第7話

「こちらです!!セレス様!」


 私は渡された簡単な着替えに身をまとい庭に出た。そうすると、奥の方から声が聞こえた。


 茶色の髪に緑の目の侍女は、チマと名を名乗った。いろんな方がいるみたいだから一人ずつ頑張って覚えておこう。


「チマさん、私は何を手伝えばいいのでしょうか」

「そうですね、やっぱり一番簡単なのは雑草を取っていただくことでしょうか。手袋は用意させていただいてます。あとチマ、でお願いします」

 

 雑草取りであれば毎日のようにやっていたから慣れている。あとさりげなく訂正された気がする。


「全然大丈夫ですよ。それに手袋なんか必要ないぐらいには慣れてます」

「そうでしたか…ですが安全のため手袋はしていただけますか?私たち精霊には良くてもセレス様が触れてはいけないものもあるかもしれないので」


 さっきまで庭を見てきたけれど、人間界で見たようなものは全くなかった。少し似ているものもあったけれど、違うものばかりだった。それに、チマさんが言う通り精霊には触れるけど人間には害するものもあるかもしれない。おとなしく手袋をしよう。



「うーんとですね、セレス様には花壇の雑草取りをお願いいたします。私は近くで低木の剪定をしていますので何かあればお申し付けください」

「ありがとうございます。がんばりますね」

 


 雑草の見た目ってそんな変わらないんだなぁ。私がいつもむしっていたようなものと同じようなものばかりだ。そんなことを考えながらむしっていたらいつの間にか太陽が真上に来ていた。一度立ち上がり、後ろを見るとファリルさんが立っていた。少し驚きながらもきっと昼食の時間なのだろうと思い、チマさんに挨拶することにした。


「チマさん」


 私がそう呼ぶとチマさんはハシゴの上からジャンプして目の前に降りてきた。

 

「どうしました、セレス様。それとチマ、です」

「私は一度戻りますね。また機会があればご一緒させてください。チマ」

「はい!またお願いいたします!」


 どうしてこうもさん付けするのを許してくれないのだろうか。私が愛し子だからなのだろうけれど。


「いきましょうかファリル」


 服を取り替えるだけだと思っていたのにお風呂にまで入らされるとは思っていなかった。ラーレさんきっともう食べてしまってるだろうな。




「庭の手入れは楽しかったですか」


 食事の間に足を踏み入れるといないと思っていた人からの声がかかった。


「はい、とても楽しかったです」


 そう反射的に返事を返したはいいけれど、誰からの問いに答えたかもわかっていなかった。脳の処理が追いついていないまま声のした方向へ目を向けるとやはりそこにはラーレさんがいた。


「なぜラーレさんがここに?」


 思った疑問をそのまま口にすればラーレさんも疑問を浮かべたようだった。


「なぜですか?やっと見つけた愛し子ですから時間が許す限りあなたに会いたいからですかね。それにあなたと共に食べる食事の方が美味しいから」


 ストレートに表現してくるラーレさんに少しドギマギしながら私は席についた。それを見計らったように次々と料理が運ばれてきた。やっぱり量が多くて残してしまった。


「セレスはあまり食事を取らないのですか」


 その様子を見かねたラーレさんが口を開いた。


「そうですね……もとより与えられるものが少なかったのでその量で満足できるように体ができてしまったのだと思います。それに一度毒が入っていたこともあるので食事をすること自体そんなに好きではありません」


 あ、毒が入っていたことがあるから食べないって思われちゃったかな。毒が入っているかもと私に疑われていると思ってしまったかな。早く訂正しなきゃ。


「あの、別に皆さんを疑っていたり非難するつもりはなかったんです。ごめんなさい」


 なぜか、ラーレさんが私の顔を見て固まってるんだけれど、どうしたらいい?


「ラーレさん?どうしました?余計なことを言って気分を害してしまいましたか?申し訳ありません。罰なら受けます」

 

 どうしよう、こんな私に優しくしてくれた方なのに私のせいで不機嫌になってしまった。やっぱり私ここにいない方がいいんじゃ。私はいるだけでみんなを不幸にしてしまうんじゃ。ごめんなさいごめんなさい。迷惑をかけないよう早くここを出ていくので許してください。


「ごめんなさい、セレス。あなたにそのようなことを言わせるつもりはなかったのです。あなたがいるおかげで私は幸せなんです。だからそのようなこと思わないで?それに私はあなたがいないともう生きていけませんからどうかここにいて?」


 混乱した私を優しく宥めてくれたラースさん。どさくさに紛れて何かすごいことを言っているような気がした。その言葉に意識を奪われてしまった。


「え、あ、あの」

「よかった。いつものセレスに戻ってくれた」


 そう安堵したラーレさんの顔がいつもより近くて驚いてしまった。そうだ、私を宥めるためにラーレさんは私のこと抱き寄せるようにしていたんだった。今まで混乱していて気づかなかった。それに気づいた途端、顔に熱が集まったのを感じた。


「らーれさん、ちかいです」

「あ、すみません」


 私の動揺がラーレさんにも映ってしまったみたいで、ラーレさんも動揺しているようだった。心なしかラーレさんも耳が赤い気がする。微妙な空気が広がっている。気まずい。


「そうだ、セレス」

「あ、はい」


 沈黙が続いた後、ラーレさんが私を呼んだ。まさか話しかけられると思っていなかったので戸惑ってしまった。


「午後には仕立て屋を呼んであります。精霊界の中でもとても評判の良い方を呼んだので腕には問題ないと思います。ファリル、20着は選ぶように」

「かしこまりました」








20着もいらないって抗議したけれど、ファリルさん主導で20着以上選ぶことになりました。なんで?

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