ゴブリンはイタチを狩ります1
たっぷり休んで体力も回復した。
水もゴクゴク飲んで体にいつも以上に魔力が満ちている。
帰ってきた時も焚き火がすぐ出来るように枝も集めてある。
人に見つかっている場所じゃないので荷物はダンジョンの外に置いていく。
どんな環境になっているか分からないので一部の食料はオルケに持っておいてもらう。
「ダンジョンに挑むぞ」
準備してもしすぎることはないぐらいなのがダンジョンであるが今の状況でやれることには限りがある。
ただドゥゼアたちに出来る準備も限界があるのでこれ以上ウダウダとしていても時間の無駄になる。
覚悟を決めてダンジョンの中に足を踏み入れる。
ドゥゼアを先頭にしてその後ろにレビスとユリディカ、最後にオルケの順で入っていく。
何かを通り抜けるような不思議な感覚。
ダンジョンの入り口を抜けるとそこは草原だった。
風が吹いて草が揺れる穏やかな光景で普通に洞窟から出てきたかのような錯覚にも陥る。
しかし本来の洞窟の外はこれほどまでに広い草地ではなかった。
後ろを振り返ってみると家がある。
玄関のドアは開きっぱなしなのに家の中は見えなくて闇が広がっている。
どうやらここから出てきたらしい。
小屋と言っていいほど小さめの建物で窓は木窓になっていてしまっているので他のところからでも中は確認できない。
とりあえず入り口付近の環境は安全そう。
一度ドゥゼアが家の入り口に入ってみるとちゃんとまた洞窟の中に戻ってきたこともしっかり確認する。
「迷宮タイプじゃなくてフィールドタイプか……」
少し面倒だなとドゥゼアは周りを見ながら呟いた。
最初に入ったダンジョンはいわゆる迷宮タイプと呼ばれるものであった。
部屋と通路から出来ていて迷路のようにあっちこっちに伸びている。
道が分かりにくいとか行き止まりが多い、魔物と遭遇しやすいなどのめんどくささはあるけれどちゃんと道を記録して体力を管理しながら進んでいけば攻略そのものはそれほど難しくない。
対してフィールドタイプは迷宮タイプとは大きく異なっている。
こちらはダンジョンの中に世界を切り取ったかのような大きな空間が広がっていて、迷宮タイプのように分かれていない。
広いために魔物との遭遇を避けたりすることも可能なのであるが道があるわけでも道しるべがあるわけでもない。
どこに魔物がいるのかも分からず外の環境に近いといえる中でグルグルと探索をしなければならないのである。
偶発的な魔物との遭遇、しかもそれがボスである可能性まであり得る。
危険度も高く攻略としても厄介なのがフィールドタイプなのだ。
どこから魔物に襲われるのかも分からない。
警戒を強く保っていなきゃいけないので開放的な見た目よりも精神的にも大変である。
「不意打ちを受けないように気をつけよう」
ドゥゼアたちだって野生で生き残ってきた。
よほど油断しない限りは不意打ちを食らうこともないだろうが敵の魔物が分かるまでは最大限に警戒しておく。
ユリディカなんかはミミも優れているのでそうしたところでも警戒してもらう。
基本的には草原であるが時折木が少しだけ生えている木立もある。
「こうして見回しても姿が見えないってことは小型の魔物だろうか」
図体のデカイ魔物なら開けた視界の草原では見えているはず。
けれど特にそうした魔物の姿が見えないということは小さめの魔物だろう。
もしくは姿を隠せる能力を持つ魔物かもしれない。
姿を消せるタイプの魔物なら面倒だ。
「待って……」
ピクンッとユリディカのミミが動いて立ち止まった。
ドゥゼアたちは何も感じていないかユリディカが反応を見せているなら何かの異常がある。
ユリディカのミミには聞こえていた。
風とは違う揺れる草の音が。
「何か来るよ……あっち!」
ユリディカが指差した方にみんなで警戒の目を向ける。
確かに風に揺れているのとは違ってガサガサと揺れている草が見えた。
「来るぞ!」
草の中から何かが飛び出してきてドゥゼアが前に出る。
短剣を振るいそれを迎撃する。
金属がぶつかる甲高い音が響いてドゥゼアがそれを押し返した。
「イタチ?」
空中をクルリと回転してシュタッと地面に降りたのはイタチだった。
背中の毛を逆立てて威嚇するように唸っているイタチはドゥゼアの半分ほどの大きさがあって意外とデカイ。
どこであんな金属がぶつかる音がしたのだと思ってオルケがイタチをよく見ると尻尾が銀色に光っている。
「アイアンテールウィーゼルか」
わずかに刃が欠けた短剣を見ながらドゥゼアは小さくため息をついた。
銀色に見えたのは尻尾が金属化しているから。
アイアンテールウィーゼルはという魔物は金属を操るという特殊な能力を持っている。
土を食べてわずかな金属を身体に溜め込んでいき、それを操って攻撃や防御に使用するのである。
尻尾に限って金属で覆うわけではないのだがよく尻尾を金属で覆って攻撃してくるのでアイアンテールと名付けられている。
あまり見られない魔物であるが油断するとその固くて鋭い金属にやられてしまう。
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