ゴブリンはスケルトンナイトと鍛錬します2
コイチャはドゥゼアに追撃を仕掛けてこない。
剣を構えて待ち受ける。
本来なら強くもなく知性も感じないような魔物であるスケルトンなのに気高いような余裕を感じる。
「ふっ……すごいな」
このように戦ってくれるなら冒険者が実力試しをしたくなるのも納得である。
ドゥゼアは再びコイチャにかかっていく。
突っ込んでくるドゥゼアに合わせて剣を振り下ろす。
ドゥゼアも振り下ろされた剣に短剣をぶつけるが今度は正面から受け止めようとはしない。
上手くコイチャの剣の力を受け流す。
それでも勢いに乗ったコイチャの剣の力が強くて腕は痺れるがなんとか受け流すことができた。
これが短剣でなく剣ならば、そして普通の人だったならばと思った。
剣だったらなら浅く胸でも切り裂いていたかもしれない。
コイチャは上体を逸らしてドゥゼアの短剣をかわした。
「グッ!」
素早く剣を返すコイチャにドゥゼアの肩が浅く切れる。
ドゥゼアは大きく飛び退いて距離を取る。
「……ありがとう。
なかなか楽しかったよ」
ドゥゼアはそのまま後退してラインから外に出る。
コイチャは追いかけてくることもなくドゥゼアが離れるのを見届けると剣を下ろして再びぼんやりと立ち尽くした。
あくまでもコイチャにとっての優先は渓谷を守り、人をそれ以上行かせないことでピュアンを逃すことなのだ。
「ドゥゼア!」
「大丈夫?」
ユリディカとレビスがドゥゼアに駆け寄ってくる。
チクートを装着するとドゥゼアの肩に手を当てて傷の治療をする。
「やっぱり正面からだとキツイものがあるな」
勝てるだなんて思ってはいなかった。
けれど意外と戦いにおいては完敗ではない。
パワーや耐久性の高い魔物の戦いの中では能力の低いゴブリンは全くと言っていいほど歯が立たない。
しかしコイチャとの戦いのように技術も駆使した戦いになるとドゥゼアもそんなに劣ったものじゃないのである。
コイチャの戦い方がキレイであることも大きい。
力を押し付けるような剣の戦い方ではなく、丁寧で見本にしたくなるような基礎に忠実な戦い方をしている。
ユリディカのおかげで肩の傷はあっという間に治った。
もう少しコイチャから距離を取ってどう倒すかを考える。
「優秀な騎士だったのだな」
聖女の護衛を任されるほどの人物なのだ、生前の実力など想像に難くない。
魔物になって、その状態で時間も経過しているしかなり弱体化しているはずなのにそれでも強い。
「……少し時間をかけるか」
人間の冒険者はコイチャを倒すつもりがあまりない。
今は実力試しになっているからなのだけど長い時間残ってきたのにはわけがある。
渓谷があまり使われない場所であるからだ。
往来することもできるけれど別の道がある。
特別コイチャを倒しても交通の便が良くなることもないような場所がこの渓谷なのである。
だから放置されてきた。
時に挑む人がいたのだろうけどスケルトン1体倒しても旨味はないのでレベルの低い冒険者しか挑まなかったのだろう。
今すぐに無理をして倒す必要もドゥゼアたちにはない。
リスクを減らすために相手のことを知っていくのも時間と機会があるならやってしかるべきことである。
「ついでに少しばかりレビスの鍛錬でもつけてもらおうか」
「わ、私?」
驚いて表情を浮かべるレビス。
「ああ、相手は正当な技術を身につけている。
無理をしなきゃ追撃もしてこないし俺とはまた違った経験を積めるはずだ」
さらにコイチャに協力してもらってレビスの更なるレベルアップを図るつもりもあった。
ドゥゼアが戦い方を教えているが実戦経験に勝る成長の機会はない。
ある程度の危険もありながら逃げられる安全もあり、コイチャの実力は高くあってドゥゼアともタイプが違う。
人の冒険者と戦うこともこれからあるだろう。
慣れておいて損なことなど全くない。
「強化なら任せて!」
「まあユリディカもやってもらうぞ」
「ええっ!?」
「当然だろ」
レビスがメインで考えているけれどユリディカだって戦闘経験は少ない。
離れて強化していればそれでいいなんてことはないのでユリディカにももちろん戦ってもらうつもりである。
「……構わないか?」
ドゥゼアはピュアンを見る。
どうしてもすぐに倒してほしいというのなら卑怯な手を使ってでも倒すぐらいの気はある。
「あの人は後輩に教えてあげたりすることも好きでした。
だからみんなに慕われていました。
きっとドゥゼアさんたちに教えてあげることも、本人の意思があったなら快諾したと思います。
死んでもなお役に立ったんだと思たら私も、あの人もちょっとは良い気分でいられるかもしれません」
「……じゃあ決まりだな」
そんなことでドゥゼアは少しの間渓谷に留まりコイチャを相手に経験を積むことにしたのであった。
ーーーーー
「う、うま!」
コイチャと戦うのに渓谷に留まることにはしたのだけどコイチャは今や冒険者の間でも実力試しとして話が広がっている。
いつ他の冒険者が訪れるのか正直不安なところがある。
渓谷では身を隠せず、その上後ろから冒険者が来てしまったらコイチャと挟み撃ちにされてしまうことになるからだ。
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