ゴブリンはワーウルフと出会いました2
人の声が聞こえてきた。
ドゥゼアとレビスは体勢を低くして構えるが周りに隠れる場所もない。
見つかったのなら戦うしかない。
武器を手に取って警戒するが人の姿は見えない。
それでもダンジョンに声が響いている。
何かを追いかけているようだ。
安全に行くなら声とは逆の方に行くべきである。
でもなぜか声の方が気になってしまった。
いつでも逃げられるよう心構えしながら声がした方に向かう。
他に冒険者の気配はない。
少し進んだ先はそれなりの広さの部屋になっていてそこに声の主人はいた。
『手間かけさせやがって!』
男の冒険者が何かを蹴っている。
蹴られているのは黒い塊で距離があってなんだかよく見えない。
『お前のせいでジヌーダが笑われるんだよ!』
『実際戦ってみるとそんなでもなかったな。
逃げ回ったり奇襲したりしなきゃ強くもないな』
『往生際悪く逃げ出したりするし、ほんとムカつく魔物だぜ』
どうやらやられているのは魔物らしい。
「ドゥゼア……」
弱いものがやられる。
当然の摂理で魔物でなく人であっても避けられない。
だから弱いから負けてやられる、殺されることは仕方のないことだ。
しかし弱いことを理由にして相手を虐げたり暴力を加えて弄んでいいなんてことはない。
元々弱いものイジメみたいなことは嫌いだった。
ゴブリンに転生して生きるようになってから弱いというだけで遊びで生かしてみたり、意味もなく攻撃を加えて楽しんだりとする奴がいて余計にそうした行為が嫌いになった。
ムカつくことがあって追いかけていたならさっさと殺せばいいのに。
わざわざ暴行を加えてうっぷんを晴らす必要などないのに。
「痛い……痛いよ……
どうして……」
ボソリと蹴られている魔物の声が聞こえてきた。
プツンと頭の中で理性の糸が切れる音がした。
「ドゥゼア」
飛び出そうとしたドゥゼアの前にレビスが出る。
「私も、いく」
止めようというのではない。
ドゥゼアが行くならレビスも行く。
軽率な単独行動は避けて時間があるなら作戦をしっかり考えて動きを想定しておく。
ドゥゼアがレビスに教えたことだ。
行くのなら構わないがなんの考えもなしに行ってはならない。
どちらかがそうしそうになったなら止める。
「……そうだな、すまない」
レビスの真剣な目にドゥゼアはハッとする。
また命をドブに捨てるところだった。
「俺は助けたい……というか、あいつらがやってることが気に入らない。
ぶっ飛ばしに行ってもいいか?」
「もちろん」
ついてくるだろうけどレビスの意思も無視してはならない。
仲間と認めたからにはドゥゼアの意思でのみ動くわけにはいかない。
「私もあいつら気に入らない」
魔物は元より人が嫌いだ。
魔物と人どちらの味方をするかと聞かれれば魔物になる。
複数人が寄ってたかって1体の魔物を痛めつけているとなればレビスも気分は良くなかった。
基本は他の魔物なんてどうでもいいが人が痛めつけていることも大きい。
一度冷静になって冒険者たちの様子を確認する。
相手は3人。
立ち位置としてはちょうどドゥゼアたちに背を向ける形となっている。
3人とも魔物の方に意識がいっていて周りを警戒していない。
うまくいけばドゥゼアとレビスで1人ずつ落とせる。
誰が強そうか見極める。
1番激しく怒って魔物を蹴飛ばしている男と冷静に笑ってその男と話している男が強そう。
残る1人は少し困った顔をして2人を見ていることから強さ的な立場では少し下のように見える。
奇襲でやるなら強い2人からだ。
相手が決まれば後は腹を決めて実行するだけ。
「いけるか?」
「いつでも」
「行くぞ!」
ドゥゼアとレビスが通路から飛び出して走っていく。
『このクソ魔物が!』
大きな声を上げている冒険者たちはゴブリンの小さな足音に気がつかない。
『2人とも、後ろ!』
1番初めに気づいたのは困り顔をしていた冒険者だった。
走ってくるゴブリンに気がついて声をかけたがもう遅い。
『くっ……がっ……なに…………』
『ダモン!
うわっ!
ガフッ……』
レビスは槍を構えて体ごと体当たりするように笑っていた男の背中に槍を突き刺した。
体に近く構えて勢いよく当たればゴブリンの力でも槍が体を貫通する。
続いてドゥゼアは魔物を蹴り飛ばしていた冒険者に飛びかかった。
ナイフを振り上げて首を狙う。
『なな……なんだよ!
ゴブリンなんて聞いたこともないぞ!』
このダンジョンにゴブリンは出ない。
出ると聞いたことがないゴブリンといきなり現れていきなり仲間がやられた衝撃に残された1人は剣すら抜くことを忘れて立ち尽くす。
『痛っ!
クソッ……ゴブリ……うわっ!』
槍を抜くのを早々に諦めてレビスが石を残された冒険者に投げつけた。
意外といいコントロールをしていて目の上にヒットする。
痛みに顔を逸らした。
完全にドゥゼアのことを視界から外してしまった。
強い衝撃を受けて残された冒険者が後ろに倒れる。
『や、やめ……』
気づいた時にはドゥゼアの顔が目の前にあった。
首の横が妙に熱くなってそれが横に広がっていく。
呼吸が出来なくなってあっという間に意識が黒く塗りつぶされた。
ドゥゼアは残された男の首からナイフを抜いた。
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