ゴブリンは生きるものの未来を進みます2
「すごく……体が重い」
長らく感じておらず忘れていた肉体の感覚にオルケは困惑する。
頭にかすみがかかり、手足が重たくて動かしにくい。
声を出そうにも喉が締まって上手く声も出せなくて口の中がパサパサに乾燥している。
でも感覚がある。
呼吸をするたびに少し埃っぽくてカビ臭い。
スケルトンの体だと分からなかったニオイを久々に感じる。
胃が空っぽで気持ちが悪い。
「良かった……実験は成功ね」
「ご主人様……」
望んだ結末ではないが魂の移し替えには成功した。
「それにしてもこれからどうするつもりだ?」
屋敷はすでに冒険者に包囲されている。
虫1匹ですら見逃さないように警戒をしているだろう。
それもどころが地下から脱出することだって厳しいはずだ。
成り行き上こんなことになってしまった。
コイチャは意識を取り戻してピュアンと共に死に場所を決めた。
もはや付き合う理由もない。
(しかし逃がしてくれる訳がないよな……)
ドゥゼアはジジイを思い出す。
理由も分からないがとても恨みのこもった目をしていた。
リッチを前にしながらもドゥゼアの方を睨みつけていた異常なジジイがドゥゼアを逃してくれるなどとは思えない。
逃げる手立てがなかったらこのまま地下に追い詰められて終わりになってしまう。
「もちろんあるわよ。
人に襲われることだって想定はしていたわ……考えたくはなかったけど」
フォダエは白いリザードマンとなったオルケに体の回復を促すポーションを渡すと壁のほうに歩いていった。
壁に設置されている松明を差しておく台に手を伸ばすとグッと上に押し上げた。
するとその横の壁が開いた。
隠し通路である。
「ここを進んでいけば森の外に出られるようになっているわ。
念のためと思って時間かけて作ったけど役立つ時がくるなんて……」
「フォダエ?」
「コイチャが……やられたわ」
未だに一応コイチャはフォダエとつながっていた。
戦っているような気配は薄々感じていたけれどとうとうコイチャの気配が消えてしまった。
「オルケ、動けるかしら?」
早く逃げなきゃならない。
「待って……うっ」
ポーションを飲み干したオルケは台から降りて立ち上がろうとするけれど上手く足に力が入らない。
重さのある体が久々なこともあるがしばらく封印されていた体なのでそうしたところでも弱っていた。
なぜか自分がどう立っていたのかすらオルケは思い出せず台を支えにしてどうにか立ちあがろうとする。
「ユリディカ」
「分かった」
ユリディカがオルケのことを支えて立たせてあげる。
体格にもドゥゼアたちよりもユリディカの方が近いからいいだろう。
ヨタヨタと歩いて隠し通路に向かう。
「フォダエ、行かないのか?」
逃げるための隠し通路なので複雑な道にはなっていないだろうがどうなっているのか知っているフォダエが先頭を行くべきだ。
そう思ってドゥゼアはフォダエを見たけれどフォダエは動かない。
「……私は行かないわ」
「ご主人様?」
「もうすぐそこまであいつらが来ている」
コイチャがやられたことから分かりきっていたことだが冒険者たちが近づいてきている。
「私が一緒に行ったらきっとあいつらはどこまでも追いかけてくるわ」
「じゃあ、どうするつもりなんですか!」
どうするつもりかと口に出したがみんなフォダエがどうするなのか薄々感じていた。
「私はここに残るわ」
「ご主人様!」
「オルケ、ごめんなさいね。
私のわがままで、あなたをこんな風にして、こんなに長いこと付き合わせて」
「ど、どうしてそんなことを言うんですか……」
「ドゥゼア、お願いがあるの」
「なんだ」
「オルケを、この子を頼むわ」
「そんな!
ご主人様が残るなら私も!」
「ダメよ。
せっかくまたあなたは生き始めたのに」
オルケの目から涙が流れる。
どうしてだろう、フォダエの目からも涙が流れているようにドゥゼアには感じられた。
「でも!」
「じゃあ……1つ頼まれてくれない?」
「何を……ですか……」
「私の代わりに幸せになってほしいの」
「し、幸せ……?」
「私は結局子供を作るどころか恋人も、男の人と手を握ることもなかったわ。
だからあなたにはそんな幸せな生活を送ってほしいの。
魔物の体じゃちょっと難しいかもしれないから頑張らなきゃいけないわ」
「そんなのご主人様が自分で……」
「それにあなたはもうスケルトンじゃないんだからご主人様なんて呼ばなくてもいいのよ。
昔みたいにお姉様とかお嬢様でもいいわよ」
「フォダエ……お嬢様」
「お願い……最後のわがままよ。
行って。
行って……幸せになって」
「イヤ、イヤです!」
「ドゥゼア、お願い、聞いてくれるかしら?」
「出来る限りのことはしよう。
ただゴブリンに期待はするな」
「……あなたなら大丈夫よ。
なんならオルケを幸せにしてあげてほしいわ」
「それはちと荷が重いかもな。
俺だけの話じゃないしな」
「オルケのことを頼まれてくれるだけでも嬉しいからこれ以上は言わないわ。
……お礼もできないのは心残りだけどあなたたちが困らないようにはしておくわね」
「出来るならあのジジイを倒してくれればな」
「なかなか厳しそうね」
オルケの魂を移すのにも魔力を使ってしまった。
万全の状態でも倒せるか怪しいと思ったほどの相手だったのに今の状態で勝てるはずがない。
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