ゴブリンは確かめます
洞窟の近くに小さいながら森があった。
そこで木の枝を拾い、ダンジョンの前で焚き火をする。
もうゲコットと出会ったのもだいぶ前、フォダエが入れてくれた食料も日持ちしないものから食べていっていたのでもうパンなどはない。
途中で狩った魔物の肉なんかを焼いて食べ、魔力を含んだ水をゴクゴク飲んで体力を回復させる。
「レビス、ちょっとこっち来てくれ」
「ん」
地面に座るドゥゼアがポンと自分の前の地面を叩いてレビスを呼んだ。
迷いなくレビスはドゥゼアの前に座る。
「……ちょっと横向いてくれるか?」
かなり近い距離で正面を向き合う形になるのだけど見つめ合うために呼んだのではない。
何をするんだと聞くこともなくレビスはドゥゼアの言うことを聞いて横を見る。
「ヒャ……」
「悪いな、くすぐったかったか?」
「ん……だいじょぶ」
ドゥゼアがレビスの耳に触れてレビスがピクンと体を震わせた。
別にイチャつこうなんてこともない。
ドゥゼアが確認したかったのはレビスのイヤリング。
緑色の石の可愛らしいイヤリングは最初に入ったダンジョンで手に入れたものであった。
レビスにあげてからというものレビスはずっと耳に付けっぱなしである。
なぜ今になってイヤリングを気にするかというとわけがある。
フォダエからもらった手紙には謝罪やオルケをよろしくなどと書かれていた。
そして最後の方に短くこう書かれていた。
“レビスのイヤリングは魔道具かもしれない”
もはやフォダエはいないのでどういうことなのか聞きようもないがレビスのイヤリングから魔力を感じるらしく、魔道具の可能性があるとのことであった。
時間があれば調べてくれたのだろうけれどなんせそんな暇はなかった。
急いでいたのか殴り書きで書かれたようなその文言をドゥゼアも確かめる余裕もなくとりあえず逃げてきた。
今は余裕ができたので少しちゃんと見てみることにした。
「ん……」
優しく耳に触れるとレビスが恥ずかしそうに声を漏らす。
澄んだ緑色の宝石のような石のイヤリングは遊びが少なくシンプルなデザイン。
見てもドゥゼアには魔道具かどうかも分からない。
けれど魔道具の可能性がないとは言い切れない。
ゴブリンほどの体格でなければいけないような小部屋に滅多に出ないミミックなどの魔物のドロップとして出てきた。
そう考えるとかなり特殊な環境で出てきたものであり、ただのイヤリングだと決めてつけてしまうのは早計であった。
魔道具だろうとそうでなかろうとレビスにはあげただろうけどもっと注意深く見ておけば分かったこともあったかもしれないと反省する。
それに加えて魔道具だとしてもそれは入り口にすぎない。
魔道具だとしてもその効果を発揮させられなければただのイヤリングとなんら変わらなくなる。
魔道具だと分かっただけではいけなくて持っている効果や発動させるための条件などを知って使いこなさねばならない。
「このイヤリングから何か感じたことはあるか?」
「…………ない」
ドゥゼアの愛情なら感じると答えようとして少し頬を赤らめてレビスは思いとどまった。
「うーん……意識を集中させるとかして何かできそうな感じはないか?」
「ん……やってみる」
レビスは目をつぶってイヤリングに意識を集中させようとしてみる。
しかし長いこと着けていてもう体の一部のようになったイヤリングは特にうんともすんとも言わない。
「んー……ごめんなさい」
何かできないものかと頑張ってみたけど何もできなくてレビスがしょぼんとする。
「いいって」
レビスの頭を撫でてやる。
期待していないというと言葉は悪いがこれまで身につけていても何にもなかったのに急に使えるようになるわけじゃないことは分かっていた。
物は試しぐらいの気持ちだった。
魔道具にも様々な種類がある。
持つだけで力や魔力を強くしてくれるものもあれば魔法の効果を補助してくれるものもある。
特殊な効果を持つものもあれば先頭に向かない効果を持つものもあるのだ。
魔力を込めなくても所有者に良い効果を与えてくれることもあれば魔力を込めたり特別な使い方をしなきゃいけないものも中には存在している。
持っているだけで効果が出るものならとっくに分かっている。
そうでないのなら別の効果を持つ魔道具になる。
魔道具だというだけで簡単に扱えるとは思っていなかった。
ドゥゼアに撫でられてレビスが耳を嬉しそうにピクピクと動かす。
「まあ何かのタイミングで分かればそれでいい」
よくわからず得たものであったが魔道具の可能性があるだけ期待はできる。
「レビスだけずっこい!」
当然ながらその場にはユリディカとオルケもいる。
なんだかいい雰囲気でイチャイチャしてるとユリディカが割り込んでくる。
「はいはい」
ドゥゼアの横でゴロンと寝転がるユリディカ。
期待したように見上げてくるのでお腹を撫でてあげる。
「あ〜〜〜〜」
気持ちよさそうに声を出す。
ユリディカのお腹の毛とムニムニとした感触をドゥゼアも堪能したのであった。
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