第9話 守られるだけだった……縁呪の悩み
大人プリキュアの続編を待ちます(╹◡╹)
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災害を終息させて、シンフォニーとインセンスは変身を解く。元に戻った途端、傷も元通りになった伽羅が重症に戻る事態が発生したが、念の為に残していたラベンダーの香のおかげで事なきを得た。
その後すぐにやってきた二井によって、奏と伽羅は管理局に連れていかれる。事情聴取目的が半分、もう半分は体に問題がないか調べるためだ。魔法少女のマジカルなパワーで治っているとはいえ、2人とも普通なら入院間違いなしの大怪我を負った。魔法少女の力が悪さをするとは考えにくいが、
そのまま夜中遅くまで拘束されて、変身前に怪我をしていた伽羅は特に念入りに調べられる。途中、学校から伽羅がさらわれたと連絡を受けた父が、大慌で駆け込んでくるというハプニングが起きたものの、結果は問題なしということで日付が変わる頃に帰宅する。
一応帰れはしたものの、まだ不安があるから一日は自宅で様子を見るように言われて、伽羅は今日いくはずだった校外学習に参加できずに凹む。傍から見ても、はっきりわかるほどわかりやすく凹むので、一緒に家にいる奏は少し気まずかった。
そうしてその翌日、問題なしとして学校に行っていいと言われた伽羅は、買ってもらったばかりだったボロボロの制服から、新しいものに着替えて登校する。すぐ隣には、想いを伝えたかった大切な人。変わらず一緒に登校できる喜びを満喫しながら、伽羅は慣れてきた通学路を歩く。
「……縁呪、どうしたの?」
変わらず歩いていた道で、伽羅が見つけたのはもう一人のお姉ちゃん。二日ぶりに会うその少女は、伽羅の目にはすごく落ち込んでいるように見えた。縁呪にはそんな顔は似合わないなと、ゆるふわな頭で考えた伽羅は、自分が縁呪とどんな別れ方をしたのかなんて考えもせずに声をかける。
「伽羅ちゃん……あのね、伽羅ちゃんがあたしを庇って魔物に連れてかれちゃったの。あたし、守るって決めたのに、なにも出来なかった。……きっと、魔物にひどいことされてるんだ」
自分の罪を告白するように、悔いるようにつぶやく縁呪。魔物に連れていかれる≒死亡なこの世界では、目の前でさらわれて行った少女は死んだものとしてみなされる。特に、今回伽羅をさらったのは小鬼みたいな、頑張れば普通の人でも対処できる魔物ではなく、空を飛ぶハルピュイア。連れていかれる瞬間をたくさんの人が見ていたこともあって、無事を信じれる人はいなかった。
「……奏、奏、大変。伽羅、魔物にひどいことされてるんだって」
そんなことになっている認識のなかった
「伽羅ちゃん!?なんでここに、ううん、なんで無事なの!?」
幽霊でも見たような反応をする縁呪に、伽羅、無事じゃダメだった……?とちょっと悲しそうに返す伽羅。それを見てダメじゃないと焦って叫ぶも、縁呪の頭の中は絶賛混乱中だ。そのまま暫し状況把握に務めて、普通の顔をしている伽羅と奏に説明を求める。
「伽羅、魔法少女になった!」
どやっ!と擬音がつきそうなまま無表じょ……こころなしか自慢そうに見える表情で報告する伽羅。前日の夜に、魔法少女になったことはなるべく言いふらさないように、と管理局で言われたことは、すっかり忘れていた。お話を聞きながらおねむだったから、ゆるふわな頭には欠片も残ってなどいない。
魔法、少女……?と呆気にとられている縁呪と、伽羅ちゃんっ!私たちが魔法少女なのは秘密って言われたでしょ!と注意する奏。自分で言って、すぐに失言に気付いたのかやべって顔をする。
「えっと、その……今のはなんでもないの!縁呪、私たちが魔法少女だなんて言ってないからねっ!もし聞こえたとしても、ただの空耳だからっ!」
これで大丈夫……と額の冷や汗を拭う
この子達これじゃあすぐにボロ出すなと確信した縁呪は、魔法少女が助けてくれたの?と伽羅に聞く。どうせ学校に着いたらみんなから質問の嵐が待っているのだから、今のうちにその練習、設定を作らせた方がいいという、賢い判断。実際にはそれほど賢い訳ではなくても、あほの子二人と比べれば知将である。
そんな想定問答を終えて、縁呪が得た結論は、この2人にしゃべらせちゃダメだというもの。それっぽいものを話して、こうなの?と聞いたら前後の整合性も考えずにそうそうと肯定するようなあほの子二人には、嘘をつくのはすこしばかりむつかしすぎた。
