その4

 これはただの怪文書なんですけど、夢の中でキュアプレシャスに変身しようとして、眠ったままコメコメのことを口の中に入れちゃう結ちゃんが見たいんですよね。その気になったら自分のことを食べれちゃう相手と一緒にいるんだってことに気が付いたコメコメが人の口に恐怖心を覚えるようになって、しばらくトラウマになっちゃうの。そんな状態じゃまともに変身することもできなくて、でもプリキュアに変身しないと大切な仲間たちがピンチで、トラウマと喪失の2種類の恐怖で板挟みになったコメコメは間違いなくかわいいし、早くみんなを助けたいのに原因だから何もできない結ちゃんの葛藤も見たい。最終的には立ち直って助けられたけど、自分のせいで大切な仲間たちが痛い思いをしたんだってことで曇ってほしい。(光の性癖)


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 仲良くなるプルっ!というアップルンの言いなりになるのは癪だが、そんなことを言って放置できるラインは優に超えている。これがもっと魔物が少ないとか、あの子たちの安全が保障されている状況だったのならともかく、僕には娘のように思っていた少女や、おむつを替えてやったこともあるような少女が命の危険にさらされているのを見過ごすことなんてできない。


 そうなると、自然とあの子たちの下に向かうことになるのだ。僕の使える魔法は、距離が近い方が使いやすくて、どうせ守るのであればそれは楽な方がいい。わざわざ面倒な守り方をしたところで、その分減らせなかった魔物が一般市民のことを傷つけるだけだ。


 合流の前に手始めに、彼女達の周囲にいる魔物をまとめて潰す。きっと管理局から会話をするように言われている二人の元に行くのなら、多少て落ち着いて話せるようにするために、ある程度の間引きはしておいたほうがいい。


 そうして2人の元に飛んでいくと、縁呪さん、カースは少し緊張したように唾を飲み込んでこちらを見つめ、伽羅さんであるインセンスは何を考えているのかわからない、おそらく何も考えていない無表情で僕を見つめる。


「危ないですから、早く逃げたほうがいいですよ。あなた達の力じゃ足手まといになるだけなのはわかるでしょう?」


 ストレートに邪魔だと伝えると、カースは何か言いたげな顔をして、インセンスは心配してくれてありがとう、でも、伽羅たちも一緒に戦うと言う。このくらいの含意もくみ取ってくれないのはもうわざとなんじゃないかと思ったが、ちゃんと届いていたとしても素直に聞き入れたりしないのが魔法少女という生き物だ。答えが変わらないのであれば、通じていようがいまいが大した違いはない。


「それに、あなただけに任せて何かあったら、悔やんでも悔やみきれない。自分のせいで誰かが犠牲になるのは、もう嫌だから」


 その言葉が、どれだけ僕のこころの柔らかい部分を抉っているのか、インセンスはきっとわかっていない。僕が元の姿のままであれば、ともかく今の僕は正体不明の魔法少女に過ぎないのだから、わかるはずがない。魔法少女に、僕の気持ちがわかるわけがないのだ。


 感情を逆なでされて、怒りが沸き上がってくる。それ以外の言葉では形容し難い何かが溢れて、形になるよりも先に魔物が現れた。


「二人共っ!もう魔物が来たみたい!話はあとにして今は協力しましょう!」


 道路の向こうからやってくる魔物を見つけたカースが、そう言いながらどこかから取り出した藁人形を踏みつける。それと同時に、僕がしたわけではないのに魔物の内の一体がぺちゃんこに潰れた。カースの魔法によるものだ。魔物によって家族を奪われた人々の怨念が籠った藁人形と魔物とを一時的に同一の存在とみなすことで、藁人形へのダメージをそのまま魔物に押し付けることが出来る。強力な魔法だが、一体ずつしか対象に取れないことと、藁人形は完全に使い捨てなところに難あり。


「破邪の香、沈香。送りの香、白檀」


 一体ずつちみちみと倒しているカースを横目に、手当り次第に線香をばらまくのはインセンスだ。魔物に刺さる緑の線香は内側からそれらを溶かしていき、地面に落ちた茶色の線香はその煙によって魔物の動きを鈍くする。


