第三章
ゴブリンはジジイから離れたいです1
想定ではジジイの活動域から離れているはずだった。
しかしコイチャを追いかけての移動とコイチャとの鍛錬で大きく時間を使ってしまったことでいつの間にかジジイの活動範囲に入ってしまっていたようだ。
人の世界でどんな動きがあるのかドゥゼアには分からないけれど推測するにジジイの活動域とゴブリンが殲滅させられている地域はおおよそ一致していると考えていた。
リッチと戦っても生き残るのはもはや人間の域を超えている。
100回……あるいは10000回転生したところで勝てる相手ではない。
それどころか次に転生しようと思ってもその時にはゴブリンはいなくなっているのではないかとすら不安がちらつく。
仮に世界のゴブリンが滅びたら転生する時どうなるのかとほんの少し考える。
他のものに転生するのか、転生しないのか、あるいはまた世界で唯一のゴブリンにでもなるのか。
死んだ後のことなんて死んだ後に考えればいい。
そうやってネガティブな思考を振り払って歩みを進めるドゥゼアたちはひとまずジジイがいると思われる方からひたすらに逃げていた。
より詳細に周辺のゴブリンの討伐状況をクモに集めてもらい、侵攻ルートを予想した。
元々人であるオルケも頭をひねってくれておそらくジジイから遠ざかる方向だろうという方に向かって進んでいた。
生存第一。
フォダエの骨を拾ってやりたいところではあるけれどどう考えてもリスクが高すぎる。
事態が落ち着いたら墓でも作りに来ようとどうにかオルケを納得させて移動をしていた。
ゴブリンとゴブリンとワーウルフとリザードマン。
とても奇妙な一行。
さらにはドゥゼア以外はみんなメス。
仮に人であったならハーレムパーティーであるがこの状況をハーレムパーティーと表現していいものかドゥゼアには分からない。
「むっ、敵だ!」
この世の中は弱肉強食。
弱いものが強いものに食われてしまうのは自然の摂理。
そして飢えないためには獲物を見つけて倒さねばならない。
ウルフの小規模の群れがドゥゼアたちを見つけて襲いかかってきた。
相手は6匹で数的優位にある。
ワーウルフやリザードマンは辛いかもしれないがゴブリンはものの数でもなく十分な勝算もあった。
そもそもゴブリンとワーウルフとリザードマンが協力して戦うなど思ってもいない。
「やああっ!」
炎の槍がウルフを貫いた。
なんとびっくり、オルケは魔法使いであった。
スケルトンの体では保有している魔力が少なすぎて魔法が使えず戦えなかった。
けれどリザードマンの体は健康的で生命力に溢れていて魔力がある。
リザードマンが魔法を使うだなんてドゥゼアも聞いたことがない話である。
リザードマンといえば戦士。
接近戦に長けた肉体派の魔物であるはずなのだ。
そうではあるが魔力がない種族じゃない。
使おうと思えば使えるのだなとドゥゼアも驚いた。
もしかしたら魔力はあるが魔法というものを知らない、教えない、受け継いでこなかったなどの理由で魔法を使えないのではなく使わないのではないかと考えた。
本物のリザードマンに聞ける機会があるなら聞いてみたいものだ。
ともかくオルケが魔法使いであることは運が良かった。
ドゥゼアやレビスは魔力量が少なく魔法が使えず、ユリディカは回復と支援を行いながらも接近戦闘タイプ。
バランス的には遠距離を担ってくれる仲間がいればと思っていた。
魔法を使えるオルケならピッタリである。
「ふおおっ!
人間の時よりも魔法が使いやすいです!」
ウルフたちは相手を見誤った。
勝てる相手ではなかったのにゴブリンぐらいなら咥えて持っていけるとでも思っていたのか。
そんな目論みなど全く通じずあっという間にドゥゼアたちに倒された。
ユリディカはもちろん、レビスにすら爪の先も触れることは出来なかった。
オルケは自分の新しい体に驚きを隠せずにいる。
最初はスケルトンの状態の時と比べてしまっていたが段々とその前、つまりは人の体とも比較を始めた。
オルケは魔法を習っていたけれど優秀な魔法使いとはいかなかった。
人の体の時には魔力量が多くなかった上に体そのものに魔法の才能がなかった。
しかしリザードマンの体は思っていたよりも魔力が多く、魔法への適性もあった。
身体能力も高いので調子もいい。
「うげぇ……」
気分が良かったのも束の間。
ドゥゼアがウルフの解体を始めるとオルケは顔を青くして目を逸らした。
レビスとユリディカは純魔物なのでその光景にもなんとも思わないのだけど人間であったオルケには刺激が強いようだ。
魔石を取り出して比較的筋張っていないまともな肉を切り取る。
「……水出せるか?」
「人の魔法なんだと思ってます?」
「実際こんなことにも使うだろ?」
一通り解体を終えた。
毛皮なんかは人の冒険者だったら使うのだけど魔物である今は必要もない。
まとめて山にして置いておく。
ドゥゼアの両手は血で濡れている。
スッとオルケに両手を差し出す。
水の魔法が使えるなら洗い流せるかなと思った。
「もう……」
口では不満そうだけど頼られて少し嬉しそうにドゥゼア手を洗い流してくれた。
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