ゴブリンはジジイから離れたいです2
ピカピカになった手を見てやはり魔法とは便利であると思う。
「その体にも慣れてきたか?」
生きるもののたくましさとはなんだかんだと言っても生きるためにその状況に慣れてくることである。
オルケも少しずつ慣れてきているように見えた。
悲しみを受け入れるにはまだ時間はかかるだろうがリザードマンの体であることに順応してきている。
「うん。
体としては悪くないよ」
オルケは尻尾を動かしてみせた。
沈み込んだ気分とは裏腹に体は調子がいい。
体の違いには困惑した。
手足の長さ、やや長い口、夜に視界のきかない目など色々あるけれど中でも大きな違いは尻尾だった。
リザードマンには立派な尻尾がある。
もう一本腕があるみたいだとオルケは表現した。
尻尾をコントロールする感覚がなかなか掴めずにいたけれど少しずつ動かせるようになってきた。
ユリディカの尻尾よりもリザードマンの尻尾はしなやかで長く、攻撃にも利用されるほどの器用さもある。
慣れてくると物を持つぐらいのことは出来る。
「うりうり」
「おい」
オルケは尻尾でドゥゼアの頬をグリグリとつつく。
「オルケは何かやりたいことはあるか?」
「やりたいこと?」
「そうだ」
生きていくためには希望が必要だ。
ただ生きていくだけのこともできるが目的や目標を持って生きていくことには及ばない。
フォダエという大切な存在を失ったオルケは代わりに生きている体を手に入れた。
生きている体というのはどうしても時間が有限で何もなく生きているのはもったいない。
なんでもいいから目的があった方がいい。
それが叶えられることならドゥゼアも協力は惜しまないつもりである。
「やりたいこと……」
「ああそうだ。
今答えを持っていなくてもいい。
旅は続く。
夜は長い。
ゆっくり考えてみるといいさ」
いきなりそんなことを聞かれてもと思った。
最後に目的を持ったのはいつのことか。
以前生きていた時の遠い昔の記憶。
ドゥゼアに言われたやりたいことという言葉が妙に頭の中にこだまする。
歩きながらオルケは考えた。
やりたいことはなんだろう。
フォダエと話したことを思い出してみる。
細かいことならたくさんある。
美味しいもの食べたいとか恋してみたいとかそんなこと。
けれどそうじゃない。
それらでは心の穴を埋めてくれるような目的とならない。
もっと大きな目標が必要だとぼんやりと考えていた。
「復讐……」
「オルケ?」
死の森からかなり離れてきてもう心配はないと思うけれど多少の不安はありながら火を焚く。
薄く雲がかかる空のせいで月明かりも届かず辺りは真っ暗。
焚き火の周りに集まっていなければ姿を見る事も難しい。
揺れる炎を眺めていたオルケがふと呟いた。
「やりたいことが見つかった」
「どんなことか聞いてもいいか?」
「復讐する」
「……何にだ?」
まさかフォダエを倒したあのジジイに復讐するつもりかとドゥゼアは思った。
「私たちは殺された」
当然のことながらスケルトンになる前のオルケは人であった。
フォダエがオルケをスケルトンにしたのであるがそれにもさまざまな事情があった。
オルケは自然死したのではなく殺された。
そのためにフォダエはオルケを助けようとスケルトンにしたのだ。
「第三魔塔の魔塔主ヘーゼン・セデンカミュ」
オルケはフォダエとの会話で思い出していた。
フォダエも恨みに思っていた相手。
オルケとフォダエから全てを奪い去ったあの男のことをごく稀に話した。
フォダエを倒したジジイについても恨みはあるけれどこんな悲しみを背負うことになった大元の原因であるヘーゼンのことは忘れられない。
「ヘーゼンに復讐したいです」
「……いい目標じゃないか」
恨みを持つな。
復讐など何も生まない。
そのような考えをドゥゼアは否定するつもりはない。
だが生きていれば恨みは持つし復讐したいと考えることもある。
負の感情であるが生きるための大きなエネルギーともなってくれる。
いいじゃないか、恨みに思ったって。
いいじゃないか、復讐したって。
「……魔塔主か」
厳しそうな相手ではある。
魔塔とは魔法使いが集まる組織である。
そこで魔塔主と呼ばれる人はただ上に立つ才能だけではなく他の魔法使いから認められるほどの魔法の実力もなくてはならない。
おそらくジジイにも引けを取らない相手となる。
「出来るだけ俺たちも協力する」
「ドゥゼア……」
「もちろん私も」
「うん」
「ユリディカ、レビス……」
もうオルケは仲間だ。
そのヘーゼンとやらがどんな人でどこにいるのかも知らないが復讐したいというなら手伝おう。
「ただし、1人で突っ走ることはするなよ」
「……うん、ありがとう」
生きるだけじゃない、強く生きる。
復讐だろうとその糧にしてみせる。
「あとはお嬢様を倒した冒険者にも復讐したいです」
「……追々な」
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