ゴブリンはゴブリンに危機感を覚えます1
見ていたものもいうのはどこかしらに存在してしまうことがある。
道端での殺人を通りかかった人が目撃する。
凄惨な殺しの現場を押し入れに押し込められた子供が見てしまう。
あるいは魔物と人との戦いの結末をそっと見届けたクモがいる。
ドゥゼアはバイジェルンにお願いをしていた。
静かに戦いを見届けてほしいと。
もし仮に死んだならアラクネの女王にもう一度訪ねることができなくてすまないと伝えてほしいと。
ひっそり屋敷の壁からクモが戦いを覗いていても気に留める人はいない。
バイジェルンはドゥゼアの頼み通りに戦いを見ていた。
屋敷の前で繰り広げられた攻防、その後ドゥゼアたちは屋敷の中に引っ込んでいった。
どうするか悩んだのだけどとりあえず外にいた冒険者たちがスケルトンを倒し尽くすのを見届けた。
その後冒険者たちが中に入ろうとしたのだけどそこに猫の置物を持った不思議なスケルトンが屋敷から出てきた。
コイチャだった。
片手に猫の置物を抱えたままという奇妙な出立ちのコイチャに冒険者が襲いかかったがコイチャは数人の冒険者を切り倒した。
強いと思っていたら件のジジイが前に出た。
激しく剣をぶつけて切り結ぶジジイとコイチャ。
けれどその均衡はわずかな時間のことだった。
瞬く間に形勢はジジイに傾き始めた。
苛烈な攻めにコイチャが防戦一方に追いやられ、このままではやられてしまうと思った。
「ピュアンが飛びかかったである」
その時ピュアンがジジイに飛びかかった。
完全に意識の外にあったピュアンの突然の行動にジジイに一瞬の隙が出来た。
コイチャはピュアンが作り出した隙に剣を突き出した。
ピュアンの後ろから飛び出してくる剣にジジイの反応が遅れた。
決まったかに見えたがジジイは脅威的な反射神経を見せて首を浅く切り裂かれただけに被害を抑えた。
そして今度はジジイの反撃。
邪魔をしてくれたピュアンを切り裂こうとした。
コイチャは手を伸ばしてピュアンを抱きかかえ、そして共々切り裂かれた。
「…………そうか。
2人は一緒に逝ったんだな」
ピュアンもコイチャも倒されたことは分かっていた。
だが同時に、共に逝けたのなら今の状況の中で最も良い結末だったのかもしれない。
「そして人間は屋敷に入っていったである。
どうしようか迷ったであるが中に入るのも怖かったので少し様子をうかがっていたである」
室内でもまずバイジェルンが見つかることはない。
けれど狭い室内で戦った時に魔法などの攻撃に巻き込まれてしまう可能性はある。
バイジェルンは戦闘力が低い。
魔法に巻き込まれてしまうとあっという間に死んでしまう。
窓から覗くと冒険者が部屋を開けてドゥゼアたちを探していた。
どこにいったのかは知らないけれど見つかるのも時間の問題だと思っていた。
「そしたら大爆発である!」
いつの間にか屋敷の中の冒険者の姿も見えなくなったと思ったら突如として屋敷が爆発した。
幸い屋敷の中に入らなかったバイジェルンは爆発の勢いでぶっ飛んだだけで済んだ。
「死ぬかと思ったである……」
そして最後に見たのは崩壊した屋敷の下からフォダエとジジイが出てきて、フォダエが切り捨てられて動かなくなったところだった。
「お嬢様……」
オルケがガックリとうなだれる。
隠し通路の出口の位置は分かっているフォダエが来ないのだ、やられたことは完全に分かっていた。
それでもわずかに残っていた希望が打ち砕かれた。
「大丈夫か?」
ドゥゼアはオルケを気遣う。
「うん……ううん、大丈夫じゃない。
ご、ごめんね」
「平気」
一瞬平気だと思ったけれどやっぱりダメだった。
目に涙が溜まり始めたオルケにレビスがハンカチを渡してあげようとした。
しかしオルケはそんなレビスをギュッと抱きしめて抱えた。
オルケは泣く時に何かを抱きしめたくなる癖でもあるようだ。
ここはレビスも良い女でオルケを受け入れてあげる。
「クソッ……あのジジイ何者なんだ」
今回もまたジジイだった。
リッチすら恐れない化け物ジジイが中心にいることは間違いない。
何が目的で、なんでこんなにいろんな国を回っているのか。
「バイジェルン、お疲れのところ悪いが色々と調べてもらいたいことがある」
「ええーである」
「肉焼いたるから」
「約束であるよ?」
バイジェルンは意外と焼いた肉が好きだった。
ただ火を起こして肉を焼くのも面倒なのでそんなにやらないのだけどバイジェルンがそれで動いてくれるなら肉ぐらいいくらでも焼いてやる。
「調べてほしいのは……だ」
「分かったである。
それじゃあ言ってくるである!」
バイジェルンはすぐさま森の中に消えていく。
戦闘能力はなくとも情報収集に関しては優秀なクモである。
待っていればすぐに仕事をしてくれるはずだ。
「俺たちは肉でも焼くか」
死の森は湿気っていてなかなか火を焚くのにも楽な環境ではなかった。
けれど今いる場所は死の森を抜けたところで気候的には死の森よりも乾燥している。
森の木々も中心部よりも湿気っていないので火を焚くことはできそうだ。
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