第52話 響き渡る嗤い声

「オラァ!!!次ぃ!!!!」

「ぐ…………!!」


 殴り飛ばされたカウルを心配する暇も与えられず、ブレイズはワタシに突進してくる。

 残忍な表情には容赦など一切感じられない。


「この、ケダモノが……!!」

「……なぁに、この薔薇。ジャマなんだケド」


 即席の魔法で用意した薔薇の壁で奴の突進をなんとか防ぐ。

 しかし、今のワタシには自身を守り切れる壁すら作り得ない。そんなもの、暴走するブレイズ相手には三秒と持たなかった。


「やめろ!キノコ野郎…………!!」


 リリがブレイズへ向けて小銃を構える。

 右脇腹を撃ち抜かれた痛みに囚われる中、それでも重い銃を抱えるリリ。


「リリ!私には構うな!そのまま撃て!!」

「アハハハハ!道連れってヤツゥ?」

「すまねぇ、オバチャン……」


 間髪入れず、引き金を引くリリ。

 鼓膜を刺激する銃声と共に、無数の弾丸が飛んでくる。

 その光景を目の当たりにして、本当に自身が人間が嫌いなのかが分からなくなった。


 ──本来、私は人間など嫌いであった筈なのに。

 いくら恩返しだったとしても、いくらリリ達が善人だったとしても、自らの命を手放す事に戸惑いが無いとは。私が一番驚いている。


 まあこれも悪くはあるまい。


 ブレイズを道連れにして恩を返す。

 特に生に執着も無ければ、死ぬ恐怖も感じない。

 カウルの事は少し心残りだが、あの世へ行けばハクアにも会えるだろう。


「────イヤイヤ。そんな簡単にワタシが死ぬわけないでしょ?」

「そんな…………」


 瞼を開け視界に入ってきたのは、被弾した箇所から煙を出しているブレイズ。咄嗟に腕で防御の姿勢を取ったのか、腕にも被弾していた。

 銃火器ですら決定打になり得ず、リリが微かに声を漏らし落胆している。


「……これじゃ私とお前、どちらが本当の化け物か分からないな」

「混ざっているモノが悪魔か魔法武具か、ただそれだけの違いだネ。……まあワタシの方が頑丈だったみたいだケド!」


 ブレイズの振り向きざまの裏拳が見事に私に命中する。

 意識ではその攻撃を捉えてはいたものの、避けられる力は残っている筈も無かった。

 カウルと同様にかなりの距離を殴り飛ばされた。


 冷えた床面が意識を飛ばす事を許してはくれない。

 うつ伏せになりながらどうにか顔を上げて、状況を確かめる。


 そこには、一人でケタケタと高笑いをする化け物がいた。


 囚われの身であるサラ。

 右脇腹を撃ち抜かれ、気力を削がれたリリ。

 これまでの負傷の積み重ねと今の一撃で身体が限界を迎えた私。

 そして、連戦の上その身に余る暴力を受けたカウル。


 もう誰も、奴を止める事は出来ない。









「……………ドグ。早く、助けてくれ」

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