21:束の間の事情②。
琥珀からの痛恨の一撃を喰らいながらもなんとか立て直し、食事を済ませて途中の駅にて満穂と別れて帰宅。
風呂やら姉の蛍用の夜食やらを作り(途中で琥珀も食べたいと言い自分も含めた分を作って食べた)、そのままリビング留まって雑談。
ふと時計を見れば19時45分を回ろうとしていた。
「そろそろだな。告知した動画」
「そうですねと」
昨日”3日毎に動画を投稿する”と告知した動画が
「作った本人と一緒に見られれば良かったんだがな」
この琥珀の言葉通り動画の方は満穂が制作を担当している。それも1人だけで。
一応千寿が手伝おうか? と打診したがそれを満穂は今回ばかりは1人でやりたいとやんわりとだが確固たる意志を持って断った。
それから【三者三葉達の夜更かし話】。こちらの編集は千寿と琥珀が担当。主だってやるのは千寿なのだが。
「まぁ……仕方がないですよて。日曜日は家族と過ごすようにしてるって言ってたから、家族との時間を奪っちゃいけませんよっと」
そう言って千寿は立ち上がる。
満穂の両親は共働き。故に榎本邸は基本日曜の夕食時を家族団欒指定日にしている。
ただ動画が終われば即感想を求めに電話しに来るだろうと2人は予測。しかも動画の進捗を聞く度に『凄いですよ! 凄いものが出来上がってます!! 楽しみに待っていてください!!』と、自身有り有りに言ってくるので興奮止むまで長電話にしゃれ込むであろうとも。
千寿は”明日寝坊せずに起きられるかな?”と、懸念しながら2人分の飲み物を用意して座り直した。
「ありがとさん」
「ん」
用意した飲み物を飲みつつ待つ事数分。時刻が19時45分になり動画が始まる――。
15分後。
動画を見終わった2人の反応は似ている様で違っているものだった。
「普通に面白かったな。ゲームみてぇに……いやゲームなんだが、ゲームの……あ~なんだ? なんて言やぁいいんだ?」
「会話の場面? ノベルゲームみたいな」
「! 多分それだ。ノベルゲームってのがなんなのか分かんねぇが。――てか千寿テメェ、テンション低くねぇか?」
「まぁ……うんまぁ……ちょっとね。ちょっと全体のクオリティが高過ぎるかなって」
「? 良い事じゃんか」
思ってた以上の出来栄えに若干テンションが高い琥珀に対し、同じく思っていた以上の出来栄え若干テンションが低い千寿。
ちなみに今回の動画。題材にしたゲームはTRPG。
PLは三者三葉の3人。
GMは蛍。
シナリオは蛍が用意したオリジナルなもので、ストーリーは【この世全ての化物と悪を駆逐する事を目的とした協会に仕えるシスターが、死んだ筈の孤児院時代の幼馴染2人と再会。しかし2人は自身の裁量で悪を裁く処刑人となっており、しかも駆逐すべき化物の血が半分流れている人間モドキであった。
様々な陰謀。孤児院時代に引き起こされた悲惨な事件の真相。様々な葛藤の末に3人の結末は駆逐か? 私刑か? それとも各々の正義の混濁なのか?】と、いうもの。
全体のシナリオ量は有れど、丸2日あれば完走は可能。
千寿は少し間を置いてから今見た動画について思っている事、危惧している事を述べた。
「確かに凄い。この手のジャンルを扱うゲーム動画の投稿者達にも引けを取らないレベル。でもこのクオリティのを維持し続けるんですよて。それも学校、配信、塾と休日には収録というスケジュールの中で。期末テストだって6月末に控えてる。ハッキリ言って編集時間2、3日に対して1人の仕事量じゃない」
「あぁ……そういや前に言ってたっけか? 7分の動画に6時間かかるだとかってよ」
「そうそう。――と、ちょうど来なすった」
iPadの通話アプリが起動。千寿が「とりあえず詳しい話は明日。今日は素直にお祝いしましょう。夜遅くに拗ねられても困りますし」と言いながら通話ボタンをタップ。
するとテレビ通話が開始され、画面には寝間着姿の満穂が映し出される。
時刻は20時。しかしながら睡魔も溜まっているであろう編集疲れも何処かへ飛ばし、その夜は日付を跨ぐまで話し込んだ。
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