質問とかは全部あたしが対応するから、伽羅ちゃんは変なこと言わないように気をつけてねと注意して、縁呪は伽羅を教室に連れていく。授業をサボったまま行方不明ということになっていた奏のことは放置だ。みんなわかっているから、そもそも何も聞かれないのである。
伽羅を引き連れて教室に入ると、お通夜みたいな空気だった教室がにわかに騒がしくなる。みんな、伽羅が無事ではないと思っていたのだ。短い間だったとはいえ、マスコットみたいな人気を築いていたクラスメイトを失って、もっと仲良くなりたかったのにと泣いていた子も沢山いた。かくいう縁呪もその筆頭で、誰一人として授業に集中できてはいなかった。
そんなことは知りもしない伽羅は、みんな校外学習楽しんできたのかななんて思いながらしれっと席に着く。ちなみにだが、ショッキングな出来事の翌日ということもあって、当然ながら校外学習は延期になった。
騒がしくなった空気が再び静まり返る。みんな気になるけど、何かあったかもしれないことを考えれば、気軽に聞いていいものなのどうかさえわからない。早く誰か聞いてこいよとみんなが思っている中で生贄に選ばれたのは、先日こっそり持ってきたお菓子を伽羅に食べさせたことで先生に怒られた子。
「ね、ねぇ伽羅ちゃん、魔物に連れていかれてたけど、もう学校来ても大丈夫なの?」
魔物にさらわれるのが2回目だった伽羅には、もうそれがレアな体験だという認識は残っていない。ちょっと怪我したけど治したから大丈夫と、何も考えずに返そうとする。
「偶然っ!魔法少女が助けてくれたから、無事ですんだんだよねっ!?」
返そうとして、被せるように縁呪が喋ってくれたおかげで、隠さないといけないことを思い出す。そう、とだけ言うに留めて、あとはその後の会話も縁呪に任せる。
そのまま会話をほとんど任されて、予め作っておいた設定のほとんどを話し終えたタイミングで、山本先生がやってきて朝の会が始まる。昨日の放課後に管理局から直接電話がかかってきたおかげで、山本先生は生徒たちよりもひと足早く伽羅の無事を知らされたので、子供たちのように騒ぎ立てるようなことはしなかった。
ひとまず質問ラッシュが終わったのを確認して、縁呪はホッと一息つく。そうしてようやく落ち着くことが出来て、頭の中で考えるのは伽羅のこと。
守ると、決めたはずだった。何かがあった時は自分が守って、助けて、支えてあげるのだと決めたはずだった。その通りになるのだと思っていたし、自分ならそれができると、縁呪は信じていた。自分はしっかり者だから、この何を考えているのかわからない、ポヤポヤした少女の面倒を見るべきなのだと。
そのはずなのに、一番頼りにならないといけなかったタイミングで、縁呪は動くことが出来なかった。伽羅を連れて逃げることも、危険に備えて隠れていることも、いざ危険が迫った時に伽羅を助けることもできなかった。むしろ、ただ守られただけだった。
その事が、縁呪にはこの上なく悔しかったのだ。できると思っていたことができなくて、自分は思っていた以上に無力な少女に過ぎなくて、守りたかったものに守られる情けなさをさらしてしまった。結果論で言えば、伽羅がさらわれたおかげで、2人とも助かった。縁呪は助けられ、さらわれた伽羅も自力で助かることができた。何もかも上手くいった、ハッピーな結末と言っていいだろう。
けれど、賢い少女には、それが結果論でしかないと、あくまで偶然によって生まれた奇跡でしかないと、わかってしまう。結果良ければ全て良しなんて言葉もあるが、それが真実ならば未遂罪なんてものは生まれないのだ。その事を考えたら、縁呪にとっては自分ができたことが全てだった。
つまりは、何もできなかったこと、守られることしかできなかったのが、縁呪にとっては唯一の真実だ。どれだけ立派な思いがあったとしても、何も出来なかったのならそんなものはなかったのと同じだ。
隣の席で、気持ちよさそうに眠っている伽羅を見ながら、縁呪は自分に何ができるのかを考える。守ることはできなかった。縁呪には伽羅を守れる力もなかったし、その時が来た時に動くこともできなかった。支えることは、少しできた。困っている伽羅を助けること、何も考えずに余計なことまで話してしまう伽羅を止めることはできた。
こちらなら、まだ何か出来るかもしれないと縁呪は考える。大切な時に役に立たなかった自分でも、役に立てることがあるはずだった。それすらできないのなら、自分がなんのために伽羅の近くにいるのかが、縁呪にはわからなかった。
