第29話 再び現れたワルイゾー!伽羅の小さな悩み事!

 Q.なんで遅くなったの?


 A.やる気はあったけどやる気以外が迷子だったから(╹◡╹)


 あと予定より進まなかったのでタイトル変えました(╹◡╹)


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 小幸に教科書を見せながら一緒に授業を受けて、放課後には学校の案内をする。転校生と言えばたくさん質問されるのがお約束なのだが、クラスのみんなは伽羅と縁呪に気を使ったのか、ほとんど集まってこなかった。少し前までいつも一緒にいた先輩が突然学校に来なくなって、そこに同一人物としか思えない同級生が現れたのだ。なにか事情があるに決まっているし、席のことを考えてもそれは間違いない。


 それだけならまだ、空気を読まないものがやってくる可能性もあったのだが、このクラス、この学校において、伽羅と縁呪、そして休学中ということになっている奏が魔法少女だということは公然の秘密だ。当然、休学と同時に魔法少女が一人減ったことも知られているし、それが奏であるということも知られている。


 そんな中で明らかになにか関係がありそうな人に対して、グイグイと話しかけられるものがいるだろうか。いるわけがない。そのせいで、せっかくの転校初日なのに小幸に話しかける人はいなかった。あまりにも予想外の態度に、小幸が、守ってあげるっていじめからってこと……?と考えてしまうのも、無理のないことだろう。


 ひとまずひとしきり校内の案内が済んで、この後はどうするべきかと伽羅は考える。授業の進度の確認とか、この辺りの案内とか、した方がいいことは伽羅にもいくつか思いつく。けれど残念なことに、進度の説明ができるほど真面目に授業を受けていないし、色々な場所を歩き回っているわけでもないのだ。案内役という大役を担うには、まだここで暮らし始めて数ヶ月程度の伽羅は未熟過ぎた。


「あの、聞かないんですか、昨日のこと」


 はてさてこれからどうしようと伽羅が悩んでいると、何も言わずに黙っている姿になにか思うところがあったのか、先に話題を振ったのは小幸だった。伽羅はそれを聞いて、そんなところに話題があったかと感心する。伽羅自身は別に話題を探していたわけではなかったのだが、お互いに無言になってしまうと、初対面の現状では気まずいのだ。


「突然逃げられて、びっくりした。ちょっとショックだった」


 言葉が色々と足りていない、伽羅の返事。お互いによく知っているのであれば、伽羅のこの発言には大した意図が込められていないことはすぐにわかるのだが、その事を知らなければ責められているように聞こえるであろう言葉だ。そして当然、今日会ったばかりの小幸がそんなことを理解できるはずもなく、とても責められている気持ちになる。


「えっと、私、あそこに入院?している人に謝らないといけないことがあって。でも合わせる顔がなかったから、入っていいか迷っていたんです。そしたら突然扉が開いたからびっくりしちゃって、その、ごめんなさい!」


 言い訳の言葉を重ねる小幸に対して、伽羅はそうなのかーと思いながら聞いていた。自分の言葉が、責めているように取られているなんて想像もしていなかったから、すごく詳しく教えてくれるなとびっくりしているくらいである。


 そうなんだ、と一言だけ言って会話の流れをぶった切った伽羅は、少し考えた後に、それならお見舞いに行っても大丈夫か確認してきてあげると伝える。あの場にいたことで、関係者だと思われていた伽羅の申し出は、すんなりと受け入れられて、小幸から感謝された。


 その話が終わると、小幸は伽羅に再度感謝を伝えてから、今日はこの後から用事があると言って帰っていく。一人その場に残された伽羅は、帰っていなければ縁呪が待っている教室に戻って、案の定待っていたので一緒に管理局へ向かう。管理局に行く目的は、前々日の災害に関する話を聞くためだ。自分たちが何をできていたのか、何ができていなかったのか。そして、黒衣の魔法少女について何かわかったことがないかを確認するのが、今日の目的である。


 そのために車を呼んで、下校する生徒の中で乗り込む。普通なら登下校にお迎えなんて使えばいらぬ妬みを買うのだが、このふたりは魔法少女だ。その手の感情はもたれにくいし、仮に持つ人間がいたとしてもそれを伝えることはできない。


