ゴブリンはリザードマンを仲間にしました3
「レビス」
「うん」
「ほら、フォダエからだ」
「えっ?」
殺される前にとドゥゼアが手を振るとレビスが荷物から何かを取り出してオルケに渡した。
丁寧に折り畳まれた紙。
オルケは震える手でそれを受け取った。
開いてみるとやや乱雑な文字で書き殴られたようなフォダエからの手紙だった。
ドゥゼアたちが隠し通路に入っていってからジジイたちが来るまでにはわずかに時間があった。
隠し通路がある部屋は端だったしジジイたちは罠を警戒して慎重になっていたからである。
その間に書いたと見られる手紙でこっそりと荷物に紛れ込ませていた。
ドゥゼアたちに向けた手紙もあった。
謝罪と感謝、オルケをよろしくということだった。
オルケが手紙を読む。
これまでの感謝や何度も会話で出てきたようなわがままの謝罪、そしてどうして研究を急いだのかについてが書かれていた。
全てオルケのためだった。
オルケの体は既に限界に近かったのである。
リッチであるフォダエと違ってオルケはただのスケルトンである。
しかも自然発生的に生まれたスケルトンなのではなくフォダエによって急場しのぎ的に作られたスケルトンであった。
そのためにオルケはスケルトンの中でも非常に不安定な存在なのであった。
ここまでリッチの支配による強化を受けてなんとか体を保っていたのだがもはやオルケはいつ崩れ去ってもおかしくないぐらいに劣化が始まっていたのだ。
オルケ自身は自覚がなかったけれどフォダエはもうオルケの体が限界なことを察していてどうにかしようとしていた。
その1つの方策が生きている体に魂を移すことなのである。
一緒にいたい。
その思いはフォダエも一緒。
だから必死で研究していた。
どこかに逃げて研究をやり直すという時間がなかったこともそうであるし、逃げたとしてその移動にオルケが耐えられない可能性すらあったのだ
「うっ……」
オルケは未だに組み伏せたままのドゥゼアに手を回して折れんばかりに抱きついて泣き出した。
何かすがるものが欲しかった。
ドゥゼアも何も言わない。
オルケを慰める言葉を持っていないから。
このことはオルケが自分自身で受け入れるしかない。
何もかもがオルケを思っての行動だった。
心配をかけたくない。
オルケに負担に思わせたくない。
だからフォダエは何も伝えることができなかった。
「……私、どうしたらいいんですか?
お嬢様は私に生きろって言うけど……もう私には生きるってことが分かんないです」
長いこと死んでいたオルケ。
いざ生きろと言われても生きるということがどんなものなのかもう遠い記憶だった。
「分かんない……分かんないよぅ」
「……思い出してみろ」
「何をですか?」
「フォダエと話したこともあるだろう?
何をしたいと話した?
何をしたいと話していた?」
「お嬢様と……」
しょうがなくドゥゼアもオルケに手を回して子供をあやすように背中をトントンと叩いてやる。
「お嬢様はよく、恋をしてみたいと言っていました」
「そうか。
他にはどうだ?」
「美味しいものを食べたい……綺麗な景色を見たい……可愛い服を着たい……いろんな国に行ってみたい……」
なんてことはない会話が次々と思い出されていく。
たくさんのことを一緒にやりたいねとたくさん話したものだった。
「そうしたことをやればいい。
フォダエがやれなかったことをお前がやるんだ」
「…………お嬢様ができなかったことを、私が」
「そうだ。
腹一杯食べて、いろんなとこ旅して良い景色でも見て、良い相手がいれば恋もすればいい」
生きるということは難しい。
その日を暮らしているだけでも生きているのだがそれではただ生きているだけである。
目的や目標を持ち、日々の困難に立ち向かい、あるいは時として挫折をしたり立ち直ったりと楽しんだり苦しんだりすることも生きるということなのだ。
フォダエはオルケに生きるだけでなく生きていることを楽しんでほしいと考えていた。
「ただ仮にまだやりたいことが見つかってなくて良い」
「なんでですか……?」
「やりたいことを見つける。
これもまた生きるってことだ」
ドゥゼアもゴブリンに転生する中で時として生きる目的を見失ったこともある。
ぼんやりとして目的もなくただ生きていただけだったあの時は生きていたのだけど死んでいるのと変わらなかった。
何でもいい。
生きる目的を持つこと。
目的を何か見つけたいという目的でもいい。
前を向いて歩いて生きることが大切なのであるとドゥゼアは思っている。
「まずはフォダエが叶えたかったこと、2人でやってみたかったことを叶えてみればいい」
優しい声色だった。
「お嬢様がやりたかったこと……お嬢様とやりたかったこと」
「そうだ。
そしてその中でオルケ自身がやりたいことを見つけていけばいい」
「見つかりますか?」
「分からない。
でも探すことが大切だ。
フォダエにも頼まれたし俺たちも手伝うから」
「…………うん。
ありがとうございます」
少し落ち着いてきたオルケ。
一定のリズムで背中を叩いてくれるのが妙に心地いい。
「パンパカパーン!
危なかったであーる……あーれ?
ちょっとタイミング悪かったであるかな……」
オルケがいつの間にか眠りかけてしまっていると愉快にバイジェルンが現れた。
しかしバイジェルンも空気を読めない子ではない。
サッと状況を把握してそっーとユリディカの肩に移動していたのであった。
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