ゴブリンはジジイと戦います2
『まあ言い争いで強さは決まらない。戦場で証明しようじゃないか』
『ええ……そうしましょう』
兵営が見えてきた。
先行した兵士たちや犬族、鳥族からもさらに兵士を出してもらい、ギリギリの防衛ラインを敷いていた。
人間の軍は蛇族の町を焼き払いながら南下しているためにやや進軍速度が遅い。
蛇族の領域は諦めて獅子族の領域との境界線の内側に布陣して人間の軍を待ち受けていた。
もうすでに人間の軍も間近まで迫っているのでこのままここで迎え撃つことになった。
慌ただしく戦いの準備が進められる中でドゥゼアは作戦会議の場に呼び出された。
カジオもドゥゼアの中にいるので王であるカジイラ含めた幹部級の人たちが集められたテントの片隅で話を聞く。
『問題は相手の軍にいるとされる強い兵士だろう。見た目は老年だがとんでもない強さがある。……おそらくジャバーナもその者にやられた』
事前にカジイラにはジジイのことを伝えていた。
1番の障壁になりそうな相手はジジイである。
パラファンならばジジイの相手もできそうだが周りのフォローなどによっては楽な戦いにはならない。
むしろジジイをこちら側に誘き寄せる形で有利な状況を作りたい。
『ジャバーナが……』
獣人たちに動揺が広がる。
相手に囚われている可能性も考えていたけれどジャバーナの姿はどこにも見えない。
未だに帰ってこないということはこのまま帰ってくることもないのだ。
カジオが最後に見たのはジャバーナがジジイと戦う姿。
周りのフォローもあっただろうがジャバーナはジジイに敗れたのだ。
『大猩猩族を倒した相手か……面白そうだ。俺が相手してやってもいいぜ』
パラファンはジャバーナが倒されたことにも動揺せずむしろ嬉しそうに笑う。
ジャバーナも強者なら強者に負けて悔いはないだろう。
より強いものが現れたことにパラフィンは闘志がたぎっていた。
『まあ待て』
カジイラはパラファンを手で制する。
パラファンが戦うことに文句はないが万全の体制は整えたい。
『その相手は接近戦だけでなく弓の名手でもあるらしい』
ジジイはうっそうとした森の中、距離が離れていたドゥゼアに強力な矢を当てた。
遠くから矢を射かけられては厄介である。
『ならどうする? 俺は突っ込んでいってもいいんだぜ?』
『一つ策がある』
カジイラが手招きしてドゥゼアが前に出る。
『お? あん時チビじゃないか』
『みな、落ち着いてこれからの話を聞いてほしい』
『あん? ……何を……なっ!』
カジイラの隣に立ったドゥゼアはゆっくりと犬の被り物を取り外して顔をさらけ出した。
『な……』
『まあ待て』
動き出すのが早かったのはパラファン。
魔物であるゴブリンだと理解した瞬間ドゥゼアに襲いかかった。
しかし伸ばされたパラファンの手はドゥゼアに届かない。
どこからともなく現れたカジオがパラファンの牙を掴んで止めたのである。
『落ち着いてほしい』
ドゥゼアの隣にいるカジイラは魔物がいるというのに全くの冷静である。
実はカジイラにはすでに正体を伝えていた。
王城での襲撃事件の後カジオのことを説明するためにも時間を捻出してもらい、カジオのことだけでなくドゥゼアがゴブリンであることも説明していた。
その時にジジイのことも伝えていたのである。
『しかしそいつは魔物だ!』
一斉に敵意を向けられる。
こうなることは予想していたのでドゥゼアも動揺することなく真っ直ぐに視線を受け止める。
『魔物だからどうした』
『なっ……魔物なんですよ!』
カジイラも全く引くことなく堂々としている。
『我々は見た目も違う種族の集まりだ』
同じく獣人と言っているがそれぞれの氏族は見た目も全く異なっている。
『だが見た目ではなく心で我々は獣人として集まっている。確かにドゥゼアは魔物だ。しかし見た目ではなく心で彼のことを見てほしい』
改めてカジイラのことを王たる度量の持ち主であるとドゥゼアは感心していた。
ドゥゼアがゴブリンであるということは簡単には受け入れられないだろう。
他の獅子族だって切羽詰まった状況だったからドゥゼアのことを受け入れたのではなくひとまず疑問を頭の隅に追いやったにすぎない。
それなのにカジイラはドゥゼアがゴブリンであることを受け入れて話を聞いた。
カジオが魔道具化して召喚されていることなんかも理解を示し、頭の回転の速さと予想外の話を受け入れる心の広さをドゥゼアに見せた。
王を決める時にどんな話し合いが行われたのか知らないが獣人の国は正しい選択をしたようだ。
『ここまでドゥゼアはこの国の……獣人のために奔走してくれた。たとえ魔物でもドゥゼアは我々の友なのだ。そして今回、先ほど上げた強力な兵士を引きつけるために囮になろうとしてくれているのだ』
確実にジジイを引きずり出す方法が一つある。
どうにもジジイはゴブリンを死ぬほど恨んでいるということがこれまでのことから分かっている。
だからドゥゼアが堂々と姿を現すとジジイは居ても立っても居られずにドゥゼアのことを狙ってくるはずなのである。
囮のゴブリンになってやろうというのだ。
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