ゴブリンはアンデッドの所に向かいます3

 実際に身近にいたわけじゃないので話に聞いていただけで初めて見たがドゥゼアを見ているとそうした存在がいることも納得できた。

 魔物が人と交流を持つのは簡単じゃないだろうけれどきっかけさえあればドゥゼアならできそうだ。


「弱いのなら知識ぐらいはもたないとな」


 時間があれば事前の準備である程度どうにでもできることはこれまでの冒険でも立証済みである。

 非力なゴブリンであるからこそ知識を持たねばならない。


「なんというか、ちょっと人っぽいですね」


 魔物に対して人のようだというのが誉め言葉に当たるか疑問だがピュアンは褒め言葉のつもりだった。


「ふっ、ありがとう」


 ドゥゼアも褒め言葉として受け取った。

 まだ人らしさが残っているなら嬉しい限りである。


「その……ドゥゼアさんとレビスさんとユリディカさんはどういったご関係何ですか?」


 改めて思うのはユリディカの異質さである。

 ドゥゼアとレビスはゴブリンなので一緒にいても違和感がないのだけどワーウルフなユリディカはがどうしてゴブリンと一緒にいるのかわからない。


 見ている感じではユリディカはドゥゼアを慕っている。

 どのような経緯で仲間になることになったのか非常に気になる。


 それにゴブリンとワーウルフのカップリング。

 悪くねぇな、とピュアンは思わなくないけど奇妙な組み合わせである。


「つがい。

 ドゥゼアと私はつがい」


「えっ、ズルい!

 私もドゥゼアとつがい!」


 レビスが答えるのは早く、それに反応してユリディカも答える。


「……だ、そうだ」


「だそうだって……」


 その答えに思うところもあるがドゥゼアも特別否定はしない。

 もうレビスとユリディカとは一蓮托生、一生を共にしていくことはほとんど確定している。


 向こうがどんな思いを抱いているのかも知っている。

 仲間として連れましている責任も当然感じているし責任を取るつもりだ。


 人のように神の前で宣誓するとか、1人につき1人の伴侶と決まっているものでもない。

 共に命をかけて守りあい、大事に思うこの関係をなんだと聞かれたら仲間以上に大切なつがいだと言っても差し支えないだろう。


 互いが大切に思っているならそれでいい。

 その先にもしかしたら生殖行動などもあるかもしれない。


 今は流浪の旅の最中なのでそうしたことはあまり考えていないけれど。


「人の夫婦とは違うんだ。

 どんな形であれ互いを尊重し求めているならつがいだろう」


「そ、そうですか……」


「えっちなことばかり考えていてはいけないぞ」


「そ、そんなことありません!」


 実際にはそうしたことは考えた。

 アリドナラルは愛も司っているので夫婦間での営みも推奨している。


 むしろ尊いことなのだ。

 ただ一夫一妻で同じパートナーと添い遂げることも推している。


「ふへへ……つがい」


「ドゥゼアと……つがい」


 ドゥゼアが否定をしなかった。

 と言うことはつがいで間違いない。


 レビスもユリディカもそのことにニタニタしている。

 つがいになったから何が変わるわけでもないが認めてくれたのが嬉しい。


「そういえばこれから倒しに行くコイチャとは夫婦だったんだろ?」


「はい。

 彼は聖女候補だった時に私の護衛騎士をしてくれていたんです」


「護衛対象に手を出したのか?」


 ドゥゼアは驚いた顔をした。

 護衛の騎士が護衛対象に手を出すなんてもってのほか。


 非難されたり仕事をクビになったり、相手が貴族なら訴えられることもある。

 騎士と姫様の話は物語として聞くこともあるけれど実際にはそんなことあってはならないのだ。


「い、いえ!

 彼は悪くなくて……手を出したというか、手を出させた……と申しますか…………」


「なるほど」


 ドゥゼアはピュアンの人としての容姿は知らない。

 だがよほど好みから外れでもしない限り常に側にいる女性から好意的なアピールを続けられたら鋼の意志もいつか穿たれるものだ。


 ピュアンもやるものだと感心した。

 つまり護衛騎士であったコイチャから手を出したのではなく護衛対象であったピュアンから手を出すように誘惑したのである。


「批判なんかはなかったのか?」


「多少はありましたけど私が聖女になったので全部潰しました」


 強権、とドゥゼアは思った。

 聖女となって立場が出来れば批判が出る。


 しかし聖女としての権力を使って批判なんて振り払える。

 逆に聖女とならないのなら別に護衛騎士と結ばれようが誰にも文句は言わせない。


 どう転んでもピュアンには全く何も問題はなかったのである。

 聖女だからと言って純粋無垢なだけではない。


 けれどそんな始まりであったとしてもコイチャは魔物になるほどにピュアンのことを思って守ろうとしている。

 素晴らしい関係。


「愛し合っていたのだな」


「今でも愛しています。

 だからこそ彼を救ってほしいんです」


「ならユリディカが早く力を使えるように手伝ってやるんだな」


「うっ!」


「うぅ!」


 ユリディカとピュアンがグサリと痛いところをつかれた顔をする。


「言い訳じゃないですがこの体、魔力もほとんどなくて……」


 使い方を見せてやる。

 あるいは魔力の操り方を直接体に叩き込んでやるような方法もある。


 けれど今のピュアンには魔力がほとんどない。

 見本を見せてやろうにも出来ないのだ。

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