ゴブリンはゴブリンに危機感を覚えます2

 枯れ木を拾ってきて少しでも乾燥させておく。

 その間にレビスとユリディカは組み手を始める。


 意識のなかったコイチャと鍛錬を始めて以来レビスとユリディカの強くなりたいという意識も一層強くなった。

 レビスは槍の先に布を巻き付けて切れないようにし、ユリディカはチクート無しで戦う。


 最初はユリディカが圧倒してたのだけど最近はそうもいかなくなってきた。

 レビスの動きは研ぎ澄まされてきて攻撃も巧みになった。


「わっ、とっ!

 えっ、ひゃっ!」


 ドゥゼアが焚き火の準備をする横でレビスが攻勢を強めてユリディカが完全に押されている。


「むぎゃ!」


 完全にバランスを崩したユリディカのアゴにレビスの槍がクリティカルヒットした。


「あっ……」


 思い切り当たってしまった。


「くぅー!

 痛い!」


 アゴを押さえてゴロゴロと地面を転がるユリディカ。

 なんやかんやと実力がついてきたレビスであるがサッと寸止めできるレベルでもない。


 あのようにして多少当たっちゃうこと織り込み済みでやるしかないのだ。


「だいじょぶ?」


「だいじょぶ……」


 ユリディカは涙目になっているが魔物はこれぐらいじゃへこたれない。


「いや……だいじょばない!

 ドゥゼア〜痛いよ〜」


 ピュアンに言われた。

 男は押せ!


 聖女たる権力もフル活用してコイチャを落としたピュアンはユリディカやレビスにドゥゼアをどう落とすか教授もしていた。

 どこか一線を引いたような態度は護衛であったコイチャとドゥゼアで似ている。


 そういう時はひたすら押すべしとピュアンは言い残していた。

 当然ドゥゼアはそんなアドバイスがあったことは知らないけれど。


「……よくやったな、レビス」


「ガーン!

 そっちぃ!?」


「へへへ……いぇい」


 ドゥゼアはユリディカのアゴではなくてレビスの頭を撫でてやる。

 勝ったのはレビスだから誉められるべきはレビス。


 ユリディカが痛いのは負けたユリディカが悪いのだ。


「く、くぅ〜うううぅ〜」


「ユリディカも頑張ったな」


 ただドゥゼアは2人のやる気をどう引き出せばいいのか心得ている。

 ちょっとだけユリディカのことも褒めてやる。


 レビスから手を引いてアゴを指先でちょいちょいと撫でてやるとユリディカの足が無意識にパタパタと動いてしまう。

 尻尾も激しく振られて少し不満顔だったのがあっという間にご機嫌である。


「次は負けないぞー!」


 勝てばたくさん褒めてもらえる。

 ユリディカもレビスもやる気を出してまた組み手に臨む。


 ドゥゼアを手玉に取ろうとして見事にコントロールされているのはユリディカとレビスの方であった。


「……あなたたち本当にゴブリンですか?」


 地面に座っていたオルケが不思議そうに首を傾げた。

 非常に不思議なことをしている。

 

 何がというと、何もかも。

 いや、そもそもおかしかったとオルケは最初にあったドゥゼアたちのことを思い出していた。


 あの時はフォダエもいなくて交流に飢えていた。

 普通に話を聞いてくれることも嬉しくてベラベラと話してしまっていたけれどそこからもうおかしかったのである。


 ゴブリンはただの獣のようなモンスターに比べれば知能がある方だと言える。

 けれどもそれは知能がないものと比べた時であり、人と比べると知能はかなり低い。


 会話が成り立つどころかオルケの話を大人しく聞くはずもない。

 そこからここに至るまでドゥゼアたちの行動は理性的でありながらしっかりとした芯のある行動だった。


 今の言動もおかしなものだ。

 ワーウルフとゴブリンが互いに加減をしながら組み手をして訓練している。


 それだけでも異常だ。

 魔物が自分の力を高めるために訓練するなど聞いたことがない。


 それも知能が高くないワーウルフとゴブリンが、だ。

 その上ドゥゼアはそれを褒めてやってさらなる成長を促そうとしている。


 魔物の行動ではない。


「どう思う?」


「どうなんでしょう……」


「まあユリディカは少し他と違うかもしれないが俺とレビスはただのゴブリンさ」


 少なくとも体はただのゴブリンである。

 レビスは中身も一応ただのゴブリンだった。


 ユリディカは少しだけ出自が特殊なのでただのワーウルフだと言っていいのか分からないところがある。

 ドゥゼアは外側はゴブリンであるが中身は少し特殊である。


「ただ今のお前も似たようなものだろ?」


「お前、も……」


 ニヤリと笑うドゥゼアの顔を見てオルケは何かを察した。

 特殊な魔物たち。


 だがそれも何かの事情を抱えているのかもしれない。

 経緯は違うが魔物の体に人の意識というところでドゥゼアとオルケは近い存在にはなる。


「……皆さんはお強いですね」


 ただ察しはしてもそれを聞く勇気がオルケにはなかった。

 今のところ迷惑をかけっぱなしでそれを聞く権利が自分にはないように思えたのだ。


 ーーーーー


「そろそろだな」


「だ、大丈夫なの?」


 日が落ちてあたり一面が暗くなってきた。

 途中ドゥゼアも加わって訓練したりしていたら時間が経つのも早かった。


 ここで種族差というものが出てきた。

 暗い洞窟の中でも暮らすゴブリンや闇の中でも狩りをするワーウルフはある程度暗さに強い。

 

 月明かりでもあればそれなりに活動出来るのである。

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