ゴブリンは獅子のお姫様に出会いました3

『恨みを忘れろとは言わない。だがあの子、ヒューリウに何かを知られたくないのならその態度は止めるんだな』


 悪いことをしたのはオゴンである。

 それを恨みに思うことは止められない。


 しかしトモナイはヒューリウにオゴンのことを隠そうとしている。

 明らかに敵意を剥き出してにしていては隠せるものも隠せはしない。


 トモナイはそのことを指摘されて苦々しい顔をする。

 正しい指摘だから反論できない。


『トモナイさん! あれ、そちらの白獅子族の方々は?』


 ヒューリウと会ったところから歩いていくと大きな町が見えてきた。

 町の獅子族の若者がトモナイを見つけて近づいてきた。


 町の獅子族ならほとんど顔を見たことがある。

 けれど見たことのない獅子族に若者は首を傾げた。


『族長に用事があるのだ。ババを族長のところに行くように呼んでくれんか?』


『分かりました』


 若者が走り去っていき、ドゥゼアたちは町の中心部に向かう。


『若い者はオゴンのことが分からないのか』


 トモナイはオゴンにすぐに気がついたが若者はオゴンのことを知らないようだった。

 昔ならオゴンのことを知らない人はいなかった。


 しかし戦争同時に子供であってそこから10年も経てば知らない人がいてもおかしくない。


『あら、トモナイさん。今日はどうかしました?』


 町の中心に立っている大きな建物に入る。

 見ると役所か何かのようで獅子族の獣人を中心に働いている人たちがいた。


 受付にいる獅子族の女性がトモナイを見てニコリと笑顔を向けた。


『マルヤ族長はいるか?』


『ええ、いらっしゃいますよ。なんのご用事でしょうか?』


『緊急で話したいことがある。白い裏切り者についてだ』


『白い……』


 そこでようやく受付の女性はオゴンの存在にも気がついた。


『あなたは……!』


 カッと目を見開き牙を剥き出しにする。


『止めるんだ。マルヤ族長に時間を作れるか聞いてくれ』


『…………分かりました』


 受付の女性は忌々しそうにオゴンを睨みつけると席を立った。


『ふっ、嫌われているな』


 あまり注目を浴びてもいいことがない。

 これまで顔を晒していたオゴンもフードを被った。


『まあ、あの子はカジオ党だったからな』


『……カジオ党?』


『知らんのか? お前とカジオは強かったから女性にも人気だった。カジオにはヒューリャーがいたから少しばかり人気も劣っていたがそれでも彼のことを好きだという人も一定数いた』


 そうしたカジオが好きだった女性たちのことをカジオ党などと呼ぶ。

 当時はオゴン党もあったのだが事情が事情なだけに今はない。


 だがカジオ党の方は今でも根強く存在している。

 受付の女性は生粋のカジオ党であった。


 そのためにカジオを裏切ったオゴンのことを非常に嫌っているのだ。


『そんなものあったのか』


「奥さん一筋だったのか?」


『…………そうだ』


 カジオの照れたような感情が伝わってくる。

 昔からヒューリャー一筋で他の女性には目もくれなかったカジオはそんな派閥があることなど知りもしなかった。


 むしろそんな一筋である硬派なところがいいという女性もいたりしたのだ。


『今大丈夫だそうです』


 受付の女性が戻ってきた。


『ヒューリウ、お前は先に帰っていなさい。帰りに頼まれていたお使いを頼みますよ』


 トモナイがヒューリウにお金を渡す。


『分かった。カジア、またね』


『うん、バイバイ』


 笑顔で手を振るヒューリウにカジアも手を振りかえす。

 案内されて獅子族の族長であるマルヤの部屋に行く。


 最後に受付の女性がオゴンを睨みつけて戻っていき、ドゥゼアたちは獅子族の族長に会うことができた。


『久しぶりだな、マルヤ』


『軽々しく名前を読んで欲しくないものだが……族長と呼ばれるのも気分が悪いからな』


 縦に走る大きな傷が左目にあるかなり大柄の獅子族の男性がマルヤであった。

 カジオやオゴンも体格的に大きいがそれよりもさらに一回り大きい。


『……歳を取ったものだな、マルヤ』


 少しの悲しみをにじませてドゥゼアの中でカジオがつぶやいた。

 戦争当時すでにピークを過ぎていたがマルヤはまだまだ現役でカジオも教えを受けたことがあった。


 ドゥゼアから見れば十分に大きいのだが、カジオから見ると昔はもっと圧力を感じるような張り詰めた肉体をしていたのに少し小さくなっていると感じられた。

 10年は人を老いさせるのにも十分な時間であった。


『今日はなんのようだ?』


『お前が獅子族を離れてから久しく、連絡もなかった。なのにどうしていきなり戻ってきた?』


『どうしても獅子族の助けが必要になってな』


『我々の助けだと? 獅子族を裏切っておいて……』


 やはりオゴンは獅子族に歓迎されていないようである。

 マルヤはオゴンに敵意は向けないものの非常に冷たい目を向けていた。


『俺だけの問題ならばそこらへんで野垂れ死ぬことを選んでいた。しかし今回は俺の唯一の友人と、姉さんに関わることなんだ』


『なんだと?』


『カジア』


『はい』


『カジア……だと?』


 オゴンが名前を呼ぶとフードを深く被っていたカジアが前に出る。

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