ゴブリンは獅子のお姫様と出会いました1
オルケがナンパされるなんて事件はあったけれどその他には特に問題もなかった。
むしろオルケは獣人に紛れられることが分かったのでありがたいぐらいだ。
何かに襲われるということも警戒していたがそんなこともなかった。
『あの子に心臓の使い方を教えたのはカジオ兄さんなのかい?』
「そうだがそれがどうした?」
『いや……さすがだなと思って。兄さんの血を引いているだけあって力強い鼓動をしている。このまま鍛えていけば兄さんのような強い獅子になることだろう』
夜寝る前に行うカジアの鍛錬は続けていた。
最初の頃よりも動きはかなり良くなっていた。
『カジオ兄さんの才能を受け継いでる』
獣人だから心臓の扱いに関して成長が早いのかと思っていたがカジアはオゴンの目から見て才能があるようだった。
『それ比べて……ドゥゼアは心臓の使い方が甘いな。まだ完全に体が力を受け入れていない。獣人ではないから仕方ないのかもしれないがもう少し心臓に身を任せてもいいかもしれない』
だいぶ力を使うことには慣れてきたと思っていたがオゴンから見てドゥゼアはまだまだだった。
使ってはいるが受け入れきれていない印象があった。
もしかしたらまだ心のどこかで獅子王の心臓を疑っているのかもしれないとドゥゼアは思う。
あるいは心臓に自身が耐えられるのか不安なのかもしれない。
『そう悩むことはない。獣人以外が獣人の心臓を持ったなど初めて聞くが……もうその心臓はお前のものだ。俺たちの中では心臓は裏切らないという言葉がある』
オゴンはユリディカと戦うカジアを見ながら言葉を続ける。
『他人は裏切ることがあっても心臓、そして心臓と重ねた努力は裏切らないのだ。もっと心臓を使い、心臓を信頼しろ』
「努力しよう」
『……なんと言ってるか分からん』
ーーーーー
地図上の区分としては犬族の領域を越えて中央、つまりは獅子族の領域に入ってきた。
犬族の領域が近いためか犬の獣人は依然として多い。
けれども犬族の領域にいた時よりも他氏族の獣人の姿も多くなってきていた。
『まずは獅子族のところに向かおう』
カジイラを訪ねたいところであるがカジイラは王様である。
いきなり訪ねてあってもらえるとも思えない。
特にオゴンは信頼が低い。
カジアを連れてきたと言っても信頼してもらえるか分からない。
取り調べでもされたらドゥゼアたちが危険であるし、その間にカジアが誰かに襲われるかもしれない。
先に獅子族にあって事情を話して協力を取り付ける方がいいだろうと考えた。
中央は獅子族の領域となっているが中の関係は色々複雑。
首都周辺は獅子族というよりも獅子族というよりも王国の支配域となっている。
カジイラも獅子族なので獅子族の領域とも言えるのであるが獅子族は獅子族で族長がいて、また王国政府とは別に力を持っている。
なので獅子族が多く集まっている町が存在しているのだ。
とりあえずドゥゼアたちは獅子族の町に向かうことにした。
『し、獅子族かぁ……』
カジアは1人緊張していた。
というのも母親もオゴンも獅子族ではあるのだがその中でも白い姿をした白獅子族なのである。
対してカジアの見た目は黄金色をした通常の獅子族の姿をしている。
そういった意味では他の獅子族に会うのは初めてということもできる。
多くの同族に会ったこともないのでどんなんだろうとドキドキしていた。
『そう緊張することはない。見た目はイカついが優しい人が多いからな』
そんなカジアの心情を察してかオゴンが優しく肩に手を乗せた。
『今の族長様ってどんな人なんですか?』
『獅子族の族長か? あいつはサワラカと言って……』
「蝶?」
穏やかに会話するカジアとオゴンの前を青い蝶がヒラヒラと通り過ぎた。
『わー! どいてどいてーーーー!』
『えっ? うわっ!』
「なんだ!?」
道の横の森の中から何かが飛び出してきてカジアにぶつかった。
襲撃かと思ってドゥゼアたちは戦闘態勢を取る。
カジアとぶつかってきた何かはもみくちゃになりながら転がっていく。
「ユリディカ、ヒールの準備だ!」
見たところ飛びかかってきたのは獣人だった。
ドゥゼアが剣を抜いてカジアに覆いかぶさる獣人にトウを振り下ろそうとした。
『お待ちください!』
切羽詰まったような叫び声が聞こえてドゥゼアはなんとかトウを獣人ギリギリのところで止めた。
『いてて……ごめんね!』
カジアにぶつかったのは獅子族の女の子であった。
『あ、う、うん。君こそ大丈夫?』
『へへ、私は大丈夫!』
ニコリと笑う女の子の顔にカジアの胸が大きく高鳴った。
『申し訳ありません! 襲いかかったとかそういうことではなく、ちょっとした事故なのです!』
森からもう1人獅子族の獣人が息を切らせて走ってきた。
『お怪我は……あ、あなたは!?』
見た目には分かりにくいが若い獣人ではなくそれなりに年のいった獣人だった。
獅子族の獣人はオゴンを見て驚いたように目を見開いた。
『オ、オゴン・イラーデ! な、なぜここに!』
『あなたは……トモナイ。久々ですね』
『お嬢様、こちらに!』
トモナイと呼ばれた獣人はカジアの上に乗る女の子の獣人を引っ張ってそばに引き寄せた。
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