ゴブリンはジジイと戦います3

『そうは言うが魔物など信頼できない』


 中でもパラファンは頑なだった。

 パラファンを防ぐカジオを睨みつけ、隙があればドゥゼアに襲いかかろうとしている。


『ならば何が信頼できる?』


『なんだと?』


 カジイラもドゥゼアを庇うように少し前に出る。


『人間は?』


『信頼できるはずがない』


『獣人は?』


『獣人ならば……』


『蛇族や猫族は?』


『む……』


 獣人なら信頼できると言うのはいいけれど裏切り者の蛇族や猫族は信頼できるのか。

 パラファンは顔をしかめた。


 そう聞かれると獣人だからという理由で信頼もできなくなってしまう。

 結局のところ獣人だから人間だからではなく個別の相手として信頼できるかどうかが大事なのである。


『ここに来るまでの間、ドゥゼアは君の近くにいた。その行いは魔物だったか? それとも我々と行動を共にする仲間だったか?』


『最初で最後だ』


『ん?』


『俺の人生で最初で最後。この一度だけ魔物を信じてやるというんだ』


 パラファンが感じていた殺気が収まっていく。

 納得しきったわけではないが、確かにドゥゼアは獣人たちの中にあっておとなしかった。


 それをもって味方だと断ずることはできないが魔物だから敵と決めつけることもできなかった。


『何かあれば俺が許さないからな』


『責任は私が負う』


「……次生まれるならこの国がいいかもな」


 もはや何かに仕えたいなどと思うことはないのだけど誰かの下につくことになるのなら獣人の国でもいいかもしれない。

 そんな思いすら抱く。


『みなもいいな? その強き者さえいなくなればあとはただの人間の軍だ。知らしめよ、我らが強さを。刻み込め、何に手を出したのか。忘れさせるな、我らが牙の恐怖を』


 ーーーーー


 人間の軍が目前に迫り、向こうも軍営を敷いて睨み合う形となった。

 まだいくらか距離はあるがこの防衛ラインを突破されてしまうと立て直しは難しく王城がある首都まで迫られてしまうことになる。


 事実上の決戦に近いのだと人間側も構えているのだ。


「大丈夫?」


 寡黙な方であるドゥゼアだがいつにも増して押し黙っている。

 レビスが心配そうにドゥゼアの顔を覗き込む。


「正直怖い」


 死への恐怖は忘れたと思っていた。

 しかしたとえ死んでまたゴブリンとして生き返れるのだとしても今は死ぬことが怖い。


 きっと今のゴブ生が他のゴブ生に比べて多くのものを抱えているせいだ。

 レビスを始めとした仲間たちもいるし獅子王の心臓も手にいれて、過去の記憶まで思い出した。


 このゴブ生は明らかに何かが違う。

 だから失うのが怖い。


 ジジイは強くて少しでも失敗すればゴブ生が終わってしまう。


「だがここで立ち向かわねばならない」


 実際の問題してドゥゼアが関わる必要などないのだ。

 けれどもここで逃げたらこの先ずっと逃げ続けることになる。


 そろそろ正面からしっかり顔も見てやりたいところである。


「私たちもいるから大丈夫!」


「で、出来る限り頑張ります!」


「ドゥゼアなら大丈夫」


「……みんな、ありがとな」


 怖いけど、仲間もいる。


『ドゥゼア』


「カジア?」


『これ使って』


 ドゥゼアのところを訪れたカジアはトウを差し出した。

 それはカジオが使っていたもので、ドゥゼアよりもカジアが使うのが相応しいだろうと返していたものだった。


『戦うんでしょ? 良い武器があればそれだけで生き残る確率は違うから』


 今はカジアが持つよりもドゥゼアが使う方が有意義だと渡しにきたのだ。


『使って。獣人のために戦ってくれてありがとう』


 情けない少年がいつの間にか真っ直ぐ立っている。

 過酷な状況だったのかもしれないがそれは短い間にカジアを大きく成長させた。


「ありがたく使わせてもらう」


 言葉は通じなくても思いは伝わる。

 ドゥゼアはトウを受け取って大きく頷いた。


 そして戦場に向かう。


『お父さん……ドゥゼアを守ってあげて』


 睨み合いが続く最前線ではもういつ戦いが始まってもおかしくなかった。

 獣人側としては時間がかかればかかるほど南側の兵力が到着する可能性が高くなるのでありがたい。


 それを知ってか知らずか人間たちも攻め込もうと兵を並べて立てているのでさほど衝突まで時間はなさそうだった。

 一番前にジジイの姿は見えない。


 そこにひとまずホッとする。

 仮に一番前にいたらドゥゼアもさっさと出てジジイを引きつけねばならなくなる。


 緊張が高まったピリついた戦場、一人の人間の兵士が前に出てきた。


『人の道を外れたケモノどもよ! いやしくも力で土地を奪い取り国を建てたがここは本来人間の土地だ! 大人しく降伏して全てを返すのだ!』


 なんとも上から目線の降伏勧告。

 誰があんな言葉で降伏するものか。


 獣人たちは神経を逆撫でされたように怒りをあらわにする。

 人間たちも大人しく降伏などすると思ってもないだろうし、言葉で降伏させようとも思っていないはずである。


『従わぬというのなら方法は一つだ!』


 兵士が手を上げると人間の兵たちが一斉に動き出した。


『獣人の力を見せてつけてやれ! 我々の居場所は我々の力で守るのだ!』


 吠えるようなカジイラの声が響き渡る。

 戦いが始まった。


 獣人の軍と人間の軍がぶつかり合う。

 個々の力としては獣人の方が強いが数的には人間の方が多くやや人間の方が押している。

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