普通に考えれば、初めて会ってからそれほど時間の経っていない少女に対して、こんなにも強い感情を、執着を持つのはおかしい。それにもかかわらず、縁呪が伽羅に対してここまで入れ込んでしまうのは、伽羅が魔法少女ということに理由があった。正確には、魔法少女の適性がある者が持つ、“運命”によるものだ。何かしらの形で、周囲を引き寄せる“運命”は、まるでそれ自体が質量でも持っているかのように引かれ合う。
そして、本人には自覚がないものの、縁呪は普通の人よりも強い“運命”を持っていた。機会があれば魔法少女への変身も可能なレベルのそれは、何もしていなくても魔法少女と引き合う。伽羅に対して思い入れが強いのもそれが理由だし、奏たち家族と一緒にいると心地いいのも、全部引かれたから。もちろんここまで仲良くなれたのは、性格的な相性が良かったこともあるのだが、純粋な心の持ち主にしかなれない魔法少女になれている以上、真っ当な心の持ち主であれば奏や伽羅には好意を持つものだ。
要は、縁呪が一人で勝手に追い詰められているのは、しかたのないことであった。そういう“運命”のもとに生まれてしまった以上、どうしようもない事だった。なのに、そのことに気付けない縁呪はぐるぐると頭を回転させてしまう。ゆるふわ系やふわふわ系であればこんなことを悩むことにはならなかったのだろうが、不幸なことに縁呪には脳みそが詰まっていた。
考えに考えて、気がつくとノートが真っ白のまま授業が終わっていた。罫線もなくなっていて、何かと思ったら自由帳だった。これは重症だと自己診断した縁呪は、信頼出来る大人に相談することを決める。縁呪はしっかり者だった。
今考えてもどうしようもないと、思考を放棄して、授業に集中する。隣の伽羅はまだ寝ていた。悩みなんて何もなさそうな健やかな寝顔に、ちょっとだけ羨ましくなりかけたが、きっと今後苦労するだろうことを考えればそれもすぐになくなった。縁呪は堅実だった。
そこからは授業を真面目に聞いて、休み時間に伽羅を起こす。最初の頃こそ、こんなに寝ていたら夜寝れなくなるんじゃないかと心配したが、家でもたっぷり寝ていると聞いて気にしないことにした。
「奏、伽羅ちゃん、ごめんっ!あたし今日、行かなきゃいけないところがあるのっ!」
そのまま放課後までそれを繰り返して過ごし、迎えに来た奏に伽羅を引渡す。どうせ家近いんだから一緒に帰ればいいのにと思いながらも、それを伝えるよりも先に走り去っていった縁呪に向けて、バイバイっと奏は手を振る。残されたのは、何かあったのかなー?どうかしたのかな?なんて呑気に考えているあほの子二人だった。
そんなあほの子2人を置いて、走って帰った縁呪は私服に着替えると管理局に向かう。普通なら一般家庭の少女が立ち入ろうとしても門前払いなのだが、縁呪にはツテがあった。
そのツテで手に入れた面会証を使って中に入り込み、関係者以外立ち入り禁止と書かれた部屋に入る。人が普通に暮らせそうなほど、居住環境が整った部屋だ。とても、みんなエレベーターでぎゅうぎゅうになりながら移動している建物の中とは思えない、広々とした空間。
特徴的なのは、その中にある机だろうか。広いのに、一部の場所にしか物が置いていなくて、その一部が猛烈に汚い机。縁呪の“関係者”が、自分の使い易いように使っている机だ。
そこに誰もいないのを確認して、縁呪は一番上にあるメモ帳を掴み、中を確認する。一番下に書かれていた言葉は、フリスクにより離席中。ミント菓子くらい座りながら食べればいいのにと思いながら、縁呪は無駄に広い部屋で一人待つ。
しばらく待っていると、水が流れる音が聞こえて、一つの扉から一人の青年が出てくる。縁呪が待っていた相手で、伯父のユウキだ。奏の父と同い年のはずなのに、なぜだかいくつになっても若々しい不思議な伯父さんである。
「おやおや、縁呪じゃないか。いつの間に来ていたんだ?まったく、声をかけてくれればいいのに」
自宅と化している職場に勝手に入り込んだ縁呪を見て、表情一つ変えることなく驚いた振りをするユウキ。もっとほかに言うことは無いのかとか、なんでフリスクって書いてあったのにトイレから出てくるんだとか、色々言いたいことはあったけれど、縁呪はひとまず我慢する。目の前の伯父に余計なことを話したら、いつまでたっても話が進まないことを、縁呪はよく知っていた。
