセレスと一緒に朝食を取りたいという私のエゴですから。朝食ご一緒してもよろしいでしょうか」

「一緒にというのはいいのですが、何より、私はマナーやらなんやら全く分からなくてですね、お目汚しをしてしまうかもしれません」


 そんな急いで来てくれた人を、無下にすることなんてできない。でも、私は今までマナーなんて習ったことがなかったから、精霊王とあろうお方の前で披露できるものではない。それだけが引っかかっていたのだ。


「気にしないでください。少しづつ覚えていきましょうね」

「はい、ありがとうございます」


 心配事も消えたところで侍女さんたちが朝食を持ってきてくださった。とてもじゃないが食べ切れるほどの量ではなかった。


「あの、こんなに私食べきれないのですが……」

「いえ、食べ切る必要はありませんよ。今回は初回ですので、セレス様のお好きな食べ物を知るために豪華にご用意させていただいています。なので、心配なさらないで大丈夫です」


 そうは言っても、食べ物を残すこと自体すごく嫌だ。でも、せっかく私に作ってくださったものだから、大切に美味しくいただきたい。


「では、いただきます」


 朝食は、いろいろなパンと、それにつけて食べるものがあった。適当に二、三個食べてお腹がいっぱいになってしまった。本当に食べるのが下手な私とは対照的に、ラーレさんはパンのくず一つ落とさずに食べていた。自分のを食べながら少し見惚れてしまった。


「ごちそうさまでした。こんな柔らかいパンを食べたのは初めてでしたので美味しかったです」

「ありがとうございます。お気に召していただけたようで嬉しいです」


 食後に紅茶を出されたので、それを飲んでから手伝いに行こう。そう思ったのだが、ラーレさんに話しかけられてしまった。


「セレスはこの後何をする予定ですか?」

「少し侍女さんと一緒にお庭の手入れをする予定です」

「そうだったのですか。花はお好きですか?」

「よくわかりません。あまり花などじっとは見たことがないので。ですが、母が昔の昔見せてくださった青い花にすごく感動したのは覚えています。その花は母が持っていた一輪だけなのでそれ以降に全く見たことがなくて少し残念です」


 母が亡くなる前、本当に私が小さな頃、母は特別にと私にだけその花を見せてくれた。一輪だけだったがその一輪だけでも上品さや気品さ、堂々とした凛々しさを感じた。その後私はその花をもらい母といっしょに押し花にしたのだ。


「そうでしたか。人間界の花ですとこちらの世界では見つけることができないので残念です」

「では、お先に失礼しますね」

「はい、では頑張ってきてください」


 話がちょうどいいところで終わったのでもう私は手伝いに行くことにした。


 



 

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