ゴブリンはワーウルフと出会いました1

 眠ってしまったが予想通りに襲われることはなかった。

 しかしこれで分からなかった外の時間が完全に分からなくなってしまった。


 レビスも寝てしまっていたし、そもそもレビスにはあまり時間の感覚がない。

 どれぐらい寝てしまったのか、今外はどれぐらいの時間なのか。


 これは非常に大事。

 夜なら問題はないが昼であった時が問題となる。


「どうだ?」


「いる」


 慎重にモゾモゾと穴から外を確認するレビスの目に人の姿が見えた。

 ドゥゼアから穴に入ったので出る時にはレビスの方が前になる。


 外の様子はレビスに確認してもらうしかない。

 穴から出た先の部屋には冒険者がいた。


 察するに寝ている間に夜が明けてしまったみたいだ。


「どうする?」


「夜まで穴倉暮らしだな」


 実はまだ肩は痛いので休めるならその方がいい。

 

『あいつらまだ探し回ってんのか?』


『まあ仲間がやられたら気持ちが分からなくもないだろ』


『だからってずっとこもって探し回るのもなぁ』


 倒したのはコボルトで使えないからか地面に爪が放置されている。

 時間的に昼時が近いのか冒険者たちはそのまま食事をとり始めた。


『油断してやられたのは自分たちだってのにな』


『でもこれまでで最長なんだろ?


 初観測がいつか分からないけど逃走コボルトよりも長いこと生き残ってるらしいじゃないか』


『らしいな。


 トウコボは逃げるだけで被害もなかったからキャラクター扱いされてるけど今度のはそれなりに襲い掛かってくるからな』


 冒険者たちは緊張感もなくベラベラと大声で喋っている。

 危険度の低いダンジョンだからいいのかもしれないが遠足気分が抜けていなさすぎる。


 話してもいいがもっと声は落とすべきだ。

 話の内容は強化個体についてのようだ。


 今のところ見つかっているのはワーウルフとゴースト。

 どっちのことを話しているのかは会話の中身からでは掴めない。


 そして会話を聞いて思い出した。

 なんか食料品店の戸棚に謎のぬいぐるみが置いてあったなと。


 コボルトっぽいとは思っていたが本当にコボルトだった。

 その名もトウコボ君。


 冒険者を見ると一目散に逃げていくコボルトでなかなか捕まらずに結構長いこと生き残った不思議な魔物である。

 逃走するコボルト、逃走コボルト、トウコボと名前が変化した。


 今では倒されてしまったがそんな魔物がいたとよく話にのぼるらしい。


『まあ俺らには関係のないことだけどよ』


『そうだな。


 どうするのかも自由なのがこの仕事だからな』


『倒してくれるなら文句ねーしな』


『強化個体なんて危ないもんな』


 あんな冒険者なら倒せなくもなさそうだけど必要もないのにリスクを負うことはない。


『どうする、まだ昼ぐらいかな?』


『うーん、もうちょっと回るか』


 食事を終えた冒険者たちはまだダンジョンを回りに移動してしまった。

 話からしてもどうやら昼間の時間帯である。


 そのまま穴から外を覗いていると冒険者が何組か行ったり来たりしている。

 壁下に空いた小さい穴など気にする冒険者はいないのでバレることもない。


 時間が経って見かける冒険者の数も減った。

 肩の痛みも動かせば痛むぐらいまで落ち着いてきた。


「んん〜!」


 穴から出て体を伸ばす。

 流石に長時間狭い穴の中にいすぎた。


 伸ばすとポキポキと全身の骨が鳴って痛気持ちいい。

 ドゥゼアとレビスは軽く体を伸ばした後ダンジョンの攻略を続ける。


 といってもやはり入ってくる冒険者も多くて魔物以外のレアなアイテムドロップは望めなさそうだと思っていた。

 魔物の出現率はいいので魔石集めでもしておこう。


 強くなるには魔力の摂取が1番。

 しっかり飲み食いして魔力を補給できれば短命になりがちなゴブリンでも多少長生きできる。


 進化した時もそんな感じで色々食べていたはず。


「いや……進化した…………んだっけ?


 進化した……んー、思い出せない」


 何故だか急に記憶に自信がなくなった。

 一回だけ進化したような記憶があるのだけど本当に進化したのか思い出そうとしてもぼんやりとしていた。


「ドゥゼア?」


「あ……なんでもない」


 あまりにもゴブリンに転生しすぎてどのゴブ生でどう生きてきたのか思い出すのも楽じゃない。

 進化した時も過酷な状況であったし、結果的にすぐに死んでしまった。


 何かの記憶と混ざってぼやけているのだとドゥゼアは頭を振ってダンジョンに集中する。

 人では使い道が少ない小さい魔石でもゴブリンにとっては立派な食料であり、魔力の供給源となる。


 魔物が襲いかかってくる危険はあるが襲いかかってくるが故に狩りとして追いかけなくてもいいから楽な側面もある。

 ドゥゼアはレビスに槍の扱いも教えながらダンジョンを進む。


「降りてみるか」


 何となくダンジョンも一周してさらに下に向かう階段を見つけた。

 二階層のダンジョンなので次の階が1番深い階となる。


 魔物も一段レベルアップする。

 度々話に出てくる強化個体もこちらの地下二階に出てくる。


「より気を引き締めていくぞ」


 階段を降りていく。

 空気感の違いもなく特別なこともない。


『待ちやがれ!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る