ゴブリンはジジイと戦います4

 あまり戦争には積極的ではないのか、それとも秘密兵器的な扱いなのかジジイの姿は見えない。


「行くか」


 見えないのなら引きずり出す。

 ドゥゼアは敵の層が薄い戦場の右方側に移動する。


「みんな、準備はいいな?」


 いつものメンバーもドゥゼアと同じく移動してきていた。


「うん」


「やるよ!」


「が、頑張ります!」


 レビス、ユリディカ、オルケはドゥゼアの目を見て頷く。

 ここまで来てドゥゼアを見捨てるなんてことをするつもりはない。


「例のジジイ、いたであるよ!」


 もちろんバイジェルンもいたりする。

 身軽さを活かして人間たちの偵察に行ってくれていたバイジェルンがジジイが後方に位置していることを見つけてくれた。


「よくやった」


「ここのところ影が薄かったから頑張ったである!」


 町中では危険なのでなかなかバイジェルンの出番はなかったけれどちゃんと近くにはいた。

 張り切って頑張ってくれたバイジェルンの働きにも応じるためにドゥゼアは懐から青い布を取り出して振る。


『ゴブリンだ!』


『戦場にゴブリンがいるぞ!』


 すると周りにいた獣人の何人かがわざとらしく大きな声を上げる。

 ドゥゼアがフードを下ろして顔をさらけ出すと周りに動揺が広がる。


 獣人たちは一応ゴブリンを囮に使うと聞いていたのだけど本当に現れるとやっぱり驚く。

 しかし上から敵ではなく攻撃しないようにと言いつけられているので獣人たちはドゥゼアに手を出さない。


 ドゥゼアはニヤリと笑うとトウを手に人間に襲いかかった。


『うわー! ゴブリンがいるぞ!』


『気をつけろ、ゴブリンだ!』


 戦場での声なんか誰のものが判別できる人はいない。

 わざと騒ぎ立てる獣人の声なのか、ゴブリンに動揺した人間の声なのか誰にも分からない。


 だがそれでいい。


「うっ!」


 人間の首を切り裂いたドゥゼアの頭を目掛けて矢が飛んできた。

 ドゥゼアは矢をトウでなんとか弾いて受け流した。


 手が痺れるような威力の矢は弾き飛ばされて近くにいた人間の足に深々と突き刺さった。


「よう、ジジイ。俺たちは縁があるようだな」


 こんな威力の矢を放つ人は1人しかいない。

 肌がひりつくような強い殺気を感じてドゥゼアは笑った。


 弓を投げ捨て剣を抜きながら殺気のこもった目でドゥゼアを睨みつけるジジイがいつの間にか前線に来ていた。


『貴様……やはり前にあったことがあるゴブリンだな』


 ゴブリンなど皆一様に同じ。

 違いなどなくただ倒すべき魔物であるだけ。


 ジジイはそう思っていたのだが、たった一体だけ他と違うと言えるゴブリンがいた。

 濁った知性のない目をしているゴブリンの中で理性的な意思を宿した目をしていたゴブリンが記憶に残っていた。


 過去にトドメを刺し損ねて、少し前にも逃してしまった。


『なぜ獣人といるのかは知らないが……やはりゴブリンは活かしておけん』


 ジジイの放つ殺気に人間たちが自ずと周りから距離を取り始める。


「なんでそんなゴブリン嫌うのか知らんが……少し遊ぼうぜ」


 ドゥゼアは口の端を歪めて笑うと挑発するように手招きした。

 戦う前は怖いと思っていたのに今は少しだけワクワクしている。


『癪に触るゴブリンだ!』


 ジジイが一気にドゥゼアと距離を詰めて剣を振る。

 ギリギリのところでドゥゼアが剣をかわして反撃に出た。


 この体に転生したばかりの頃ならかわせもしなっただろう。

 けれど今は違う。


 獅子王の心臓で体は強化され転生前の記憶を思い出したことで体の使い方もマシになった。

 さらにはユリディカの強化支援も今はある。


 それでもギリギリであるのだが全く敵わないという領域からは抜け出せた。


「心臓を燃やせ……」


 より強く、より力を引き出すために心臓を意識する。

 全身が鼓動するように激しく心臓を脈打たせて血を体に巡らせると、これまで感じたことのない高揚感と共に体の動きにキレが出る。


『本当にゴブリンか?』


 全力ではないが手を抜いているわけでない。

 なのにドゥゼアに攻撃をかわされて反撃までされることにジジイは驚きを覚えていた。


 普通のゴブリンならばなす術もなくやられていた。

 最初に会った時の矢を受けて必死に逃げていた時とは動きが違っている。


『むっ! もう一体ゴブリンがいたか』


 矢が飛んできてジジイは剣で叩き落とした。

 流石にレビスがジジイと接近戦を行うのは危険すぎる。


 だから久々に弓矢を持っての参戦だった。


「やああああっ!」


『魔法? 珍しいな』


 鋭く先端が尖った氷がジジイに向かって飛んでいく。

 獣人も魔力は持つのだが魔法を使うことは苦手としているので魔法を使って攻撃してくるのは意外なことだとジジイは思っていた。


『逃すか!』


 ジジイが魔法を切り捨てている間にドゥゼアは後退していた。

 すぐに距離を詰めてきてドゥゼアは苦しい防戦を強いられる。


「くうっ!」


 ジジイの剣が腕をかすめて血が飛ぶ。

 けれどすぐに傷が塞がっていく。


 ユリディカの癒しの力である。


「ふふん、いくら怪我しても治してあげるからね!」


 ゴブリンの高い回復力に癒しの力が加わると小さい傷ぐらいならあっという間に塞がってしまう。

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