 けれどそんなことをわざわざ考えたりはせず、二人は車に揺られる。その途中で鳴ったのは、けたたましい着信音。二人の携帯が同時になって、用件は一緒だろうと縁呪だけが出る。


「縁呪さん。出てくれてよかった。伽羅さんも一緒で間違いないですか?」


 電話の主は二井。同時にかけて、伽羅に切られたことから一緒にいるものだと判断して、その考えは正解だった。肯定の意を返す伽羅の言葉を受けて、伝えるのは電話の理由。


 二人が今いる場所からそれほど離れていないところに、秘密結社が現れて暴れているという内容だ。至急向かって対処してほしいと言われて、伽羅と縁呪は了承を返す。行先の変更を運転手に伝えて、通信機をセットする。


「オメラスは、絶対にゆるさない」


 伽羅たちにとって全世界の幸福を目標に掲げる秘密結社オメラスは、大切な家族の仇だ。いかに理想とするものの形が素晴らしかったとしても、それだけが全てである。以前までなら少し面倒に思っていた対処にだって、やる気が出るというものだ。


 かってないほど高いモチベーションで、騒ぎが起きている現場に向かえば、そこで暴れているのはデフォルメした掃除機みたいな姿の化け物。ワルイゾー!と叫びながら色々なものを吸い込んでいる、大きな化け物?だ。それの鳴き声のとおり、名前はワルイゾー。これまでいくつか存在した秘密結社の全てが統一して使っている、秘密結社の代名詞だ。


「来て、ライターン」「おいで、ゴッスン」


 その姿を確認した二人は、それぞれ自身の胸に手をやってパートナー妖精に声をかける。それに合わせて出てきたのは、最近ライターとしての使い方ばかりで悩んでいるライターンと、そもそも呼んでもらうことがほとんどないゴッスン。


「「マジカル、オルタレーション!!」」


 シュッとライターに火をともした伽羅が、薄緑色のそれを自分の身体に移す。全身に燃え広がった火が、揺らめいて、形を帯びていく。一枚の布のように伸びて、伽羅の体を包む。胴体を包んでいた火が消えた時、そこに残っていたのは下に行くにつれて色が濃くなっていく緑の浴衣。真っ白だった髪はくすんだ灰色に、瞳の色は輝かんばかりのオレンジ色に。


「紡ぐ想いは香りにのせて」


 ふんわりと周囲に白煙を燻らせながら、伽羅は両足を地面に戻す。自らの全身から発せられる沈香の香りにむせそうになりながら、伽羅はそれを払って煙を拡散させる。


「イノセンス・インセンス!」


 こんなふうに考えるのは良くないとわかっていても、伽羅には戦えることがうれしかった。どうせワルイゾーを倒しても、秘密結社の構成員は逃げるだけだとわかっていても、失った奏のために何かができている気がして、うれしかった。


「みんなの想いは、わたしが守る」





 手に持った五寸釘を嫌そうに握りしめて、縁呪はそれを自らの心臓に突き刺す。うっと小さく嗚咽を漏らして、そこから出てきたのは真っ赤な液体……ではなく、粘性の高い紫色の流体。液体とも気体とも判別しがたいそれは縁呪の体を這うように広がる。


「繋がる縁は世界とともに」


 ゴポリと音を立てながら膨らんだそれが弾ける。あふれ出てきたのは、毒々しい紫のドレスに包まれた、この歳にしては長い手足。インセンスの白煙と混ざるように紫の気体を撒き散らし、辺りをいるだけでダメージを喰らいそうな空間に生まれ変わらせる。


「カオス・カース!」


 守るための力を使うことを躊躇って、大切な人を失った。もう同じ思いをするのはごめんだった。力の目的を失って始めて、正しい使い方を覚えた少女は、もうこれ以上失わないことを誓う。