 そしてそんな二人に両脇を固められながら、僕がすることは離れたところにいる魔物たちをプチプチ潰していく作業だ。実際に行っている作業量、倒している魔物の数としては2人よりもずっと多いのだが、特に動いたりもしないため非常に絵面が地味である。


 傍から見たら一人だけ何にもせず突っ立っているように見えるんだろうなと、すこし複雑な気持ちになりながら、ふたりに負担がかからない程度に魔物を通し、多く集め過ぎた分を潰す。インセンスの沈香のおかげで、一人で浮きながら作業していた時よりも簡単に魔物がつぶれるので、何とか先ほどと変わらないペースで魔物の数は減らせていた。僕の精神にかかる負担を加味すれば大幅にマイナスだが、それ以外ではトントンくらいなのでないだろうか。


 なぜか何もしなくてもあつまってくる魔物たちを減らして、しばらくそれを続けていると彼誰時に染まった空が元の青空に戻る。すべての魔物が消えた証拠だ。そのことに安心するのと同時に、魔物がいなくなったのなら早く逃げないと魔法少女たちに捕まることを思い出す。


「そちらの事情は知らないけれど、このまま逃がしてあげるわけにはいかないの。来ればきっと気に入るから、おとなしく管理局にまでついてきてくれる?」


 二人が僕に意識を戻すよりも先に離れようとしたところで、自分の体が動かなくなっていることに気が付いた。離れるために足を動かそうとしても、石にでもなってしまったかのように動かない。そのことに気が付いて、原因であろうカースの方を見ると、僕と同様動けなくなっている魔法少女はそう告げた。


 まるで危ない宗教の勧誘みたいなことを言う少女が、僕と同様動けずにいるのは、それが彼女の魔法の条件だからだ。自分のことと僕のことを対象にとり、動けなくなるように呪いをかけた。呪うための共通事項は、魔法少女と言うだけで十分だったのだろう。これだけならできるのは動けない肉像が二体できるだけなのだが、あいにくここにはもう一人動ける少女が存在する。


「大丈夫、管理局は魔法少女にやさしいから、嫌なこととかは何もされない。身元の確認と、魔物と戦ったときのお給料の話をするだけ。あと、お話して仲良くなりたい」


 登録しておけば、授業中にいなくなっても公欠にしてもらえるからお得なんだと言いながら、唯一まともに動けるインセンスは手をワキワキさせながら迫る。本人からしてみれば少しふざけているくらいのつもりなのだろうが、無表情の少女が迫ってくるのはちょっとしたホラーだ。


「確認できるような身元なんて私にはありいませんし、魔法少女これは趣味だからお金なんていらないんですよ。それと、せっかくのお誘いですがお話は遠慮しておきます。私、魔法少女が嫌いなんです」


 それに、つい少し前まで自分が勤めていたところだが、僕には今の管理局を信用する気にはなれない。自分で言っていて耳が痛くなるが、管理局の体制にはいくつか問題があるのだ。そのせいでを起こしたのに何も改善していないような組織を信じることなんてできないのだ。


 直接嫌いと言われるなんて、魔法少女にとっては起こらないはずの出来事に遭遇したせいか、少女たちはたじろぐ。その隙があれば、体が動かせなくても魔法を使える以上、逃げることは容易い。


 自分のことを空高く射出して、そのまま壊れた街の中で適当な場所に隠れる。魔物が暴れたおかげで、今のこの街にはまともに機能している監視カメラなんかもない。隠れるだけであれば、これ以上に適した環境はなかった。


 もちろん、逃げたからと言って魔法が解けるわけではないので、僕は今も体が固まったままだ。おかげで空気の抵抗を存分に受けることになったし、このままでは変身を解いたら移動手段がなくなってしまうので、元に戻ることもできない。カースの呪いは彼女自身が解こうとしない限り解けることはないので、一見詰んだように見えるが、僕はそれほど事態を悲観してはいなかった。


 だって、僕が動けない間はカースも同様に動けないわけで、まともな価値観を持っているのなら、逃げたどこに隠れているのかわからない人間を動けなくするために自分も動けないのを続けるなんてことはしないのだから。……そもそも人のことを突然拘束する少女がまともな価値観を持っているかと言われてしまえば、何も言えなくなってしまうのだが。僕の知っている縁呪さんはこんな暴挙に出る人間じゃなかったので、なおさら自信がなくなってきた。


