第5話 ~勇気~
「助けて」と思念を発していた彼女のことはほとんど何も知らない。
関係ないと言えば、関係ない。
でも、覗いてしまった彼女の望む悲しい未来。
あんなに楽し気に友達と笑っているのに、なぜあんな未来を望むのか?
恋愛?学業のこと?将来への不安?それとも病気や家庭の事情?
そんなこと、考えてもわかるはずもなく、聞いてどうすることもできない。
それはよく理解しているのだけれども、放っておくことができなかった。
何事も無く、1週間程が過ぎた放課後。
僕は下駄箱で彼女を待った。
偶然にも、彼女は一人で現れた。
「あのさぁ」
勇気を振り絞って、そっと後ろから声を掛けた。
彼女はとても驚いた顔をして、すぐに怪訝な顔で僕をにらんだ。
「なに、ちょっとキモいんだけど、なんか用ぉ?」
「あのさぁ」
「どんな事情があるのか知らないけどさぁ」
「なんでもいい、とにかく生きる希望を捨てないで」
突然現れた、キモいチビ男からこんなことを言われたら、ドン引きで逃げ出すと思っていた。
でも、彼女は逃げ出さずに、眼を大きく見開き、驚いた表情で僕を見てこう言った。
「な、なんで?」
「何言ってんの?」
「自分の子供達と、楽しく穏やかに過ごす未来」
とっさに思いついたのは、かつて親友が望んだ未来の姿だった。
「なんでもいい、とにかく、生きていて欲しいんだ」
彼女は無言で靴に履き替えて、驚いた表情のまま、うっすら目に涙を浮かべて校門の方へ走って行ってしまった。
「これでよかったのかな?」
「明日から、だいぶ気まずいなぁ」
いろいろ自問自答しながら、僕も重い足取りで帰宅した。
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