「終わる時まで、おいてかないで」



 変身が終わって、二人の魔法少女はワルイゾーに向き合う。暴れ回って、街を壊すワルイゾーを倒すのは、魔法少女のお仕事だ。


 魔物とは違って、多種多様な見た目と攻撃方法を持つワルイゾーと戦う場合、まず最初にするべきことは相手の見極めだ。その姿から何となく傾向はつかめるものの、実際の動きを見るまでは確定しない。かつてプラスチックのワルイゾーと戦った時、その見た目にそぐわない柔らかさで攻撃をいなされたことを、二人の魔法少女は覚えていた。


 だから掃除機のヘッドを振り回す攻撃にも、周囲のものを吸い込む攻撃にもしっかり警戒して、そこまで警戒するほどのものではないと結論付ける。見た目以上の、掃除機以上の能力は、このワルイゾーには何もついていなかった。ただただ暴れるだけの、巨大な掃除機。これまでであればすぐにでも倒せたような、大したことのない敵だ。


「破邪の香、沈香」


 インセンスが投げた線香が燃えて、周囲に白煙をまき散らす。周辺に存在する邪気、魔物の体を構成する成分を打ち消す効果がある煙だ。邪気だけで体ができているわけではないワルイゾーに対しては、そこまで効きがいいわけでもないのだが、それでもないよりはマシである。


 ワルイゾー!と叫びながら暴れるワルイゾーの動きは、ほとんど変わらない。よく見れば僅かに鈍っている気もしないではないが、気の所為と言われればそれで納得してしまう程度のものだ。負けじとインセンスは線香を飛ばすが、インセンスは元々補助などが得意なタイプで、唯一可能な攻撃も邪気に直接干渉するタイプのもの。早い話が、ワルイゾー相手にはほぼ無力である。


 それでも何かするために線香を投げて、その多くが掃除機の硬いボディに弾かれて終わる。対照的に、こういう敵に対して無類の優位性を持つのがカースである。


 覚悟を決めたようにゴッスンを握って、嫌そうに顔を顰めながらも、カースはそれを自身の腕に突き刺した。そこからこぼれるのは、変身の時と同様のドロリとした紫色の流体……ではなく、鮮やかな赤の液体。気分は真っ赤なトマトジュース!などではなく、当然のように血である。


 自分の体を媒介としてカースが魔法を発動させ、それによってワルイゾーのボディの左側に大きな穴が空いた。相手が人型であれば、今の一撃で腕の一本を使えなくできていたのだが、今回のワルイゾーは掃除機であるので、あまり大きな戦果は得られない。


 それだけでは確かに得られないのだが、今回戦っているのは別にカースだけではないのだ。装甲を破って攻撃の糸口さえ作れば、インセンスの攻撃だって通用するようになる。空いた穴に白檀が投げ込まれて、今度は弾かれることなく中に入り込む。


「ワ、ワルイゾーッ!!」


 そこから、白檀の力で内側から溶けていくことを期待していたのだが、それほど効果はなかったらしく、ワルイゾーは元気に叫び続けている。魔物相手ならこれで効果があるはず!一人でドヤ顔していたカースは、何も起きなかったことに一人恥ずかしくなって顔を赤くする。


「ま、魔法少女パーンチ!」


 ヤケクソ半分、照れ隠し半分で放たれたのは、ただのパンチ。魔法少女の恵まれた膂力によって繰り出されるそれは、そのぷにぷにしてそうなおててからは想像できないが、薄めの鉄板くらいなら貫通する程の威力があった。多少強化されているとはいえ、元が掃除機でしかないワルイゾーは、それに耐えきることが出来ない。


 一撃で、ボディに穴が空いた。カースが自分の腕を犠牲に与えた傷と、ほとんど同じ大きさの傷。相手のことを警戒しすぎて、最初から代償のある技を使ってしまったけれど、そこまでする必要はなかったのだ。無駄に痛い思いをしたカースはちょっと泣きたくなる。


 そのままポカポカとコミカルに叩くカースと、その度にボコボコのベコベコにされるワルイゾー。こころなしか、叫び声も悲鳴のように聞こえる。


「魔法少女キーック。……おでこぱんち!」


 カースの勇姿を見て、線香が効かないなら自分も殴ればいいじゃない!と思ったインセンスが、ワルイゾーに飛び蹴りをして、少し下駄の形に凹んだだけのボディに悲しくなる。インセンスは魔法少女の中でも特に非力な部類だった。