 きっと少し待っていれば動けるようになるはず、もう少し、あとすこし、そろそろ、と暫く待たされて、このまま我慢比べを始めるつもりかと心配になってきたころ、人がいないはずの町中からカランコロンと足音が聞こえた。


 まさかいるかもわからない僕を探しているなんてバカなことをしているのではないか焦るのが半分と、それでも物陰に隠れているのだから素簡単に見つかることはないはずだと高を括るの半分。音を出さないように、体を動かさないようにしようと考えて、そもそも自分の意思で動けないからこうなってるんだと思い出す。焦りは人からまともな思考力を奪うのだと実感して、僕は冷静になるために深呼吸をした。


 カランコロンとなる足音は、誰かなんて疑問に思うまでもなく伽羅さん、インセンスのものだ。下駄を少し摺って歩く時の独特な音は、慣れれば他の音とは聞き間違えないようなものだし、同じ下駄でも歩き方の違いでなんとなく個性がでるものだ。


 聞こえる音はそれだけだから、きっと一人で探しに来たのだろう。早く遠ざかっていくことを祈っていると、まるで僕の場所がわかっているかのように、足音はどんどん大きくなってくる。


「見つけた。いきなりいなくなっちゃうから、伽羅びっくりした」


 僕が隠れていたものをひょいっとよけて、鮮やかなオレンジ色の瞳でのぞき込むのは変身したままのインセンス。変身中でもそうでなくても、この子の一人称が変わることはない。そのことには特に突っ込むこともせず、何の用かと聞いてみると、インセンスはお話ししたかったのと言って僕の手を掴んだ。勝手に逃げられないように、ということだろうか。


「さっきも言ったけど、私は魔法少女が嫌いなの。お話なんてしたいとは思わないし、もう一人の子のところに帰って私の体を戻すように言ってくれる?」


 あと、馴れ馴れしく触るなとも付け加える。今更だが、自分の一人称を変えるというのは変な気分だ。僕は元社会人失格なことに、昔からずっと僕という一人称で貫いてきたから、ばれないためとは言え違和感がすごい。


「離したらまた逃げちゃって話せない。おとなしくしてくれるなら離すけど、してくれる?」


 僕は、話したくないから逃げてきたのだ。お話ししようなんて言われたところで、この手が離れたら当然また逃げるつもりである。


「そう。でも話した方がいいんじゃない?だって、私は動けなくても魔法が使えるんだから、その気になったらあなたのことを魔物みたいに潰したり、振り落とす勢いで飛んでいっちゃうかもしれないんだもの」


 そんなことになっちゃったら危ないでしょうと続けると、インセンスは小さく首をかしげて目をぱちくりさせる。まるで、僕が言っていることを理解していないかのように。


「できるかもしれないけど、あなたはそんなことしない。だってあなたは魔法少女だから。誰かのために力を使うことはあっても、誰かを傷つけるための力を使うなんて、するはずがない」


 心の底からそのことを信じている様子で、だから大丈夫だとインセンスは言う。それが正解か否かで言えば、正解であるので僕は何も言い返せない。だって、魔法少女に変身できるということは、そういう性格だということなのだから。そういう性格の少女でないと、魔法少女になれないということは、この世界の定められたルールなのだから。


「そんなことよりも、伽羅はあなたと仲良くなりたい。魔法少女が嫌いって言っているのに、魔法少女をしているあなたのことを知りたい。伽羅にできることがあるのなら、助けになりたい」


 昔自分もそうしてもらったからと、インセンスは言う。自分のできることをしたいと思っている、魔法少女らしい言葉だ。その言葉で、心がざわつく。


「話すようなことなんて、何もないよ。私の事情をあなたに知って欲しいとは思わないし、こんなふうに自由を奪われて親切の押し売りをされたって、ただ迷惑なだけ。薄っぺらい同情心ならよそでやって」


 自分で口にして驚いたが、僕の言葉はきっとインセンスよりも僕に刺さった。なぜって、インセンスのしていることはかつて僕が、僕たち家族が伽羅さんにしたことだ。その善意しかない行いを卑下するのは、そのまま自分に対して倍以上になって返ってくる。


