第51話 悪魔の壺
「………………」
一瞬にして静まり返る場。
あまりにも規模が大きい言葉に、誰も理解が追いついていない。
「まあ。当然知らないよネェ。キミたちはこの先の未来に必要のない人類だから」
「……滅ぼすとは大きく出たな。殆ど瀕死状態とはいえ、頭数だけで言えば相当な人数が未だ現存している。それらをどうやって滅ぼすと?百年間戦争してもなお残り続ける人々をどうやって殺す?」
「アハハハハ!魔女が人類の存続を憂いてるなんて、なんて滑稽なの!でも、その心配は杞憂だヨ。だってキミも滅ぼされるから」
「質疑応答がなってないな。私がそこに該当しているのはとうに察している。私が聞いているのは人類を滅亡させる方法だ」
私の返しにピクリと眉を跳ねさせるブレイズ。
奴の言葉に皆が恐れ慄くと奴自身思っていただろうが、私だけはそうも行かなかった。
このまま時が過ぎればワンという国にいる人間以外の人間はそのうち滅んでいくだろう。
だがしかし、それをあえて滅ぼすというのなら何かしらの方法があるはず。
人々の自滅を待つ訳ではなく、自らの手で滅ぼす手段が私には想像がつかない。
「眉唾だな。星が割れる程の地震や、星を砕く程の隕石が飛来すれば話は別だが。そんな天変地異を意図的に起こせる訳でもあるまい」
「────ねえ、魔女サン。悪魔の壺って、知ってる?」
「!!!貴様、何故それを」
ニヤリと最高に不愉快な笑顔を見せるブレイズ。
前髪を掻き上げて、そこから見える瞳が赤く光っていた。
本能で感じ取れる危険信号。その赤色を全員が刮目する。
「え〜と、ナンダっけ。
悪魔の壺。私がこれまで生きてきて僅かに耳にした事のある、最悪な代物。
最強の悪魔であるルシファーの涙がとある壺に滴り、満ちた事でその悪魔の壺が出来上がったという。莫大な魔力を有するルシファーから滴った涙は、涙であっても驚異的な魔力量を有する。
その絶大な魔力量を以ってあらゆる事象を起こす事を可能にするのだ。
「それこそ、地震を起こす事も隕石を降らせる事も可能ってワケ。奇跡程度じゃ起こす事の出来ない事象までも起こせちゃう、最高なブツなの」
そう。それは最早奇跡程度では無い。
奇跡を超えた神の領域、つまり神秘と呼ばれるさらに上位概念だ。
いつか人が至る技術や領域で起こされる、もしくは起こせる事象を現代で起こすのが奇跡。
いくら人類や文明が繁栄しようと起こす事の出来ない事象を起こすのが神秘。
未来で実現可能かどうかが奇跡と神秘の違いだ。
悪魔の壺の神秘性は願う内容ではなく、願ったらなんでも叶ってしまう所にある。
魔力を流せば機能する都合上、魔法武具と呼称されているが、実のところ神秘を起こす破格の性能を持った代物。
そんなモノが人の手に渡ってしまうなどあってはない。これでは世界のパワーバランスが変動してしまう。
「……参ったな。どうやら無計画という訳じゃないらしい。カウル、リリ、そしてサラ。今ブレイズを倒した所でどうしようもない終わりがすぐにやって来るのが確定した」
「そんな事があるのかよ、オバチャン!」
「母さん……」
気を削がれた皆を側に、ただ一人声を殺して嗤う者がいた。
「クククク。ソーユーコト。今ワタシをどうこうした所でキミたちに訪れる未来には変わりはないの。……まあだからと言って、そう易々と殺されるワケには行かないケド。ネェ?カウルくん、だっけ?」
「っ…………」
何やら様子がおかしい。
ブレイズの強みは魔法武具と呼ばれた銃を持っている事で、カウルによりそれは完封された筈なのだが何かがおかしい。
具体的には奴から感じられる魔力が異常な程躍動している。レッドゾーンまで回る魔力は皆に異変を感じさせた。
そして、ここからが本番と言わんばかりにブレイズは自強化を促す。
「言ってなかったっケ?ワタシのカラダ、魔法武具で改造してるコト。四割が魔法武具で出来ているの。……まあ、つまりは〜〜〜〜〜〜〜」
フッ、とブレイズの姿が消失する。
次に瞬きした時にはいなかった。
「が、は──────!?!?」
「ブッ飛ばしちゃうヨ〜〜〜〜ン!!?」
初めに得られた情報はカウルの鈍い声。
その次にカウルの無防備な胴にブレイズの拳がめり込んでいるのが見えた。
そして最後に、端の壁まで吹っ飛ばされ勢いよく叩きつけられたカウルが、床に倒れ込む所までをこの眼は捉えた。
「カウル……!?!?」
「
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