04:瑠璃山琥珀の事情。
「上がって」
「あ、あぁ……」
諸々の要素が加味され、配信業で培った話術を用いて警察官を騙し、補導されていた瑠璃山琥珀を解放させる事に成功する。
で、どうにも家には帰りたくないor帰れないご様子であり、時刻も時刻であった為にそのままバイクの後ろに乗せて帰宅した。
「――なぁ?」
「はい」
「やっぱりエ〇コー目当てか?」
「……(無言で部屋の扉を閉めようとする)」
「(部屋の扉を掴んで阻止)分かった! オレが悪かった!」
Win――千寿。
夕方とは違い、とんでもない発言に今度は部屋のドアを閉めると言うシンプルイズベストな強攻策に打って出た事で夕方の意趣返し? を果たす。
「お腹は減ってます?」
「ん? まぁ……それなりに」
空腹の有無を問い、前者の返答を受けて千寿は台所に置かれていた余り物を。先ほど届けた姉のお弁当の中身と同じものを温め直してテーブルに並べた。
で、お米と味噌汁。テーブルに並べた品々の中で一番温かい2つがクラスメイトの鼻腔を刺激し、空腹へと直撃。
生唾と共に腹の虫がしっかりと鳴った。
「っ――い、頂きます」
「はい召し上がれ。おかずの御代わりはないけどご飯と味噌汁の御代わりはありますよって」
見掛けによらず初々しい反応。
更に補導から助けた時に言われた"助かった。ありがとう"と、そして今の"頂いきます"の言葉で最低限の礼儀があると、早計だがこの縁がろくでもないものではないと分かり安堵する。
で、食事なり御代わりなり洗い物なりを終えたタイミングで本題へ。ド直球に「家出?」と問うた。
「ん? あぁ1ヶ月近くな」
「1ヶ月!?」
家出は予想内。されど期間は予想外だった千寿。
しかしまぁ、良く良く彼女を見てみれば少々小汚い。髪だって気持ちどこかボサボサだった。
「何があったので?」
「塵な母親、猿の再婚相手。猿の小猿。猿どもが盛ってきたからそれを半殺しにしたら屑がヒステリック。――他に聞きたい事は?」
「あ、もうお腹一杯です」
身内による性的な暴力がキッカケの家出。良くある話で、実際に千寿が考えていた候補の1つであったが、実際にそうだったと聞かされて面食らってしまう。
「じゃあ親御さんからの捜索願いは……」
「無ぇよ。暴行の被害届はあれど、捜索願いは無ぇだろうよ」
「あ~……じゃあ身を寄せられる親戚類などは? 後、友達とか」
「どっちもいねぇよ。後者に至ってはテメェがオレのクラスメイトってんなら教室で常に1人でいる所を見てんだろ」
「っ……はい」
掛ける言葉が見つからない。条件反射で謝罪の言葉が出かけたが勝手な同情は侮辱と変わらないと思って飲み込む。
確かに瑠璃山琥珀の言う通り、学校で彼女の友達と呼べる生徒はいない。入学早々トラブルに巻き込まれ、それ以降もトラブル続きだった為に女子生徒の多くが彼女を恐れているのが現状だ。
故に瑠璃山琥珀が誰かと楽し気に話している所を見た事がないと、1年次からのクラスメイトである千寿は思い返す。
『たかがと思って小銭と缶ジュース1本の縁を侮ってはいけないよ。縁ってのは安かろうが軽かろうが結ばれた時点で繋がり合うもの。道理のような在り方だからね』
「! ……ん」
帰って来るまで何度も頭を過った姉、石垣蛍の言葉。それがこのタイミングで鮮明に蘇る。
ろくでもない縁ではなかったものの、とんでもない縁だったと思う千寿。されどその反面、我々の業界では数年に1人の逸材だとも思ってしまう。
石垣千寿もまた石垣蛍の弟。Vtuberグループの統括マネージャー兼スカウトマンの姉と同じ血が流れていた。
(全く。全くもって安上りな縁ですこと。姉さんが
「瑠璃山さん。これから……いや、この後からどうするので?」
「あん? まぁ近場の公園……にでも……」
「衣食住の住は分かりましたよって。他の2つは?」
「衣はまぁ……ウチの運動部の洗濯機を拝借する。ついでにシャワーも」
「食は?」
「――……購買の余り物とか……スーパーの試食とか……た、炊き出し? とか?」
「でも貰えなかったら? 炊き出しだって何処でやってるとか何曜日に来るとか、そこら辺の情報だってまだまだ知らないんじゃない?」
「……」
「そもそも炊き出しの場に女子高生が来たら即通報だろうし、試食だって頻度によっては怪しまれて通報されたっておかしくない。それが分かってるから今日までお腹を空かせてカツアゲしようとしたのでは?」
「――はぁ。あぁそうだよ。でもどうしろと? じゃあどうしろってんだよ? 地獄に帰って震えて過ごせってか? アホ抜かせ」
「
「だからいつ犯されてもおかしくないあんな家に――……は?」
千寿の口からサラッと出た「ウチに住む?」という提案に目をぱちくりさせる瑠璃山琥珀。しかし千寿はそんなクラスメイトを他所に続きを述べる。
「安心して。身体なんて要らない。入用なのは瑠璃山琥珀の個性とそれを形成してきた今までの人生だから。そっちの方が面白いしお金にもなる」
「――……や、は? んだよそれ? オレの身体じゃなくて人生が入用? 結婚でもしろってか??」
「遠からず。瑠璃山さんにはもう1人の瑠璃山さんを創り出して演じて貰う――いや、今ある自分をもう1人の自分に流し込む、が正しいのかな?」
(瑠璃山さんの性格的にRPは無理だろうし……うん。そもそも素の状態の方が惹かれる所がある)
※RP――ロールプレイの略。キャラクターに自分とは別の人格を宿らせて演じる事。
「あ? 分かんねぇ。言ってる意味がマジで分かんねぇ。頼むからちゃんと説明してくれ。グローブ付けたオレが居んだからちゃんと会話のキャッチボールをしろや」
心の底から困惑する瑠璃山琥珀に対し、石垣千寿は姉の石垣蛍と同等の絡みつくような湿度高い笑みを浮かべて言った。彼女の人生を大きく変える一言を。
「
「あ? 知らん。んだよそれ?」
「へぇ? Vtuberをご存じではない――っ」
(グッド。素晴らしい。実に素晴らしい逸材ですっと。蛍姉さんが知ったら滴る涎が滝になってたね)
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