ゴブリンはゴブリンに危機感を覚えます3

 けれどリザードマンはそうもいかない。

 ドゥゼアたちにとってはまだまだ活動可能な明るさの時間であってもオルケにとっては非常に暗く、手元ですらおぼつかないように感じられた。


 スケルトンであった時には夜も昼も関係なかったのにと体があることの変化に困惑を隠せない。

 同時に恐怖も感じた。


 目が見えているのに何も見えなくなる恐怖。

 周りが暗くなり、自分の存在が闇に溶け込んでいるのかいないのかも分からなくなるような恐怖がオルケに襲いかかっていた。


「大丈夫か?」


 暗闇の中から仲間の声が聞こえる。

 それだけが今の心の支えだった。


 カチンカチンと音がする。

 ほんの刹那に火花が散っていて、ドゥゼアが火打ち石を打ち当てているのだとオルケは理解した。


 ドゥゼアは手際よく火を起こした。

 あっという間に焚き火に火がついてようやくオルケの目にもみんなの顔が見えるようになった。


 ほんのりと焚き火の方から温かい空気が漂ってくる。


「もうちょっと早く焚き火できない?」


 日が落ちてきて暗くなってから焚き火をするまでそんなに時間は空いていない。

 けれどその間の時間もオルケには不安なものであった。


「……今度からはもう少し早くするよ」


 口だけではなくいつもならもっと早くこうした準備はする。

 今回はまだ森に冒険者がいるかもしれないということを考慮して遅い時間にずらした。


 立ち上る煙は闇に溶けていく。

 ちょうどよく空は薄ぐもりで月明かりもないので煙を発見される可能性は低い。


「暗いの、怖いんだ……」


 このような感覚が久しぶりでオルケはどうしたらいいのか分からない。


「えっ?」


 不安な目をして焚き火を見つめるオルケをユリディカとレビスが挟み込んで座った。


「これで怖くない?」


「どう?」


 これはユリディカとレビスなりの優しさであった。

 元人であるドゥゼアの影響だろうか。


 それを悪い行動だなんて言うつもりは一切ないけれど明らかに魔物らしくない行動ではある。

 オルケは驚いた顔をしてユリディカとレビスを交互に見ている。


 焚き火だけではなく密着したユリディカとレビスの温かさが伝わってくる。

 離れるだけでボヤッとしていた顔も密着するほど近くならよく見える。


 胸がドキドキする。

 嬉しいという感情に呼応するかのように心臓の音が大きくなった。


 こんな感覚も久しぶりだった。


「ちゃらららーん!

 戻ったであーる!」


 オルケの表情が柔らかくなったのでドゥゼアもホッとしているとバイジェルンが帰ってきた。


「おかえり」


 バイジェルンが戻ってきたのでドゥゼアは肉を焼き始める。

 この肉もフォダエが荷物に入れてくれていたもの。


 フォダエは魔物が増えすぎて冒険者たちに見つかることを避けるために定期的に死の森のカエルを狩りとっていた。

 研究に使ったりすることもあるのでそうした肉もちゃんと保管していたとオルケから聞いた。


 カエルの肉を枝に刺して燃えないぐらいのところの地面に刺してじっくりと焼く。

 

「それでどうだった?」


 しっかりと焼こうと思えば多少の時間はかかる。

 手持ち無沙汰なのでバイジェルンに情報を聞く。


「まだ多くの情報は収集中である。

 だけどこの森にいるゴブリンは倒されたということは分かったである」


「そうか……」


「どうやらドゥゼアたちが襲われたのと同じぐらいの時間にゴブリンたちもやられたようであーる」


 嫌な予感がしていた。

 ジジイを見た時になぜなのかゴブリンに対しての強い敵意を感じる。


 フォダエからこの森にもゴブリンがいるということを聞いた記憶がうっすらとあってバイジェルンに今どうなっているのかを調べてもらった。

 死の森にいたゴブリンたちは全滅していた。


 ドゥゼアたちがジジイたち冒険者に襲われている同時刻にゴブリンたちも他の冒険者に襲われて全滅させられていたのである。

 もしかしたらという思いがドゥゼアにはあった。


 もしかしたら狙いはリッチなのではなく、ゴブリンだったのかもしれない。

 死の森に進入してゴブリンを倒すのにリッチが邪魔だったからリッチを倒したのかもしれない。


「……ドゥゼア?」


「ん?」


「どうかした?」


「いや……もう少しで肉が焼けると思ってな」


 まさかゴブリンを倒すだけのためにあんなに多くの犠牲者を出しながらリッチの討伐に乗り出したなんて普通は考えられない。

 実際にある魔物を討伐するのに他の魔物が障害となることはある。

 

 そうした時には迂回するか他の魔物も倒してしまうかだがゴブリンを倒すために手前のリッチを倒すなどあり得ない。

 でもジジイの殺気のこもった目を見れば冗談のような話でもあり得ないなんて言い切る自信がなかった。


「とりあえず肉焼けたぞ」


「わーいである!」


 皿代わりに大きな葉っぱに肉を乗せてバイジェルンにあげる。

 自分よりも大きな肉にバイジェルンはかぶりつく。


「マジであのジジイ何者なんだよ……」


 そして後に死の森だけでなく広く色々なところでゴブリンが殲滅されていっていることもバイジェルンからドゥゼアは聞かされるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る