ゴブリンは壮大な計画を持っています2

「分かっている、俺1人では逆立ちしてもう魔王は倒せない」


『ならばどうするのだ?』


「俺は学んだ」


『何をだ?』


「1人……1匹では何もなし得ないのだと」


 ゴブリンは弱い。

 いくら寄り集まっても厄介度が増して狙われやすくなるだけで逆効果になる。


 だから1人でも生きていかねばならず、1人でも戦えるようにならなきゃいけないといつ頃からか思っていた。

 けれどやはりゴブリン1匹でできることになど限界がある。


 ジジイとの戦い、あるいはここまでの歩みでもそうであるように集まって協力して戦うということは大きな力なのである。


「魔物というのは何も俺1人のことじゃない。この世の中には多くの魔物がいる」


『……つまりは何が言いたい?』


「俺は魔物を集めた国を作ろうと思う。魔物の軍をもって魔王を戦う」


 1人でダメなら2人、2人でダメなら10人、10人でダメなら100人、それでもダメならもっと。

 魔物はドゥゼアだけではなくこの世界に多くいる。


 たまたまではあるが今回のゴブ生で多くの魔物も理性的にものを考えられることを知ったし、ゴブリンの群れだってちゃんとすれば悪くなさそうなことも分かっている。


「そして魔王と戦う時に獣人にも協力してもらいたい」


 自分で魔物の国を建てて魔王と戦うだけならそれを獣人たちに伝えることはなかった。

 今回ドゥゼアが魔王のことを話したのはいざ魔王と戦う時になったら獣人にも協力してほしいと考えていたからだった。


『だが我々では魔王を倒せないのだろう?』


「倒せないことと戦えないことは別だ」


 倒せないということが正確にどんなものなのかはドゥゼアも知らない。

 しかし倒せないということイコール戦えないということではない。


 最終的に魔物が魔王にトドメをさす必要があるのかもしれないが共に戦うことはできるだろうとドゥゼアは思う。

 獣人の協力を得られなくてもそれはしょうがない。


 だが獣人の協力が得られるのなら大きな力になる。


「まだ魔王のことも確定でなければ、俺が魔物の国を興せるかも分からない。未確定な未来の話。どうする?」


 要するにドゥゼアの口だけの話なのだ。

 魔王の力だと感じたのはドゥゼアだけだ。


 未だに魔王は封印状態にもあるのだし何もかも信じられないと言われてもおかしくはない。


『俺はドゥゼアを信じよう』


 真っ先に口を開いたのはパルファンだった。


『獣人のために共に戦ってくれた友を俺は信じる。仮に魔王がいなかったというのならそれはそれで構わないだろう』


 パルファンは頑固さはあるけれど一度認めてくれるととことん味方でいてくれる。

 しかし他の種族から続く声はない。


 実際にドゥゼアがジジイと戦っていた光景を目の当たりにしなければ魔物を信じるとは言い切ることが難しい。

 今だってカジイラの命令だからと受け入れている獣人も多いのだ。


 無言の時間が続く。


『ならばこうしよう』


 たっぷりと状況を見守ったカジイラが立ち上がる。

 その場にいた獣人の視線が集まる。


『古来より我々獣人は行動で示してきた。口先だけでならなんとでも言える。そしてまだ無い国とは友好を結ぶことはできない』


 獣人たちを見回したカジイラは最後にドゥゼアを見た。

 一見すると否定の言葉のようだがその目はまだ終わりではないと語っている。


『もし仮にドゥゼアが本当に国を興して王としてまた我々と会うことがあったのなら、その時我々の国の初めての友は魔物の国となるだろう』


 要するに力を見せろというのだ。

 国を興してきたのならその時は受け入れる。


 ドゥゼアの話を信じてくれつつも他の獣人にも配慮した折衷案。


「感謝する、獣人の王よ」


『こちらも感謝している。いつかまた、今度は互いに王として出逢おうではないか』


『我が牙を研いで待っているぞ、ゴブリンの英雄』


「ありがとな、巨象の勇士」

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