22:束の間の事情③。
「ふふん♪」
再生回数――なんと21万再生。1日と待たずに20万再生を達成していた。
更に、
「実はですね? 昨晩は興奮止まずで深夜4時まで眠れず、もう仕方がないとベッドから出て見どころだけを詰めたショート動画をちょちょいのちょいっと作ってました。で、それを登校前にアップしたらなんと! 再生回数約10万! 10万ですよ10万!! 半日と経たずに10万再生!! ふふふっ……天才でしたか私ぃ」
「あぁヤケに上機嫌でテンション高いと思ったら深夜テンションが継続していると」
(結局夜更かししたんかい。それもオールで。どうせ眠れなかったのもエゴサしてたからだろうに)
「瑠璃山さんや。ちと席を外しますんで膝枕でもしてあげて。眠れるんだったら30分でも寝かせた方が良い。なんだったらそのまま保健室に。確か去年、夏から秋の変わり目で体調を崩して3日程学校を休んでたから皆勤賞は無いはず」
「ん、りょーかい」
親しくても男がいると寝れないだろう、と気を利かせて荷物を持って退散する千寿。
(さてどうするか)
千寿は空腹に悩まされながら廊下を歩く。
あそこの部室で食べるようになる前は普通に教室でのボッチ飯だった。だが最近は良い意味でも悪い意味でも有名な琥珀と近しい関係となり、元々接点があったが学校では余り関わらないようにしていた満穂とも琥珀を通して関わる様になっている。
故に実状、生徒間だけではなく一部の教師までもが急に注目され始めた千寿を見世物小屋の珍獣を見る様な目で見ている状態。
ハッキリ言って気分が悪い。
2Dの皮を被るvtuberとは違って現実の、ありまのままの自分を見世物にされるのは堪ったものじゃない、と千寿は逃げるように図書室へと向かった。
で、目的地に着くなり一番近くにあったエンタメ雑誌の棚から大人気vtuberが表紙を飾るネットニュース雑誌を手に取りパラパラと中身を確認する。
すると、
「石垣?」
「! ――?」
向かいの棚から出てきたであろう見知らぬ男子生徒が1人、千寿を見ていた。
「1人か?」
「え? あ、はい……」
(だ、誰? 少なくともクラスメイトじゃない……し、不似合いな上に少し大きめの丸型と、前髪による片目隠しスタイル。失礼だけども余程の事が無ければ自分から人に話し掛けないタイプの人相。つまりは……なんだ? え、本当に誰? 声は確かに聞き覚えがあるような……駄目だ、わかりませんよと)
「……」
「……」
会話が途絶え、2人の間に気まずさが生まれる。更には話しかけてきた男子生徒が少々申し訳なさそうな表情を浮かべた事で更に気まずさは倍増した。
ただ、幸いな事に図書室には人が少なく、誰も彼もが勉強なり読書なりをしていた為に見られてはいない。
千寿は意を決して「あの、本当に失礼なんですけど……誰ですかね?」と質問した。
「! ――……」
驚いた様子。だが返答がない。千寿が次の質問を考え、それを言うタイミングでようやく話し掛けた男子生徒から「いや……なんでもない。邪魔したな」と返答が来て、それと同時に持っていた雑誌を戻す。
――ふと、
「阿王……さん?」
「!」
と、浮かび上がった該当者の名前を呟く。
阿王帝。帰国子女にしてクラスカースト上位層どころか学年の上位層に住む顔面偏差値が高い男子生徒。そして満穂の幼馴染兼クラスメイト。
千寿と帝。この2人に直接的な面識はない。クラスは疎か、授業や学校行事で一緒になった事もない。
が、しかしながら満穂と琥珀が再会した日。急遽決まったコラボの日。琥珀が満穂を迎えに彼女の教室に行った時に、当然ながら満穂のクラスメイトであった彼と遭遇。帝と満穂が幼馴染だった為に琥珀とも面識があったのと、満穂の放課後事情について彼の取り巻きの女子達と琥珀とで一触即発しかけた所を千寿と帝が間に割って入って止めるというお約束騒動があった。
その、そんな微かな接点を頼りに話し掛けてきた相手の正体を予想し、「あぁ」という返答を貰った事で、
「えぇ!?!?」
と、図書室独特の静寂を破った。
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