ゴブリンは獅子のお姫様と出会いました2

 そしてオゴンに対して警戒心を剥き出しにしている。

 トモナイに庇うようにされている女の子は何が何だか分からないといった顔をしている。


『ぶつかってきたのはそちらだぞ』


 オゴンはカジアに手を貸して立ち上がらせる。


『礼儀というものを忘れたのか』


『礼儀は払うべき相手だから払うものです』


『だからといってぶつかっておいてその態度ではその子の教育にも良くないだろう』


 オゴンとトモナイの間にピリピリとした空気が流れる。


『ぶつかったこと謝罪いたします。ですがなぜあなたがここに? そしてその子は一体……』


 オゴンが獅子族から離れた理由が分かるなとドゥゼアは思った。

 トモナイは相変わらず警戒をあらわにしながら睨みつけるようにカジアに視線を向けた。


『この子について話があるから獅子族を訪ねにきた。族長はいるか?』


『また何をするつもりですか?』


『それは族長に話す』


『……あなたは』


『じい、この人はだあれ?』


 かなり緊迫した雰囲気であるがこうした時に子供というのは強いものだ。

 空気を読まずに女の子がトモナイに疑問をぶつけた。


『この人はその……』


『俺はオゴンだ。見ての通り白獅子族だ』


 言い淀むトモナイに代わってオゴンが答える。

 トモナイは勝手に答えるなとオゴンを睨みつけるがオゴンは全く気にしたような素振りもない。


『これ以上余計なことを吹き込まれたくなければさっさと族長のところに案内してくれ』


『……何も話すんじゃないですぞ』


 顔をしかめて悩むトモナイだったが大人しくしていた方がいいと判断した。

 女の子の肩に手を乗せて強く念を押すと、女の子の方もその圧に押されて静かに頷いた。


『その子の名前を教えてくれないか?』


『誰がお前なんかに……』


『私はヒューリウ。ヒューって呼んでね』


 ヒューリウはトモナイでもオゴンでもなくカジアに笑顔を向けて自己紹介した。


『君の名前は?』


『僕はカジア』


『カジアか。いい名前だね! よろしく!』


『うん、よろしく』


 ヒューの笑顔に釣られてカジアも笑顔を浮かべる。


『カジア……だと?』


 ニコニコとしている子供たちの後ろでトモナイが驚愕したような表情を浮かべた。


『そうだ。だから早く案内してほしい』


 ーーーーー


『じゃああなたは私の一つ上なのね』


 トモナイに案内されて歩きながらヒューはカジアに興味を持って話しかけていた。

 ドゥゼアたちが全く反応しないから反応してくれるカジアのところに行っているのかもしれない。


 カジアも近い年の獅子族のヒューに緊張しながらも、話せる相手ができて嬉しそうだった。

 トモナイは話すのをやめなさいと言ったけれど、理由を尋ねても答えないからヒューはそのままカジアと話し続けていた。


 深いため息をついてトモナイはヒューを止めることを諦めた。


『さっきはどうして森から飛び出してきたの?』


『ちょうちょ、見なかった?』


『青い蝶が飛んでたっのは見たよ』


『あの蝶は薬の材料になるの。だから追いかけてたんだけど……周り見えてなかったね』


 えへへ、とヒューは頭をかいて笑う。

 蝶を追いかけるのに夢中になって周りが見えていなかった。


 青い蝶だけを見て飛び出してきたらそこにカジアがいたのである。

 勢いづいた体は止まらなかった。


 そうしてカジアとヒューはぶつかったのである。

 横で話を聞きながらぶつかったのが自分やレビスでなくてよかったなとドゥゼアは思う。


 もしぶつかられていたら正体がバレていた。

 トモナイに止められてもそのままヒューを殺していたかもしれない。


『どうだ? あの二人お似合いではないか?』


「知るか。話しかけるな」


 相変わらずオゴンとトモナイの間は非常に冷えているがたいするようにカジアとヒューの間は和気あいあいとしている。

 そんなカジアとヒューの様子を見てカジオはなかなか悪くないのではないかと思っていた。


『それにヒュー……か』


「お前のパートナーの名前もヒューだったな」


『まあ時々つけられることのある名前だ。愛称にすればヒューというのも被ることはある』


 カジオの妻の名前はヒューリャー。

 愛称はヒューであった。


 なんの因果かヒューリウはヒューリャーと名前も似ているし、愛称も同じであった。


『なんとなくだがヒューリウはヒューリャーにも少し似ているな』


 カジオは妻の姿を思い出す。

 カジオとヒューリャーは幼馴染で昔からの仲であった。


 昔はまだ獣人の国がなく、カジオたち獅子族も人間から隠れるようにして過ごしていた。

 けれどわざわざ人間の方から獅子族を探しに来ることもないので自然の中でカジオもヒューリャーものびのびと生きていた。


 ヒューリャーはおてんばで、他の女の子が好むようなことよりも狩りなどを好んで行っていた。

 ヒューリオもそんなヒューリャーと似ているなとカジオは思っていた。


『族長はまだマルヤのままなのか?』


『ああ、そうだよ。後継者として鍛えている者はいるから近々変わるかもしれないが、まだまだ現役だ』


『そうか、もう世代交代の時期なのか。早いものだな』


『時は常に流れている。だが忘れられないものもある……』


 トモナイはオゴンを睨みつける。

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