ゴブリンは白いリザードマンの話を聞きました

 道中襲いかかってくる魔物を倒して肉にしながら旅を進めていった。


「今なら魔道の極みに達することができる気もします……」


 大きなネズミがオルケの魔法によって燃やされる。

 意外なことにリザードマンの体は魔法に対する適性がとても高い。


 魔力もあるし体が丈夫なので魔法における反動にもびくともしない。


「これがリザードマンに共通する身体的な能力なのかは要検討ですね」


 ただリザードマン全体が実は魔法的な適性があると断定もできない。

 なぜなら今はリザードマンの体にオルケの中身である。


 さらにはリザードマンと言いながらもこの体は少し他のものと違っている。

 まず色が白いのである。


 リザードマンは爬虫類にも似た見た目をしていてくすんだような緑色をした鱗を持っている。

 多少の色の違いはあるけれどオルケのように真っ白な個体は聞いたことがない。


 造形的にもドゥゼアたちから見てやや可愛げがある。

 リザードマンの中でも外見的には特殊な個体であるのだ。


 そのために能力的なところも他のリザードマンと違いがあるのかどうか分からないのである。

 フォダエの研究によると見た目が違うだけでオルケの体もそれほど能力として差がないらしいのでもしかしてらリザードマンが魔法を覚えるととんでもないことになるかもしれない。


「そもそもどうやってその体を手に入れたんだ?」


 こんな特殊な個体どこで手に入れたのかドゥゼアは気になった。

 見たところ体に傷もなくかなり綺麗。


 倒して得た体には思えない。


「そんなにじろじろ見ないでください!」


 恥ずかしそうに体をよじらせるオルケ。


「この体の持ち主は可哀想な子でした。

 ……私たちは殺したんじゃないですよ」


 見た目からして特殊な個体である。

 こうした時の反応は2種類に分かれる。


 特殊な個体は群れの中崇められることがある。

 将来的なリーダーになることも見据えて大事にされるのだ。


 あるいは特殊な個体は排除される。

 周りと違っていることから気味悪がられたりして群れの中から排除されてしまうのである。


 この白いリザードマンは群れから排斥されてしまった。

 寂しく1人でフラフラと生きていた。


 他の魔物の群れになど加われるはずもなくどうにか必死で生きてきたけれど限界があった。


「私たちが出会ったときにはもう死にかけていたんです」


 1人で生きていくことは楽じゃない。

 夜寝る時だって安心もできない。


 狩りだって能力が高くても1人では大変である。

 ようやく狩りに成功した獲物が毒を持っていた。


 白いリザードマンは落ちた体力で毒に対する抵抗力がなく息も絶え絶えになっているところで良い住処はないかと探しているフォダエたちに出会った。

 フォダエたちは白いリザードマンを治療しようとしてあげたが手遅れだった。


 治療しても体調は回復しないで白いリザードマンはそのまま息を引き取ったのである。


「この子は……最後に取り引きを持ちかけたんです」


「取り引きだと?」


「自分の体は好きにしてもいい。

 だから代わりに自分を見捨てた群れに復讐してほしいって……」


 死にかけの白いリザードマンの目は恨みに燃えていた。

 なぜこんな目に遭わねばならなかったのか。


 自分を追い出したリザードマンたちが憎い。

 差し出せるものはこの呪われた体くらい。


 フォダエとオルケは涙を流しながら懇願する白いリザードマンの望みを受け入れた。


「だからリザードマンが適性が高いとか研究出来てたんだな」


 どうして魂を移す候補にリザードマンが上がっているのか疑問だった。

 白いリザードマンの素体をたまたま手に入れたからだけではなくフォダエは白いリザードマンの望みを聞き入れて実際にリザードマンの巣を襲撃した。


 やや隠れたような位置にあったが白いリザードマンからの情報があったので容易に見つけられた。

 そのようにしてフォダエはリザードマンの研究素材を手に入れた。

 

 仲間から追い出されるものの気持ちが分かったから手伝ったのかもしれない。

 復讐の結果を聞くこともなく白いリザードマンは逝ってしまった。


 フォダエはどうしても白いリザードマンを実験に使う気にはなれず、体の毒を完全に抜き取り氷漬けにして冷凍保存しておいたのである。

 結局この体にはオルケの魂が移されることになった。


 白いリザードマンはそれを喜んでくれるだろうか。


「この体の持ち主だったリザードマンにもやりたいことはあったはず……」


 目標はひとまず持った。

 でもまだ生きるということの実感は薄い。


 けれど生きてみようとは思った。

 この体は1人だけのものじゃない。


 白いリザードマン、そしてフォダエの思いも背負った体なのである。

 時間が経って考えがまとまってくるにつれてこの体が持つ責任というものを感じる。


「そんな思い悩むな」


「ドゥゼア……」


「自由に生きること。

 これがきっと願いだ。


 白いリザードマンの望みは知らないけどきっと楽しく生きてくれればそれで良いはずだろ」


 復讐という望みは果たされている。

 なら体を使ってどうして欲しいか。


 そんなの白いリザードマンしか知り得ないけれど楽しく生きていればそんなに望みから外れないはずだ。


「……そうですね…………

 とりあえず生きてみます」


 楽しかったと最後に言えるように必死に生きてみよう。

 オルケ自身が抱える復讐も狙いながらフォダエや白いリザードマンがなし得なかった生を謳歌するのだ。


「ありがとうございます。

 話聞いてもらって」


「いいさ。

 どうせ歩くだけで暇だからな。


 それにこれからも一緒に行くんならもっとくだけてもいいんだぞ」


「……うん、ありがとう」

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