ゴブリンはスケルトンナイトと鍛錬します3

 まずどこか隠れて休む場所が必要だと思った。

 周辺を探してみるとちょうど良い場所があった。


 渓谷の壁に穴が開いていて中に空間が広がっていたのだ。

 人が入るには厳しいぐらいの穴の大きさで広くないが少し休む分には良いぐらいの広さはある。


 そこを拠点としてコイチャに挑んでいくことにした。

 腹が減っては力も発揮できない。


 穴の近くにあった岩陰で火を焚いてご飯を食べることにした。

 ゲコットから買った食料品が今はある。


 パンをスライスしてチーズと干し肉を軽く火で炙って乗せる。

 これだけで十分立派な料理である。


 一口食べてユリディカの目が輝く。

 これまで弱い魔物を捕らえて食べてきて、干し肉にも感動していたがチーズやパンは初めてで美味しさにドゥゼアが作ったものをあっという間に平らげた。


 最近強化や癒しの力を練習で使うことも多く消費が激しいのかユリディカはよく食べる。

 レビスはちゃんと自分の分は確保してユリディカに取られないように隠してのんびりと食べていた。


「人間ってすごい!」


 パンもチーズも美味い。

 干し肉はやっぱり生には敵わないけど長時間保存が効くというところですごい。


 だけどゲコットから買った干し肉は良いものでかなり美味しい。

 調味料も買ったので食べ物の幅も広がった。


「さらに今日は特別に……」


 ドゥゼアはリュックを漁って紙の包みを取り出した。


「…………そんな見られてると気まずいぞ」


 それがなんなのかユリディカも分かっている。

 目を輝かせてヨダレを垂らしながら激しく尻尾を振っている。


 熱い視線に流石のドゥゼアも気まずさを感じる。

 それどころか襲いかかってきそうな雰囲気すらある。


「3歩下がれ。

 欲しいならな」


「うぅに……分かった」


 ユリディカはヨダレを拭きながら3歩下がる。

 ドゥゼアが包みを開けるとそこに入っているのはお菓子であった。


 これもゲコットから購入したものだ。

 買った初日に試食したのだけどユリディカはお菓子が痛く気に入ったらしい。


 レビスも同じみたいだけどやっぱり女性ということなのかもしれない。

 お菓子といってもこちらも日持ちするように固く焼いてある。


 ただしそれも人基準でのお話。

 魔物基準でみるとそんなに固さも気にならない。

 

 さらに人基準でみるとお菓子もそんなに美味しいものではない。

 味よりも持ち運べることを優先しているのでしょうがない。


 だがこれも他のお菓子を食べたことがない魔物や超がつくほど久々にお菓子を食べる魔物では事情が違う。

 こんなに美味かったものかとドゥゼアも感心した。


 次いつ食べるのと無邪気な子供のようにユリディカはドゥゼアに何度も聞いて相当楽しみにしていた。

 コイチャのところに無事辿り着いたのだし労いも兼ねてお菓子を食べることにする。


 ドゥゼアがお菓子を摘み上げるとユリディカの目はお菓子に釘付けになる。

 右に動かせば右に目が動いて、左に動かせば左に目が動く。


 ちょっとだけ面白いけどこれ以上ヨダレを垂らされると狭い穴蔵がユリディカのヨダレでビシャビシャになる。

 ドゥゼアとユリディカとレビスでお菓子を分ける。


 バイジェルンにもあげるのだけど体格的に少しで構わず、ピュアンは食べられない。


「ほら」


「ドゥゼアぁ……」


「ありがとう」


 ドゥゼアは自分の分を1つ半分に割ってユリディカとレビスに分け与える。

 美味いと思うがそんなにたくさんは食べなくていい。


 ユリディカとレビスが気に入っているなら少しだけどお菓子をあげる。

 ニッコニコしてお菓子を受け取るユリディカ。


 レビスも喜びが隠しきれないのがどうしても笑顔になってしまっている。


「今はこんな物もあるのですね。

 私も食べてみたいのですがこの体は食べ物も必要なければ舌で味わうこともできませんから」


 ピュアンはお菓子を感心したように覗き込む。

 ピュアンが生きていた時代にはこのようなものはなかった。


 猫の置物に魂が乗り移ったピュアンであるが体はあくまでも置物のまま。

 体全体の間隔は非常に鈍い。


 何か触れるような感覚はあるのだけどそれぐらいで嗅覚も味覚もない。

 物を食べても口の中に物がある感覚があるだけで飲み込めもしないし味も感じない。


 食べ物いらずの便利な体と前向きに捕らえているがなんの楽しみもないようなつまらない体でもあるのだ。


「きっと生きてた頃のあんたの方がいいもん食ってるさ」


 何もないから美味いのであってこのお菓子は食べ物の中ではかなり下の方の美味しさである。

 旅の中でのほんのわずかの楽しみのようなものでお金に余裕ができたら買わない人の方が大多数を占める。


 モサモサとお菓子を食べる。

 まだおいしくは感じられるけどこれなら砂糖舐めてた方が美味いかもしれないとは思い始めている。


 でも砂糖はまだまだ切り札なので温存しておく。


「美味いである。

 大変美味である」


 バイジェルンもなんだかんだうまいうまいとたべている。


「食べ終わって少し休憩したらコイチャに挑みに行くぞ」


「分かった!」


「うん、頑張る!」


 お菓子も食べてやる気いっぱい。

 ちょっと腹ごなしにお昼寝してからドゥゼアたちはコイチャのところに向かった。

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