第49話 魔力の格差

「気をつけろ!奴の弾丸は魔力で出来ている!」


 私の叫びと同時に発射された弾丸。

 至近距離で銃で撃たれ避けられる者はいない。

 それは当然、カウルとて例外ではなく……、


「……母さん。僕は大丈夫だよ」


 ソレは確かに着弾した筈なのに、何故か平然としているカウル。私に振り向く余裕すらあった。

 引き金を引き撃鉄が落ちる音を皆が聴いた。

 ならば次の瞬間には撃ち抜かれるカウルを目の当たりにするのが自然だろう。

 しかし実際はその光景を見ることはなく、カウルは依然としてそこに立っていた。


「不自然だネ。キミ、一体何者?」

「君も魔力を使えるなら分かるでしょ。僕の正体は見破れなくても、君の魔力を弾いた理由を」


 カウルは生身でブレイズの魔力で出来た弾丸を受け止めた。

 魔力はより強い魔力に飲み込まれてしまう。

 魔法にもそれは同じことを言えるモノで、魔力量、質、数、総合的に上回る奇跡が他の奇跡を凌駕するのだ。

 魔法にしろ単純な魔力にしろ、度合いが近ければしばし拮抗する事もある。だがそこに圧倒的な差がある場合、弱い奇跡は跡形もなく朽ちていくのだ。


「失念していた。こと魔力勝負においてはカウルには私ですら及ばない。ならばカウルにとってはそんなモノ、オモチャ以下だろうな」

「コレがオモチャ以下……?」


 奴の銃は魔力によって弾丸が作られ発射されるモノ。威力は通常の銃弾の数倍以上と見込んでいる。

 手負いの私やただの人であるリリが到底耐えられるものじゃない。

 しかし、カウルに対しては魔力で機能するそのアドバンテージが逆に弱点となる。


「僕のことは魔力そのもの、魔法が人の形をしていると思った方がいいよ」

「ナニソレ。聞いたコトないんだけど。そんな摩訶不思議なコトがある訳ないでしょ……!?」


 ブレイズはやけくそ気味になって弾を乱発する。

 一発残らず次々とカウルに当たっていくも、それは壁を壊そうとガラスを投げているようなもの。

 いくら数を投げようと、純度に雲泥の差がある。

 より純度の高い魔力で構成されているカウルに対しては、たかが人の手で練り上げられた魔力など到底及ばず、カウルに当たった瞬間に形を崩している。


 だが、これがもし普通の銃弾であれば魔力など無視してカウルの体を穿てただろうに。


「もう分かったでしょ。君じゃ僕には勝てないよ」

「フザけるなぁ!!!!」


 カウルのその言葉を拒否するように、顔面へ向けてなおも放たれる銃弾。


「コレは人類の叡智の結晶の一つなの!!秘匿されるべき奇跡を道具に落とし込んだ、宝物なの!!だからこんなコト、あってはならないの……!!!」


 取り乱し、声を荒げるブレイズ。

 ピエロメイクのせいで得体の知れない不気味さがあったが、とうとう底が知れて今となっては不気味さの欠片も無い。ついでに僅かながらにあった品性も消失していた。

 相手と自身の力量の差も分からず、目の前の現実を否定する様に銃を乱射する。そんな幼稚さが露呈したブレイズの顔にカウルは拳を喰らわせた。


「ブベァ────!?」


 汚らしい声をあげて尻餅をつくブレイズ。

 豚の鳴き声かと錯覚するくらい実に品が無い。

 痛みに歪む顔が実に人間らしい。


「気は済んだ?いい加減、諦めた方がいいよ」

「……っ。キミ、たちは……知らないん、だ」

「一体何の話?」


 カウルが首を傾げると、ブレイズはまたも気味の悪い笑みを浮かべた。

 ニヤリと口角を上げる顔はサイコキラーのピエロそのもの。


 だが何故嗤っているのかが分からなかった。余裕を見せる為でも無く、ただ楽しい訳でもない。

 奴の意図を推測している時、ブレイズは奥の手と言わんばかりに驚愕の真実を明かした。


「ワタシを殺そうがどうしようがキミたちに未来が無いのは初めから確定しているの!」

「どういう意味?それ」

「オーデンバッハのご子息であり唯一国家の王である、ミーシェル王はこう仰られた……!」










「『我が国以外の人類を殲滅させる』とね………!!」

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