ゴブリンはリザードマンを仲間にしました2

 危険を乗り越えたのだ、多少の贅沢をしてもいいだろう。

 むっしゃむっしゃと食料を食べて戦いの疲労を回復させようとする。


「……なんか多くない?」


「多いな」


 荷物に入っていた食料はそんなに多くなかったはず。

 道中食べていたので補充が必要だななんて思っていたのに今は満腹まで食べてもまだ食料は余っている。


 というから見覚えのないものも結構入っている。


「フォダエだな」


 人里に行くたびに偽装として食料品も買っていたフォダエの屋敷にはいくらか溜め込んである食料が置いてあった。

 どうせこの先使うこともない。


 けれどそのままにしておくのはもったいない。

 なのでドゥゼアたちのリュックに詰め込んでくれていたのである。


 非常にありがたい話である。

 ろくにお礼もできないというのが心苦しい。


 だがしかしフォダエがまだ倒されていないという希望も捨ててはいない。

 オルケはまだ起きないしドゥゼアはレビスとユリディカにオルケを任せて少し森に入る。


 と言っても2人の目も届くぐらいの浅いところ。


「おい、いるだろ?」


 手にはアラクネの玉。

 これをなくしたら大変なところだったので本当にフォダエには感謝である。


「…………いない、のか?」


 どこかしらでクモが見ているはずと思ったが反応がない。

 もうちょっと奥にいかなきゃいけないかなと思ったら目の前にスーッとクモが降りてきた。


 バイジェルンよりも小さくてクモがいると思って周りを見ていなきゃ気が付かないところであった。


「よう」


 ドゥゼアが手を振るとミニクモも手をふり返す。


「この森に死んでなきゃバイジェルンってクモがいると思うんだ。

 探してここにいると伝えてくれ。


 もしいなかったらその時は話せるクモの派遣を頼む。

 分かったか?」


 ミニクモは左右に揺れて了解の意を示した。


「じゃあ頼んだぞ」


 あとはクモの連絡を待つしかない。

 ドゥゼアはレビスたちのところに戻る。


「……なんだ?」


 ビエエッとひどい泣き声が聞こえてきてドゥゼアは思わず顔をしかめた。

 戻ってみるとオルケが起きていた。


「放してください!

 お嬢様のところに行かせてください!」


 実はドゥゼアは寝ているオルケの手足を縛っていた。

 起きてどんな状況か理解しようとしまいと暴れ出す可能性が大きいことは予想していた。


 だから荷物の中にあったロープで暴れ出してもいいように縛っておいたのである。


「目を覚ましたか」


「ドゥゼア。

 オルケ暴れる」


「まあ分かってたことだな」


「お嬢様が……お嬢様がぁ!」


 オルケの様子からすると状況は半分ぐらい理解しているようであった。

 フォダエが残って時間稼ぎしようとしていたことは分かっているみたいだがどれだけ時間が経ったのかとか、何が起きたのかとかはまだ理解していない。


「落ち着け」


「落ち着いてなんていられませんよ!

 今戻ればまだ間に合うかもしれないんです!


 私はお嬢様を1人で死なせなんか……」


「もう遅い」


「………………えっ?」


「……もう、手遅れだ」


 確認したわけじゃない。

 けれど無事だったらリッチのフォダエはすぐにでもここに来ていたはずだろう。


 それなのにいまだに姿を現さない。

 戦いの結末はドゥゼアも知らないけれどフォダエが倒されたことはまず間違いないと言っていい。


 言葉を濁して伝えるよりもここははっきりと言ってあげねばならない。


「どうして……」


 薄々勘づいていた。

 フォダエが残ってオルケを逃がそうとしていたこと。


 レビスやユリディカの表情は暗く、いくら泣き叫んでもフォダエが周りにいない。

 フォダエがどうなったのかなんとなく察していた。


「どうして!

 なんで私を連れてきたんですか!


 どうして!

 ……どうして私を置いていったんですか…………」


 オルケの目から大粒の涙がこぼれる。

 受け入れがたい現実にオルケは大きな声をあげて泣く。


 ドゥゼアはそっとオルケの手を縛ったロープを解いた。

 手で顔を覆ってオルケは泣き続ける。


 なぜだと問うても疑問をぶつける相手はもうすでにいない。


「こんな体……いらなかった!」


「オ、オルケ!」


 ひどく頭を地面に打ちつけ始めたオルケにユリディカが慌てる。

 額が割れて血がにじむ。


「私は……私はお嬢様が居ればそれでよかった!

 なのに、なのに!」


「……満足か?」


「あなたに何がわかるのですか!」


「ドゥゼア!」


 オルケはドゥゼアのかかっていった。

 ドゥゼアを押し倒して手を伸ばして首を掴む。


 折れてしまいそうなほどの力にドゥゼアは顔をしかめる。

 しかし抵抗もしなければオルケを槍で刺そうとしているレビスを手で制した。


「ま、満足か?

 フォダエは命をかけていた……


 命をかけてお前を救い、お前にその体を授けた。

 そんな体を自分で傷つけて満足なのか?」


 額から流れる血が涙と混じり、まるで血の涙を流しているかのよう。

 ドゥゼアの言葉を受けて首を絞める力が弱まる。


「その体はフォダエが全てをかけたものだった。

 今一度オルケに生を与えたいとただ一心に願ってのものだろう」


「わがっでいます……でも、でも私は!」


 一緒にいたかった。

 たとえ骨の体であっても一緒にいられればそれでよかった。

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