ゴブリンは生きるものの未来を進みます3
まだ他にも冒険者もいるしフォダエが勝てる可能性はほとんどないとドゥゼアもフォダエ自身も分かっている。
「ダメですよ!
お嬢様が残るなら私も……」
「スリープ」
「な……お嬢…………様……」
フォダエはトンとオルケの頭に杖を当てると魔法を使った。
杖の先が淡く光ってオルケは急激に眠気に襲われた。
スケルトンだった時には感じることはなかった眠気に抗えるはずもなくオルケの意識はまどろみに落ちていく。
「こんなことになってごめんなさい……
それでも私はあなたに生きてほしかったの」
こういう時スケルトンの体はずるいなとドゥゼアは思う。
その感情がいかなるものであれ顔に出ることがない。
ユリディカとレビスなんて泣きそうになっているのに。
「行って、早く」
「フォダエ、気をつけろよ」
「……あなたは本当にゴブリンじゃないみたいね」
「よく言われる」
ドゥゼアたちが隠し通路の奥に消えていく。
フォダエは隠し通路の扉を閉めて部屋の中にただ立ち尽くす。
程なくして階段を降りてくる音が聞こえてきてジジイを中心とした冒険者たちが地下にやってきた。
『……お前1体だけか。
他にいたゴブリンはどうなった』
フォダエは答えない。
ジッと立ったまま虚空を見つめる。
『答えないのであればそれでもいい。
お前を倒して追いかけるとしよう』
『ふふ……できるならやってみるといいわ』
『元が人間ならば驚くこともないか』
フォダエは答えた。
瞳のない虚な穴のような目をジジイに向けた。
「あーあ、私も恋ぐらいしてみたかったな」
『これは……
全員リッチを攻撃しろ!』
空気が震え出した。
フォダエの魔力が高まっていき、その危険性を誰もが肌で感じていた。
ドゥゼアたちは屋敷の範囲内から抜け出した。
ただ時間を稼いでやられるだけで隠し通路の存在も見つけられてしまうかもしれない。
ならば。
消し飛ばしてしまおう。
全てを。
愚かなものどもに見せつけてやるのだ。
大人しく静かに暮らしてきたリッチに手を出すとどうなるのかを。
『させるか!』
冒険者たちが一斉にフォダエに襲いかかる。
「終わりよ」
『なっ……』
閃光。
光がその場を包み込んだ。
フォダエの全てをかけた大きな爆発が起きた。
多くの冒険者の犠牲者を出したフォダエは後に凶悪なリッチであったと語り継がれることになる。
地下で起きた爆発は屋敷を破壊してせっかく建てた立派な屋敷はただの木片の山になった。
その周りには冒険者と骨の死体が積み上がり、戦いの喧騒は消え去り風に揺れる枝葉の静かな音のみが穏やかに響き渡る。
「クッ!」
崩れて重なり合う木片の中から骨の手が伸びてきた。
ジタバタともがくように動いて少しずつ出てくるフォダエ。
「もう……空っぽね」
なんとか抜け出したフォダエは木片の上にへたり込む。
杖に溜め込んでいた魔力、そしてリッチの第二の命であるライフベッセルにある魔力も使い果たした。
もう魔力はほとんど残っておらず普通のスケルトンにも勝てないほどフォダエは弱っていた。
「でもなんとか……」
全てを引き換えにして冒険者たちを倒した。
しばらく隠れて過ごすことにはなりそうだけどここまですれば自分も倒されて相打ちになったような状況にも見えるはずだとフォダエは思った。
「待っててオルケ。
今……」
立ちあがろうとした瞬間だった。
グッと木片が盛り上がって下から人が飛び出してきた。
「な、なんてこと……」
出てきたのはジジイだった。
頭から血を流してはいるが命に別状はなさそうでピンピンとしている。
逃げようとして足がもつれてしまい、フォダエは後ろに倒れる。
ジジイはゆっくりとフォダエの方に歩いていく。
「そう簡単にはいかなかったわね……
私なんかよりよっぽどあなたの方が化け物。
ごめんね、オルケ。
私は先に……」
ジジイは手に持った剣を真っ直ぐに振り下ろした。
全ての魔力を使い果たして抵抗もできないまま真っ二つに切り裂かれた。
『オーデン様!』
冒険者が1人、ジジイのところに走ってきた。
『これは一体……』
『リッチの最後の足掻きだ。
まさか魔力を使って自爆のようなことをするとはな』
『ともかくご無事で何よりです。
……こちらの方は成功しました』
『1匹も逃さなかったか?』
『もちろんです。
ゴブリンを逃すはずがありません』
『そうか、よくやった』
『批判はありそうですけどリッチは倒したのですし、相手の危険性を強調すれば矛先も変えられそうですね』
『…………』
『何か心残りなことが?』
『この場にもゴブリンがいたのだ』
『そんなまさか』
『どこに行ったのかは知らないがあの爆発に巻き込まれたのなら無事ではいないはずだが……』
『ですがここをひっくり返して探すのも……』
『分かっている。
ともかく帰ろう。
流石の私も疲れた』
『はい。
目的は達成しましたので』
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