ゴブリンはジジイと戦います1
『ガハハっ! まだ活躍の機会があるとはな!』
ネズミの獣人が死ぬ気で走って伝令を伝えてくれた。
強力な力を持つ少数氏族の獣人たちも急いで王城まで駆けつけた。
敵将である人間の王子を捕らえたと聞いていたが、巨象族はなんと人間の王子の頭を鷲掴みにしてそのまま連れてきていた。
グッタリとした人間の王子は雑に運ばれて死にかけていた。
一応手当てを受けて助かったけれど敵国の将なので楽な扱いは受けないだろう。
そんなのだから性格も豪快。
巨象族は名前の通りデカい獣人だった。
ジャバーナも体格は優れていたけれどそれよりもさらにデカい。
「あれよりも強かったのか?」
ドゥゼアは豪快に笑う巨象族の戦士パラファンを見上げる。
北の戦場に向かっているがパラファンが一歩歩く間にドゥゼアは何歩歩かねばならないのか。
カジオは獣人の中でも最強の戦士だと聞いていたがこんな相手にも勝てたのか疑問に思った。
『あいつと戦ったことはないがあいつの親父とは戦った。左腕をへし折られたが俺は牙を折ってやった』
「ほんとかよ」
『疑うなら聞いてみろ』
「時間があったら聞いてみるとするよ」
『ようチビ』
わざわざ獣人に声をかけることなどないと思いながらこっそりとカジオと会話しているとドゥゼアが見ていたことに気がついたパラファンが話しかけてきた。
少し腰を曲げてはくれているが、上から見下ろすようになってしまうのは仕方ない。
『カジオっていう獅子族がいると聞いている。どうやらお前さんがようだと聞いたんだがな。俺の親父がカジオってやつと昔色々あったようで気になってるんだ』
どうやらカジオの話もウソではなさそうだった。
『どうした? チビといったことを怒っているのか? しょうがないだろ、俺にとったら大体の獣人は小さいからな!』
再びガハハっと豪快に笑うパラファン。
『怒ってるんじゃないですよ。ドゥゼアさんは言葉が話せないんです』
『なに!? そうなのか! まあそうした奴もいるだろうな!』
ドゥゼアの代わりにカジアが答えてくれた。
ついてこなくてもいいのにヒューリウと共に一緒に行くといって聞かなかった。
南の侵略に対応するために多くの戦力を割いていた。
今回北の侵略にも対抗するため予備の兵力をほとんど注ぎ込んだ。
まだ王城が襲われる可能性もあるので一緒にいた方が安全かもしれないということでカジアもヒューリウもついてきていた。
『お父さんのこと知ってるんですか?』
『お父さん? お前はカジオの息子なのか』
『はい、僕のカジオです!』
ようやく父親のことをちゃんと知った。
カジオは嬉しそうに大きく頷いた。
『俺もよくは知らん。だが親父がよく話していた。勇気ある強い獣人だったとな』
『そんなことを……あいつも丸くなったもんだ』
『会ったらぶっ飛ばしてこいと言われていた。親父の復讐に付き合うつもりはないが強いやつには興味がある』
『そうなんですか』
『カジオの子ならお前も強くなりそうだな』
パラファンはカジアの頭に手を乗せてグリグリと撫で回す。
首が取れてしまいそうになりながらも気のいいパラファンにカジアも笑顔だった。
『カジオのことがあったから俺たちも獣人の国とやらに加わることにしたんだ』
『まあカジオがいない今なら俺が獣人最強といったところかな』
『それは聞き捨てなりませんね』
『ああ?』
パラファンの言葉に反応したのは氷豹族の女性だった。
青っぽい不思議な豹の女性でしなやかで均整の取れた体つきをしている。
『最強は我々氷豹族です。粗雑な巨象族ではありません』
『ガハハっ、そうかそうか! 先の戦いで功績を上げたのが俺たちなことがそんなに悔しかったか?』
『あなたの体でかいから敵が寄ってきただけです』
『何もしなくても目立っちまうのはしょうがないからな!』
『それにカジオさんが生きていたらあなたも勝てなかったでしょう』
『カジオ……さん?』
『なんですか、いいでしょう』
照れ臭そうに氷豹族の女性は顔を逸らした。
「氷豹族とも戦ったことあんのか?」
『ああ、割と年行った氷豹族だが強かったよ。……あん時孫を相手にって勧められたけどまさか……いや』
「モテるんだな」
直接会ったことのないカジオに対してさん付けで敬意を表している。
あるいは敬意以外の思いもあったのかもしれない。
『からかうな。俺はヒューリャー一筋だ』
「そんな真面目なところがいいっていう女性もいるからな」
『どの道俺はもういない』
「まあ、そうだな。それにしても色々戦ってるんだな」
『若気の至りだ。武者修行として色んな氏族に喧嘩売りに行った。どいつも面白いって受けてくれたよ。だから俺も強くなれた』
強かったのには強かったなりの理由がある。
カジオもお山の大将ではなく色んな氏族と直接戦って腕を磨いた。
時には負けたこともあったが諦めずに戦いを挑んで最後にはカジオが勝利を収めた。
そんなんだから名実共に認められる獣人の最強などと言われる。
カジイラが口がうまく諦めずに交渉したから少数氏族も加わったということもあるが、実はカジオという男の行動がいくらか影響を与えている側面があったのである。
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