ゴブリンは獣人の底力を思い知ります2
ゴブリンにやられたなど恥であるかのように人はいうけれどゴブリンにやられた人を探そうと思えば意外と見つかるものである。
狡猾さがあり数もいる。
正面から戦えば倒すことも容易いが決して油断してはならない相手。
それがゴブリンなのである。
今回は獣人に紛れて戦っているから驚きもあるのだろうけど、きっとゴブリンにやられたという驚きもあったはずだ。
「立派なもんだな」
『守るものがあると人は強くなれるからな』
『大丈夫?』
『大丈夫だよ。ヒューリウこそ怪我はない?』
『うん、ありがとう』
カジアも1人倒していた。
ユリディカの強化とレビスの助太刀付きであるが頑張った方である。
何人か人間を逃してしまったが追いかけるような余力もない。
今から戻って部隊を再編成したところで追いつくのは無理だろう。
「それにしてもジジイがいなくて助かった」
あいつが魔王なんじゃないか。
そんな風にすら思うほどに強いジジイが追いかけてきていなかったから人間たちを押し返すことができた。
ただなんで追いかけてこなかったのかは少し疑問だ。
ドゥゼアがゴブリンなことはバレている。
ジジイが出てきていてもおかしくはないと思うのに。
『ジャバーナかもしれないな』
「あいつが?」
本当ならジャバーナも合流する予定だった。
しかしジャバーナは来なかった。
ドゥゼアたちを逃すためにジャバーナはジジイの前に立ちはだかった。
獣人の中でもトップクラスの強さを誇るジャバーナといえど大きく疲弊した状態で化け物のような強さのジジイを相手にして勝てるはずはない。
ジャバーナが合流しなかったということはおそらく、という予想ができる。
だがジジイも追いかけてこなかった。
つまりはジャバーナはジジイに痛手を与えたのだろうとドゥゼアは思った。
『ドゥゼア……助かった』
仲間の状況を確認したマルヤがドゥゼアに礼を述べる。
人間たちも決して弱いものではなかった。
ヒューリウを取り戻しに送られてきた刺客なのだ、強くて足の速いものを選んだ部隊だった。
今の状態の獅子族が戦えば被害は避けられないものだった。
しかしドゥゼアたちの奮闘で獅子族に死者は出なかった。
特にユリディカの働きは大きいのだけどドゥゼアもリーダーを倒し、体の小ささを活かして相手を撹乱する戦いを見せた。
魔物だからと一度武器を向けたが人間よりも信用してよさそうな味方であることは間違いなかった。
素早く状況を立て直して再び中央を目指して移動を始める。
体力的な限界もあるので夜は休んだ。
人間が追いかけてくるのではないかと心配したけれど最初に追い返した以外は追ってきていなかった。
他の蛇族の町に避難を呼びかけに行った獅子族が合流して話を聞いたところ、避難を促したにも関わらず一部の蛇族は人間に対して攻撃を加えたらしい。
裏切られたせいなのか、それとも裏切りを知らず侵攻された怒りか、仲間をやられた恨みなのか知らないけれど、人間の軍に突っ込んでいってしまった。
流石にそこまで面倒は見切れないので獅子族は離脱した。
だがそのおかげで追いかけてくる部隊がいなかったのだ。
人間たちは怒り狂う蛇族の対処に追われて余裕がなかったのである。
『族長!』
『イチゲン! どうした!』
蛇族の領域を抜けて獅子族の領域に入ってきた。
獅子族の町の方から若い獅子族が走ってきた。
『人間の国が攻めてきました!』
ーーーーー
時同じくして別のところでも大きなうねりが獣人の国に襲いかかっていた。
猫族が獣人を裏切って人間と共に侵攻を始めたのである。
蛇族を裏切った人間の国とはまた別の国からの侵略で獣人の国は今大騒ぎになっていた。
当然獅子族にも兵を出すように要請があったのだが、族長であるマルヤもおらず動けないでいた。
「こんな時に……いや、こんな時だから動いたのかもしれないな」
獅子族の町まで戻ってきたドゥゼアたち。
慌てたような獅子族の話を聞いて状況が最悪なことを知った。
不運な侵攻が重なったと考えてしまうことは簡単だが、あまりにもタイミングが良すぎる。
まるで他国が侵攻することを分かっていたかのように猫族も動いている。
もしかしたら蛇族や他国の動きを注視していた可能性もあるかもしれないと話を聞いてドゥゼアは思った。
蛇族は人間に裏切られたけれど猫族の方は裏切られずに人間と獣人の国を攻撃している。
裏切る裏切らないどちらにしてもメリットデメリットはあるけれど同時にそのどちらも見られるとはあまりあることではない。
「どうして裏切ったりするんだろうね?」
「知らない。私はドゥゼアを裏切らない」
ユリディカやレビスには裏切ったりする心理が理解できていない。
何があろうと仲間は仲間で獣人のようになることなんてあり得ないのである。
ある種無知だと言えるが裏切らないから裏切る気持ちが分からないのは悪いことではない。
『カリヤ、頼むぞ』
『分かりました、父上』
『ドゥゼア……お前にも苦労をかける』
「言葉通じないと思うが、気にするな」
蛇族の領域から人間が迫ってきているので獅子族の方から兵は出せない。
さらにヒューリウを送り届けたり蛇族の方からも侵攻があることを伝えねばならない。
ここまで頑張ってくれた獅子族たちは休むことにして町に残っていた別の獅子族たちが護衛してヒューリウをカジイラのところまで送り届けることになった。
マルヤの息子であるカリヤがそのリーダーを務める。
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