 その直後、蹴られたことに怒ったのか、ワルイゾーが掃除機のヘッドな頭をぶん回し、蹴りの反動で宙に浮いていたインセンスを捉える。何とか反応が間に合ったインセンスの、咄嗟に叫びながらの迎撃は頭突きだった。


 それによりおでこが少し裂けて、灰の髪を赤く彩るインセンス。負傷的な意味で頭が大丈夫か心配になる状態だが、魔法少女は頑丈なので脳震盪とは無縁だ。おでこの傷も、すぐに袖から取り出した紫の線香、癒しの香のラベンダーを頭に刺すことで完治する。


「女の子の顔に傷をつけるなんてっ!」


 傷が残ったらどう責任取るの!と思いながら、パンチでワルイゾーを吹っ飛ばすカース。すぐに、もう治っていることを思い出して、あれ、それなら別に問題なかったのかな?と迷うが、やっぱり傷をつけただけで有罪だとひとりで納得する。


 その一撃がトドメになったのか、最後に小さい泣き声を上げながらワルイゾーは萎む。萎んだ結果残ったものは、どこにでもあるような普通のサイズの掃除機。当然、ひとりでに動き出したりはしないし、周囲のものを手当たり次第に吸い込んだりすることもない。


 ワルイゾーがいなくなったのを確認して、伽羅と縁呪は周囲を探す。少し探したら見つかったのは、ワルイゾーの破壊に巻き込まれない場所で隠れていた秘密結社の構成員。


「小林、伽羅は、あなたたちオメラスのやったことを許せない。どんな理由があったとしても、もしたとえそれにどれだけの正義があったとしても、奏を奪ったあなたたちを許すことは、できない」


 ワルイゾーがいなくなって、自身を脅かすものがいなくなった中で、インセンスはオメラスの構成員、小林にそう話しかける。以前まで、奏を失うまでは、定期的に対面しては少しずつ話していた間柄だ。いくら相手がテロリストの類だとしても、少なからず知り合いとしての認識は生まれるし、その関わりの中で人柄は伝わるものだ。


 けれど、その過程でいかにある種の信頼関係を築いたとしても、大切な家族、奏に手を出されたのであれば、インセンスはその評価を覆さざるをえない。インセンスにとって奏は、家族は、ほかの何よりも大切なものであったのだ。それを奪ったオメラスを簡単に許せるほどの懐は、インセンスにはない。そして利害だけで判断するためには、インセンスはまだ幼すぎた。


 つまり、インセンスが納得できるようないいわけを、それも管理局が調べた上で正当性が保証されるほどの理由を、小林は伝えなくてはならない。


 一般的な準テロリストの末端構成員には、いささか荷が重すぎる役目だ。少なくとも、入社初年度の社員相応の人間がやるようなことではない。


「あれに関しては我々も……」


 そんな状況に突然放り込まれた小林は、自分も詳しくは知らなかったこと、ごく一部の暴走で、組織の中でも賛否がわかれることなどを伝えようとして、迂闊なコメントは避けるようにと教育を受けたことを思い出す。


 それによって何も言えなくなってしまった小林を、怪訝そうに見つめるインセンスとカース。その視線から逃げるように、小林は貸与されたワープ装置を使っていなくなる。秘密結社オメラスのいいわけを一応でも聞こうとした二人の気持ちは、裏切られた。少なくともインセンスとカースに伝わったのは、何も言わずにその場を離れたという事実だけ。


 少し乱暴だが、一度くらいお縄にかけて尋問することも辞さない思いだったカースは、確保に動くよりも先に逃げられてしまったことに、悔しさを感じる。


 ワルイゾーが消えて、街に平和が戻った。半分壊れた掃除機や、暴れられたせいでめちゃくちゃになった街を残して、インセンスとカースは変身を解く。戦闘の後の処理は、魔法少女ではなく大人たちの仕事だからだ。


 元々乗ってきた車に再び乗り直して、二人は管理局に向かう。本来ならいくつか話して終わるだけだったが、秘密結社が現れたとなればそんな簡単に済むはずもなく、一通りの会話が終わる頃には、もうすっかり夜になっていた。


