ゴブリンはイタチを狩ります3

 押さえている方の手だってチクートをまとった爪が立っている。

 押さえる方を防げば振り下ろされる爪を防げない。


 振り下ろされる爪を防げば爪が突き刺さってじわじわと死んでいく。

 どうすればいいのか。


 そんな判断を下すこともできずにアイアンテールウィーゼルは振り下ろされた爪によって首を切り裂かれた。


「ほりゃあ!」


 金属を操ることは攻防一体の能力であるが万能でもない。

 オルケが魔法を使って火を放つ。


 アイアンテールウィーゼルに火が当たって炎上する。

 悲鳴を上げながら地面を転がって消化しようとするけれど魔法の火は簡単には消えない。


「ふふん!

 らくしょーですね!」


 既に2発外しているのはご愛嬌。

 鼻息荒くオルケが胸を張る。


 黒焦げになったアイアンテールウィーゼルは魔力となって消える。


「おー、肉も落ちるのか」


 基本的にダンジョンでドロップするものはなんでもあり得る。

 使えるものな割合が大きいが中には使えないものや普段は捨てられるようなものまでドロップする可能性もある。


 今回は魔石の他にお肉がゴロンと地面に転がった。

 あまりこういうタイプの魔物を食べるなんて話聞いたことがないなと思うがとりあえず拾っておく。


「食べてみるか?」


「え……ああみんな食べてますもんね」


 ドゥゼアは拾った魔石をオルケに渡す。

 渡されたオルケは一瞬怪訝そうな顔をしたけれどレビスもユリディカは美味しそうに魔石を食べていたことを思い出す。


 元々人であるオルケにとって魔石なんて食べるものじゃないという常識が頭のどこかにあったのだ。

 少し魔石と睨み合うオルケであったが覚悟を決めてパクリと魔石を口の中に放り込んだ。


「……ん!」


 カッとオルケが目を見開いてドゥゼアを見た。

 石なのに美味い。


 コロコロと口の中で転がしているとあめ玉のように魔力が溶け出してきて旨味を感じる。

 レビスとユリディカがどうしてニコニコしていたのかようやく理由が分かった。


 おそるおそる魔石を噛み砕いてみる。

 結構硬いけれど意外と簡単に噛み砕けた。


 ボリボリと噛んでいるとさらに美味しくてオルケの尻尾の先がクルクルと丸くなる。


「んまいだろ?」


「んまい」


 ドゥゼアに同意してオルケが大きく頷いた。

 美味いものが食べられるならとオルケも戦いに対してやる気を出す。


 他の魔物がいたりする可能性もあるので無理はしないでダンジョンの出入り口となる家を中心にしてその周りで狩りを行った。

 ダンジョンの中は常に明るくて昼夜の感覚がなくなる。


 なのでまだやれそうだと思ってもしっかりと切り上げるタイミングを見計らうことが大事である。

 ダンジョンの中の異質な空気もまた気づかない間に体力を奪っていることも多い。


 こうしたことに気づいてしっかりと体調管理ができないとあっさりと死んでしまうこともあるのだ。


「そろそろ一度引き上げるか」


「はーい」


「分かった」


「了解です!」


 進む進まない問題でケンカになる冒険者もいるがドゥゼアが戻ろうというとみんなあっさりと従ってくれる。

 魔石、肉、金属片、そして毛皮なんかもドロップして意外と収穫はあったなと思いながらダンジョンの外に戻ってきた。


 やはりダンジョンの中では気づきにくいがダンジョンから出てみるも案外体が疲れていた。

 清らかな水を飲んでイタチ肉を焼いて食べてみる。


 ワイルド風味の大きなお肉であるが魔物であるドゥゼアたちにとってはそんなに大きな問題ではなかった。

 人の体だったら臭みが強くて食べられなかったかもしれないがレビスやユリディカ、オルケも特に問題なく食べていた。


 食べられるのならありがたい話。

 余った肉は木の棒に突き刺して焚き火の上に置いてなんちゃって燻製みたいにする。


 完全に腐らない限りは食べられるほどの強い胃腸もあるのでこうして少し日持ちするようしておけば後々便利である。


「明日から少しずつ探索範囲を広げていこう」


 迷宮タイプと違って面倒なフィールドタイプのダンジョンなのでじっくりと攻略していく。

 迷宮タイプと同じでお宝が落ちている可能性もちゃんとあるので見逃さないようにも探索しなきゃならない。


 出てくる魔物がアイアンテールウィーゼルなら肉にもなるし戦いにもそんなに苦労はないので当たりのダンジョンかもしれないとドゥゼアは思った。


「眠いな……早めに寝ておくか」


 ダンジョン前ということで普通は魔物が近寄ってこない。

 いつもなら誰か起きていて番をするのだけど今日はいいだろうと横になる。


「ジー……」


 そんなドゥゼアの姿を見ているものがいるとはドゥゼアは全く気づいていなかった。

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