第3話 ~成長~

親友の通夜の日から数か月、中学生になった今、誰かの思念に支配されることは起きていない。

他人との関わりに臆病になっていたからかもしれないし、親友との死別を乗り越えた経験が僕を成長させてくれたのかもしれない。


そのせいだろうか。

幼い頃と違って、目を閉じて、耳を澄ませ、息を殺せば、周囲十数mの範囲の思念を感じることができた。


そこから、強い思念の感じる方に目を開けて、意識を集中させることもできた。


あと、大抵の同世代なら、未来に干渉しない程度に自分の思念を共鳴させ、うっすらだけど、鏡を通してその人の望む未来を覗くことができた。

自分でもわかっているが、決していい趣味ではない。

だから、自ら覗きにいくようなことはしていない。

基本的に。


入学当初、145cmしかなかった身長も、2年生になるころにはようやく150㎝ぐらいまでに成長した。

それでもまだ、僕と同じぐらいの身長の子と、朝礼の列の先頭を譲り合っている。

だから、あだ名は「チビ男1号」。

2号はもう一人の方。


入学当初みな同じ制服で、どことなく小学生のあどけなさが残る同級生たちも、2年生になって成長し、個性が際立ってきた。


袖や丈が短くなった制服を着て、声変わりした野太い声で、好きなアイドルや覚えたての猥談で盛り上がる男子。


はやりのアイドルの髪型を真似て、甲高い大声で両手を叩いて笑いあったかと思えば、小声で何かしゃべったり、歌いながらはやりの振り付けをまねしてはしゃぐ女子。


眉毛を細くして、こめかみを剃り上げて、立てた髪を整髪料でガチガチに固め、制服のズボンは太く、短く丈がつめられた上着をボレロのようにきこなしている男子。


髪は茶色く、緩いパーマがかけられていて、タックの沢山入ったくるぶしより長いスカートをはき、そのスカートの裾で廊下を擦りながら歩く女子。


中学3年間はとても短い。

高校というモラトリアム集団の一員になるべく励んだり、早々に社会にでて独り立ちを目指しながら、義務教育という名の束縛に抗ったりしている。


そして、大なり小なり自分の未来を思い描きながら、残り1年と何か月を過ごすのである。


ただ、自分の未来を見失いそうになっている人もいる。

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