「伽羅さん、ごめんなさい、もうそろそろ帰れるので、少しだけ待っていてもらえますか?」


 帰る場所が一緒で、さらに一緒にご飯を食べることになっているので、無駄な手間を省くためにもと伽羅を連れて帰ることになった二井が、伽羅に対してそう謝りながら作業を再開する。夜とはいえ、まだ中学生が歩いていてもおかしくはない時間だ。それを止めるのは管理局の都合で、それに巻き込むのは伽羅に悪いと思っている二井だが、伽羅は全然気になどしていない。


 むしろ、ここで宿題を済ませていけば、たくさんの人が教えてくれるから効率がいいとすら思っていた。それなら普段から宿題を済ませておけばいいように思えるのだが、伽羅はそこまで考えていない。ゆるふわ系は伊達ではないのだ。



 そうしてやるべきことを済ませれば、今度はやりたいことをする番だ。とはいえ、夜になっているのでお見舞いに行くには少し微妙で、かと言ってその場で座っているだけでは時間を持て余す。


 どうしようかと悩んだ伽羅が考えついたのは、逃げられてしまったことに対して誰かに相談しようというもの。誰か、伽羅は小さな脳みそで頑張って考えて、一人の姿を思い出した。


「なるほどなるほど、それでわざわざ僕のところに来たと。実にくだらない相談だけど、されてしまった以上話を聞くのは大人の責務だ。仕方がないから、アドバイスをしてあげよう」


 周囲にいた忙しそうにしている職員たちに相談するのがはばかられたので、二井に対する言付けだけ頼んで、伽羅が向かったのは何をしているのかわからない変人おじさんことユウキのもと。伽羅としては、本来この手のタイプの相談は重に対してしたいのだが、今回に限っていえば気になっているのは重の娘である奏だったもののこと。その相談が重にとって間違いなく地雷だということは、いかにゆるふわな伽羅であっても流石にわかる。


 だからこそ選んだのは、曲がりにも自分を慕っていたはずの奏がいなくなったいなくなったにもかかわらず、何も変わっていないように見えるユウキ。あまり得意な相手ではないが、それでも答えを知れるのであれば仕方のないことだ。


「まあ、答えは簡単だ。表情が出せなくて、表現出来なくて困っているのであれば、それ以外のところで十分にコミュニケーションを取ればいいだけの話だよ。君にもできそうなものであれば、リアクションを言葉に出してみるとかね」



 まだちゃんと説明したわけではないのに、しっかり事情を把握して答えまで伝えてくるユウキに対して、この人と話すのはやっぱり気持ち悪いなと思いながら、伽羅はこくりと一ツ頷く。


「気持ち悪いだなんて失礼な子だなぁ。まあいい。君が僕のことをどう思っていたとしても、大人として僕がやることには何も変わらないからね」


 言葉にしていないはずの内心を当たり前のように見破ったユウキに対して、伽羅はうぐっと声に出して反応してみる。一体何を考えているのか、失礼な動機だったことには何も言及せず、ユウキは、“迂愚なんて言葉、よく知っているねぇ。自己紹介かな?”と、ゆるふわ系に通じるはずのない暴言をサラッと吐く。


 その言葉の意味を理解できずに頭の上にハテナを浮かべる伽羅に対して、生ぬるい目を向けたユウキは、そのままいくつかの文字の読み方を伽羅に伝えて、そのままフリスクを片手にトイレに去っていった。


「おまたせしました、伽羅さん。ユウキ先生への用というのはもう終わっていますか?」


 その直後、ちょうどよく二井が部屋に入ってきたので、伽羅はトイレに行ったユウキに対して、ありがとうと伝えながらぺこりと頭を下げる。当然言葉は届いてもお辞儀は届かないのだが、伽羅はそんなことを気にしない。


 この人は苦手だけど、来てよかったなと思った伽羅が、迂愚の意味を調べて複雑な気持ちになるのは、また少し先の話だ。




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 次回!第30話 タイトル未定です(╹◡╹)ゴメン


 胸のキュンキュン、とまらないよ!

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