ゴブリンは獣人の底力を思い知ります3
ドゥゼアは再び犬の獣人の被り物をして移動し始めた。
本来なら父親と息子の会話の時間でも設けてやりたいところだが、時間もなければ何が起こるかも分からないのでカジオを温存しておかねばならなかった。
途中一度だけ魔物に襲われたが獅子族たちが素早く処理して王城がある中心地までたどり着くことができた。
「な、なに!?」
戦争のためにピリつく空気の中、王城に向かっていたら王城で大きな爆発が起きた。
王城から黒い煙が上がっている。
ドゥゼアたちだけじゃなく町の人々も爆発を驚いたように見ている。
『お、お父様!』
『ヒューリウ!』
ヒューリウが走り出してカジアが追いかける。
ドゥゼアたちも遅れてカジアを追いかけるように走り出して王城に向かう。
ーーーーー
『卑怯者め……』
カジイラは吐き捨てるように呟いた。
日々綺麗に保ってくれている王城の部屋が二つ消し飛んでしまった。
『恥も誇りも忘れたか、メクーン』
カジイラは4人の獣人に囲まれていた。
正面に立っているのは大猩猩族にも負けないような大柄の猫族。
『ガハハ、貴様こそ人のことは言えないではないか』
メクーンという猫族の獣人は猫族の族長であった。
カジイラに冷たい視線を向けられてもどこ吹く風でヒゲを撫でる。
『もうすでに戦争は始まっている。なのに王たる者が前線に立たずこんなところで引きこもっているとはな? 貴様こそ戦士たる誇りを忘れたのだ』
『人間と組んで獣人の誇りを捨てたお前は言われたくはないな』
『ふん、好きに言っていろ。ふふふ……どうやら体調が優れないという話は本当らしいな。今日こそ我々猫族が獣人の頂点に立つにふさわしいということを証明してみせる』
メクーンが手を開いて爪を出す。
背中の毛を逆立たせて臨戦態勢を取る。
『ならば正々堂々とやればいいものを』
『王様!』
『おっと!』
騒ぎを聞きつけた兵士たちがやってくるけれどカジイラを取り囲んでいた獣人たちが立ちはだかる。
白いウサギの獣人が振り回すと風が巻き起こり、兵士たちは足を止めた。
『すまないが行かせられないぜ!』
『ごめんね』
ウサギの獣人の隣にいるのは黒い犬の獣人。
短めのトウをそれぞれの手に持ち、感情のこもらない目で兵士を見ている。
『そこを退け!』
強者たる雰囲気があるウサギと犬に兵士たちは気圧されるけれど王様を守るためには圧倒されている場合ではない。
1人の兵士が勇気を振り絞ってウサギの獣人に向かっていった。
『……グァッ!』
『ゲッゲッゲッ、ちゃんと横も見ないと』
しかし兵士はウサギの獣人に近づく前に横から飛んできた火の玉に吹き飛ばされる。
残る1人はカエルの獣人だった。
さらに珍しいことに戦士ではなく魔法使いであった。
『全員突撃だ!』
兵士たちがワッと動き出す。
『ハハハッ! あんな王守る価値もないだろう!』
ウサギの獣人がハンマーを振り回す。
単なる決して見かけ倒しではなくハンマーに殴られた兵士が空中に飛んでいく。
ものすごい力である。
黒い犬の獣人は素早く動き回りトウで兵士を切りつける。
カエルの獣人はそんな2人の後ろに回り込むようにしながら魔法を打ち込んでサポートしている。
『大事な護衛も戦場に出していない。あとは俺が引き裂くだけだ』
『やってみるといい。欲望に鈍った爪でどこまで戦えるのか見ものだな』
『なら見せてやる!』
メクーンが一瞬でカジイラと距離を詰めて爪を振り下ろす。
カジイラは上体を逸らして爪をかわすが、かわしきれずに胸が浅く切り裂かれる。
『クッ……』
メクーンが激しく腕を振り回し、カジイラはなんとか回避していく。
しかしカジイラの体には浅い切り傷が増えていく。
『やはり力無い王だな! このような攻撃もかわせぬか!』
ボロボロになっていくカジイラを見てメクーンが笑う。
『グオッ!』
爪をかわしたカジイラの脇腹にメクーンの蹴りがめり込んだ。
まともに当たった蹴りにぶっ飛ばされてカジイラが壁に叩きつけられる。
『そのような強さで獣人の王に君臨していたのか? ふん、情けない』
『……確かに俺には目覚ましい武力などない』
カジイラは激しい痛みに耐えながら自分の足で立つ。
その目にはまだ強い意思の炎が燃えている。
『だが俺には力がある』
『なんの力だ? 王たる権力か?』
『権力など振り回すつもりもない……しかし俺には王に選ばれた理由となる力があるんだ』
『なんだと? 強さでないところでお前が王に選ばれる理由があったというのか?』
『きっと……カジオ兄さんでもあんたでもなし得なかったことを俺はできるんだ。いや、やったんだ』
カジイラは不敵に笑う。
その笑みを浮かべる理由が分からなくてメクーンは顔をしかめた。
『何をしたという? 獣人たちの牙を抜き、くだらない国にしたことでも誇っているのか』
『……獣人たちの牙は抜けていない。こんな状況だろうと確かに自分を高めることができるし牙は研げるのだ。勝手に腐っていって牙を研ぐのを止めたのはお前らの方だ』
『減らず口を……』
メクーンは呆れかえる。
これまでメクーンは王になるために牙を研いできた。
腑抜けた王に代わり、強い獣人の国を率いていくのは自分であるのだと機会を狙っていた。
今も王を守るような人はおらず、人間は侵攻を続けている。
カジイラの王としての度量が招いた事態であるのだとメクーンは責め立てる。
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