ゴブリンはアンデッドの所に向かいます4

 また、相手の体に魔力を流して込んで強化とはどんな感じのものなのか体験させてやることもできない。

 口でこうと言っても魔力の感じ方もそれぞれ違うので難しいのだ。


「まあ無理はするな」


 出来なくともそれは今までと変わりがないというだけの話なのだ。

 むしろチクートという武器を手に入れたのだからその時点でユリディカは強くなったと言ってもいい。


 無理なことをする旅ではない。

 強くなれるならそれに越したことはないけれどゆっくりでも構わないのだ。


 こうした余裕が男らしいともピュアンは思った。

 強化の力なんてすごい物欲しいだろうにユリディカを第一に考えている。


 他の魔物にはない魅力。

 レビスとユリディカが惚れ込むの納得だ。


「使えない力じゃないしな」


 冒険者の戦いの時にはレビスを強化できていた。

 戦いの後にはドゥゼアの傷を治した。


 癒しも強化も出来るということは確認済みなのだ。


「あっ、そういえばこの辺りはウルフのナワバリなので気をつけるである……おそかったであーる」


「そうだな」


 思い出したように警告を口にしたバイジェルンだったけど時すでに遅し。

 まるでタイミングを図ったかのように目の前にウルフが現れた。


 もう少し早く警告してくれていたらもうちょっと慎重に動いていたのに。

 遭遇したのは本体の群れではない。


 見回りのような小さい集団で3体のウルフしかいない。

 それでもドゥゼアたちにとっては十分な脅威になる。


 見逃してくれればと思うのだけどウルフたちは歯を剥き出してドゥゼアたちの方にゆっくりと歩みを進めてくる。

 逃げようにも後ろの障害物は少ない。


 真っ直ぐ走ったところでウルフの足には到底敵わない。

 ドゥゼアが荷物を下ろして短剣を抜いたのを見てレビスもユリディカも同じく戦いの準備をする。


 ドゥゼアとレビスだけなら厳しいがユリディカもいるなら全体的な戦力は互角ぐらいにはなる。


「ユリディカを中心に一体ずつ仕留めていくぞ」


 先頭に立つドゥゼアにウルフたちはジリジリと距離を詰めていく。

 一息に飛びかかれる距離まできてウルフはドゥゼアの様子をうかがうように動きを止めた。


 張り詰めた空気。


「へくちっ!

 である」


 クモってクシャミするんだ。

 などという疑問を持つ前にウルフの1匹がドゥゼアに飛びかかった。


 冷静で無駄がない。

 そそくさとバイジェルンと共に距離を取っていたピュアンはドゥゼアの動きを見て驚いた。


 ドゥゼアはウルフの爪をかわしながら足を切り付ける。

 ゴブリン相手であると確実に油断している。


 足を切り付けられてわずかに着地に失敗したウルフだったが振り返ってもドゥゼアは追撃を仕掛けていなかった。

 警戒すべきはドゥゼアではない。


 ウルフは腹部に強い痛みを感じた。

 ドゥゼアがどう動くのかちゃんと見ていた。


 足を切られて動きが鈍ったウルフは思わぬ反撃を繰り出したドゥゼアに気を取られてしまった。

 その隙をついてレビスは槍でウルフを突き刺した。


「はあっ!」


 今度は2匹同時にドゥゼアに飛びかかってきていた。

 その1匹の頭をユリディカが鷲掴みにして地面に叩きつける。


 情けない声をあげてウルフが地面を転がり、ドゥゼアはもう1匹のウルフの噛みつきを下がって回避する。

 ユリディカがウルフに向かって走り出し、ドゥゼアもそれを見てユリディカとは逆側から攻撃を仕掛ける。


 挟撃。

 ドゥゼアの短剣とユリディカの鉤爪が判断をくだせなくて固まるウルフを切り裂いた。


「ドゥゼアさん、まだ来ています!」


「レビス!」


 ウルフの援軍が来た。

 もう2匹のウルフがレビスの方に走っていた。


 流石に2匹同時ではレビスも厳しい。

 素早くドゥゼアもレビスの方に向かうけれど間に合うか微妙なところである。


「ドゥゼア……もっと早く!」


 ドゥゼアがあと少しでも早く走れたなら。

 もっと力強ければ。

 簡単にウルフなんて捻り倒してくれるはず。


 レビスがもっと強ければ。

 最近だいぶ実力がついてきた。

 体の能力さえあればウルフになんて負けないはず。


 ユリディカは左手を伸ばした。

 チクートがユリディカの思いに呼応する様に淡く光った。


「……なんだ」


 地面を蹴った時の力強さが違った。

 手に持った短剣が軽く感じられ、体がこれまでにないほどにスムーズに動く。


 この感覚がなんなのか一瞬困惑したけれど不思議な温かさも感じて、すぐに理解できた。


「私も強くなった!」


 強化を受けたドゥゼアは速度を調整してレビスに飛びかかるタイミングでウルフのところに着いた。

 真っ直ぐに振り下ろした短剣がウルフの首を縦に切り裂く。


 剣が短くて切断しきれないけれど深く、半分ぐらいまでスパッと首が切り裂かれてウルフがそのまま地面に激突して転がる。

 一方でレビスも強化を受けていた。


 飛び上がって勢いをつけるのはいいけれどそうすると空中で身動きは取れなくなる。

 いかにも怖いけれど冷静に見ればそんなに脅威でもない。


 ドゥゼアは相手の動きを見切って少ない動作でウルフの攻撃を回避していた。

 レビスもそれを見習う。


 大きく飛び上がったウルフは大きく口を開いてレビスに噛みつかんとしている。

 左にはもう1匹のウルフ。


 ドゥゼアがどうにかしてくれるだろうけどそちらの方に回避はできない。

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