「伯父さん、教えてほしいことがあるの」
本当なら、ゆっくり相談したいところだけど、最初からその体で話せばなんだかんだではぐらかされるので、縁呪はストレートに言う。これだけ真っ直ぐに伝えても、おやおや、古都について教えてほしいのかい?そうだなぁ、一般的には京都や奈良、東京のことを〜なんて欠片ほども笑えない話のずらし方をしてくるので、無視して話し続ける。
「ふむ、つまりは、大好きな“おともだち”のために、力になってあげたいのに、あたし……なにもできないっ!ってなっていると。若いねぇ」
話の触りを話したところで縁呪の話を断ち切ると、ユウキはケラケラ言いながら全部わかったような口を聞く。茶化された形になる縁呪はもちろん気に食わないが、そういう人だと知っていて相談に来たのは自分なのでぐっと堪える。
「何もできないなんて、そんなの当然だろうに。君みたいな普通の女の子はみんな何もできないんだよ。何かができるのなんて、一部の特別な人間だけなのさ」
縁呪の話をちゃんと聞かずとも内容を理解できるユウキは、あー面白いと言いながらお腹を抱える。そんな態度をとられると、流石に縁呪もだまっていられない。悩みを解決してくれると思っていたから我慢できただけで、ふざけた態度自体はさいしょから気に入らないのだ。
「一部の特別な人ってなによ。伯父さんみたいなすごい人じゃないと人のためになりたいって思うのすらだめだっていうの?」
縁呪の口から出てきた言葉はどこかネガティブなモノ。伯父みたいに、選ばれた人間に相談したのが間違いだったのかと思って、気分がずんと沈んだ。そんな状態の縁呪にかけられたのは、早とちりするなおバカという言葉。
「俺なんて、ちょっと運がよくて、賢くて天才って褒めそやされているだけで、別に特別でも何でもないただの人間だよ」
ユウキは、管理局の建物の中で、ほとんど自宅のように過ごせる部屋を与えられた人間だ。その身内というだけで、ただの中学生である縁呪が顔パスできる程の立場がある人間だ。それもそのはず、ユウキはたった一人で魔法に関する研究を進め、条件付きとはいえ普通の人にも使えるようにした生きる偉人である。
そんなユウキが自分のことを得別ではないと言った。それは、世の研究者たちが聞けば怒りのあまり憤死しかねないレベルの謙遜に聞こえるだろう。縁呪も最初、ただの嫌味かと思って、ユウキの珍しく真面目な表情を見て気持ちを落ち着かせる。
「……もしかして、魔法少女?」
落ち着いて考えてみれば、ユウキが特別と呼ぶものの正体はすぐに検討がついた。その存在のほぼすべてが謎に包まれた、わけのわからない存在。天才であるユウキでもさじを投げて、その能力の一部を劣化再現するのがせいぜいだった、本物の特別。
「そーそー。縁呪のその友達は、魔物にさらわれたんだろ。それなら、何とか出来るのなんて魔法少女くらいしかいない。魔法少女以外ができるようなサポートなら管理局の出番なんだから、ただの少女な君にできることなんてないんだよ」
縁呪は、伽羅が魔法少女になったことなど話していない。魔物にさらわれたことも話してはない。それなのに、ユウキはまるで何でも知っているかのように、縁呪の状況を踏まえて話を進める。そのことに気付かずに、それじゃああたしは何もできないのと言う縁呪に対して、ユウキは生暖かい目を向けた。
「君が魔法少女にでもならないと、“おともだち”のためになるのは難しいだろうね。それともなんだ?まさかとは思うが、魔法少女になりたいなんてバカなことを言うのかい?」
縁呪は知っている。みんなのあこがれである魔法少女が、どれだけ大変なものなのかを。普通の子よりもずっと強く憧れたから、そうありたいと夢見たから、ふつうの少女が知らないような、魔法少女の不可思議な話を、縁呪は知っている。
知っているから、おおよそ思っていたとしても口にすべきではないことを言った伯父のことを気にしなかった。気にすることなく、それでも魔法少女になりたいと言ってしまった。
ユウキの視線の質が、どこか冷めたものに変わる。先程まであった生暖かさが消える。その口に浮かぶのは、うっすらとした笑み。
「そうか。それなら、伯父さんがアドバイスをひとつしてあげよう。来月の頭に、お友達と一緒にショッピングに行くといい。きっと、なにか嬉しいことが起きるはずだよ」
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