 見方を変えれば、受け取り方を変えれば、裏のない善意もただの醜い自己満足にしか見えないのだ。インセンスのバックボーンを知っている僕ですらそんな穿った見方をしてしまうのだから、知らない相手からの善意なんて人によっては恐怖でしかないだろう。過去の自分の無神経さにも、今の自分のひねくれ具合にも、ゾッとする。


「第一、こんなことをしてるのに本気で仲良くなれると思っているの?人の話を聞かないで、一方的に拘束して、逃げても追いかけてくる。仲良くなろうとしてるならもっと別のやり方があるでしょう」


 違う。こんなことを言いたかったのではない。インセンスが、カースがいい子なのは、僕がきっと誰よりも知っている。ただ好意だけで、少し方向を間違えてしまっただけなのはわかっているのだ。こんなふうにきつい言い方をして、繊細な幼心を傷つけるようなことをしたかったんじゃない。僕はそんなことのために魔法少女になろうとしたのではない。


「……伽羅、お友達ほとんどいないからわからなかった。嫌がっているのに気付けなくてごめんなさい。でも、やっぱり伽羅はあなたと仲良くしたい。あと、場所がわかったのは煙の匂いが付いていたから、それを追いかけてきた」


 こんなことを言いたかった訳ではないのに、自分の感情が抑えられなくなってしまった僕に対して、インセンスは少し凹んだ様子で謝って、もとめていたわけではない説明をする。


「あなたの気持ちはわかった。でも、お願いだから今はひとりにさせて。今は、誰とも話したくない気分なの」


 自分の感情も満足にコントロール出来ないのは、きっと人として何かが足りていないのだろう。少し前までそれができていたが故に、尚更そう思う。そしてそんな状態で、僕は魔法少女たちと関わりたくなかった。メンタルが落ち着いているときならともかく、今の状態でまともに話ができるとは思えなかった。


 そのことを伝えると、インセンスは拍子抜けするほどあっけなく理解を示して、また今度お話しようと言って立ち去る。天然な彼女にもわかるくらい僕の顔が情けなく見えたのか、それともただあの子が人の機微を汲み取れるほど成長していただけか。色々な意味で後者であって欲しいと願いつつ体が動けるようになるのを待つ。


 元に戻って、急いで帰る。嫌な感情で頭の中が埋めつくされてしまうのが、とても不快だった。ユウキの言っていた副作用というのがこのことなのだと、自然と理解できた。


 違うのだ。あんなことを言いたかったわけじゃないのだ。魔法少女は嫌いだけど、家族を奪った魔法少女を許せないけれど、けれどもあの子たちが悲しむようなことを言いたかったわけではないのだ。


 抑えようのない気持ちが溢れてくるのがわかる。少しでもそれを止めようと、気持ちを落ち着けようと、伽羅さんにもらった線香に火をつける。ふわりとキンモクセイに包まれて、劇的なまでに心が落ち着いた。


 次に会ったら、お礼を言わなくてはいけない。これを貰っていなかったら、きっと僕は自分の理性を取り戻せなかった。次に会ったら、謝罪をしなくてはいけない。いくら副作用とはいえ、今日の“私”の態度はあまりにも悪かった。対話を、お友達を求める少女に対してしていいものではなかった。


 いくら僕が魔法少女を嫌っているとはいえ、それはそれ、これはこれだ。人として通すべき筋は通さなくてはいけない。


「グラビティはだめだめプル。せっかくお友達になれそうだったのに、アップルンの仕事を無駄にしたプル」


 ああ。本当に、伽羅さんにこれをもらえてよかった。きっとこれがなければ僕は、後先考えずにこのリンゴもどきを握りつぶしていただろう。



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 やっと曇らせっぽいシーン書けた(╹◡╹)



 うまく説明を入れるタイミングが見つからなかったから補足


 魔法少女に変身できるのは何かしらの“運命”を持っている少女で、かつ自分から誰かを守るために戦いたい!と思える子だけだぞ!ついでに当たり前のものとして高い遵法精神を持っていて、年若い少女でないと契約できないと、妖精たちには制限がつけられているんだ!あとは管理局などの大人に対して従順な良い子が選ばれやすい傾向にあるぞ!

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